肥満症予防コラム「肥満と11の関連疾患」

11. 肥満と月経異常・妊娠合併症

肥満により月経異常および妊娠合併症が起こるメカニズム

 脂肪細胞から分泌されるレプチンの持つ生理作用のひとつに、生殖機能があります。体脂肪蓄積と血中レプチン濃度は比例するため、体脂肪量が極端に減少すると生殖機能不全が引き起こされます。バレリーナやマラソンランナーに月経異常がみられるのはこのためです。

 一方肥満の場合は、血中レプチン濃度が高値であるにもかかわらず、レプチン抵抗性の状態になります。生殖機能が障害され、月経不順や不正性器出血といった軽度の異常から無月経や不妊症といった様々な症状がみられます。

 また肥満の妊婦は妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの妊娠合併症にかかるリスクが高くなります。肥満も妊娠もインスリン抵抗性を高める状態であることから、2つが共存することで状態が悪化するためです。

診断基準

 19歳を過ぎても月経の無い原発性無月経と月経周期が確立された後に予定時期を2週間過ぎても月経をみない続発性無月経があります。月経不順は、月経周期あるいは月経持続日数が著しく正常(月経周期は25~38日、月経持続日数3~7日)を逸脱するものをいいます。

 妊娠高血圧症候群は

  • 収縮期血圧が140mmHg以上、160mmHg未満
  • 拡張期血圧が90mmHg以上、110mmHg未満
  • 蛋白尿が、原則として24時間尿を用いた定量法で判定し、
  • 300mg/日以上で、1日2g未満

 上記のいずれかに当てはまる場合は軽症です。

 一方、重症は下記のいずれかに当てはまる場合です。

  • 収縮期血圧:160mmHg以上
  • 拡張期血圧:110mmHg以上
  • 蛋白尿が1日2g以上

 妊娠糖尿病は、GDM(妊娠中にはじめて発見または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝以上)とovert DM(妊娠時に診断された明らかな糖尿病)に分けられます。それぞれの診断基準は以下の通りです。

GDM

 次の基準のいずれかに当てはまる場合

  • 空腹時血糖値≧ 92mg/dL
  • 75g経口糖負荷試験において1 時間値≧ 180mg/dL
  • 75g経口糖負荷試験において2 時間値 ≧ 153mg/dL

overt DM

 次の基準のいずれかに当てはまる場合

  • 空腹時血糖値≧ 126mg/dL
  • HbA1c≧ 6.5%
  • 確実な糖尿病網膜症が存在する
  • 随時血糖値≧ 200mg/dLあるいは75g経口糖負荷試験において2時間値≧ 200mg/dLの場合

どうやって発見するのか(予備群への対処)

 妊娠糖尿病については、妊娠の早い時期に随時血糖をはかり、これが高いときには経口糖負荷試験をして診断します。適切な周産期管理を受けることが最も大切です。

治療と改善

 肥満を改善するだけで回復することが多いですが、場合によっては投薬、外科手術を必要とします。

 妊娠糖尿病においては血糖の厳重な管理が最も大切で、食前100mg/dL未満、食後2時間126mg/dL未満になるように管理します。妊娠中は運動療法があまり出来ないため、まず食事療法を行います。それでも血糖管理が難しい場合は、インスリン療法を導入します。