日本人労働者の3人に1人が仕事に影響する健康問題を経験 働きながら生産性低下を防ぐ対策が必要

 全国の就業者1万人を対象とした調査で、3人に1人以上の35.6%が健康問題により仕事の生産性が低下している実態が明らかになった。

 多い要因は「腰痛」「首肩こり」「メンタルヘルス」であることも判明した。

 働き方の多様化や高齢労働者の増加が進むなか、欠勤などのアブセンティーズムだけでなく、出勤していても健康問題によりパフォーマンスや生産性が低下するプレゼンティーズムも、重要な課題として注目されている。

3人に1人以上が健康問題により仕事の生産性が低下している実態が明らかに

 全国の就業者1万人を対象とした調査で、3人に1人以上が健康問題により仕事の生産性が低下している実態が明らかになった。もっとも多い要因は腰痛で、年間の生産性損失は1,000人あたり約6,500万円に上ると試算している。

 働き方の多様化や高齢労働者の増加が進むなか、労働者の健康状態が仕事のパフォーマンスに与える影響が注目されている。近年は、欠勤などのアブセンティーズムだけでなく、出勤していても健康問題によりパフォーマンスや生産性が低下するプレゼンティーズムも、企業の経済的損失につながる重要な課題として注目されている。

 研究グループ今回、日本人労働者のプレゼンティーズムの実態と、それに起因する経済的損失を明らかにすることを目指し、2023年2〜3月に、全国の20〜69歳の就業者1万人を対象にインターネット調査を実施した。

 その結果、回答者の3分の1以上の35.6%が何らかの健康問題で仕事の質・量が低下しており、「腰痛」「首肩こり」「メンタルヘルス」が主因であることが判明した。

健康問題の主因は「腰痛」「首肩こり」「メンタルヘルス」
無視できない"隠れたコスト"に

 損失額は、最大要因である腰痛で年間約6,480万円/1,000人と試算され、経営上無視できない"隠れたコスト"となっていることが明らかになった。さらに、首の痛み・肩こり(約4,600万円)、メンタルヘルス不調(約4,340万円)と続いた。

 もっとも多い健康問題は、20代ではメンタルヘルス不調、30代では首の痛み・肩こり、40代以降では腰痛で、企業の生産性向上には、メンタルヘルス対策に加え、腰痛・肩こり対策の導入が急務であることが示唆された。

 なお、質問票では、過去4週間に仕事に影響を及ぼした健康問題の有無や具体的な症状、仕事への影響度合い(パフォーマンスの低下)などを尋ねた。

 研究は、昭和医科大学医学部衛生学公衆衛生学講座の吉本隆彦准教授、小風暁教授、テーラーメイドバックペインクリニックの松平浩医学氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Occupational and Environmental Medicine」に掲載された。

プレゼンティーズムは重要な健康指標
働きながら生産性低下を防ぐ対策が必要

 「これまでの研究はコロナ禍以前に実施されており、パンデミックを契機にライフスタイルや働き方が変化したポストコロナ時代の実態は十分に明らかになっていませんでした。本研究では、全国の就業者1万人を対象に調査を行い、健康問題と労働生産性の関係について分析しました」と、研究者は述べている。

 「人手不足が深刻化するポストコロナ時代で、生産性確保は企業の最重要課題です。健康経営の分野でも、プレゼンティーズムは欠勤と並んで注目される重要な健康指標であり、これまで見過ごされてきた、働きながらの生産性低下に着目した対策が求められています」。

 「研究成果が、企業の健康経営推進や産業保健政策の検討に活用されることが期待されます。健康経営の投資対象を"可視化"することで、エビデンスにもとづく適切な腰痛・肩こり予防プログラムの導入を後押しします」としている。

昭和医科大学医学部 衛生学公衆衛生学講座
Presenteeism Caused by Health Conditions and Its Economic Impacts Among Japanese Workers in the Post-COVID-19 Era (Journal of Occupational and Environmental Medicine 2025年4月)