リレーコラム「教えて!肥満症」
第3回 メタボリックシンドローム・肥満症を改善するためには
2026年01月06日
津下一代
日本肥満症予防協会 副理事長
女子栄養大学栄養学部 臨床医学研究室 教授
はじめに
肥満症においては健康障害改善のために減量治療を行うこと、メタボリックシンドロームにおいては糖尿病等の代謝疾患を予防するために内臓脂肪減量を目指した保健指導を行うことの重要性について、宮崎先生(第1回)、下村先生(第2回)から解説いただきました。
第3回はメタボリックシンドロームの改善に向けたプログラムについて考えてみたいと思います。
標準的な保健指導プログラム策定・前夜
メタボリックシンドロームに着目した特定保健指導制度開始の数年前から、どのように保健指導することが効果的なのか、過去の研究や実践事例の洗い出しを行い、全国で展開可能な方法論の議論が行われました。
医師、保健師、管理栄養士、健康運動指導士、統計の専門家、行政、企業、保険者等をメンバーとした研究班で検討を重ね、国の検討会での議論を経て完成したのが、2006年に暫定版として発出された「標準的な健診・保健指導プログラム」です。
名古屋から東京に毎週通い、遅い時間までヒアリングや議論をおこない、プログラム原案を練っていたことを思い出します。
プログラムの中で、特定保健指導は「健診結果により、内臓脂肪の蓄積に起因する糖尿病等のリスクに応じて対象者を選定し、対象者自らが健康状態を自覚し、生活習慣改善の必要性を理解した上で実践につなげるよう、専門職が個別に介入するものである」と定義され、「高齢者の医療の確保法」に基づく保健事業として医療保険者に対する法定義務として位置づけられました。
「行動変容」をキーワードとして、初回面接における減量目標と具体的な行動目標設定、実践を支える継続的支援などが定められました。健診・保健指導情報はナショナル・データ・ベース(NDB)に集約され、分析に供されるしくみも整いました。
特定保健指導制度はこれまで5年に1度のペースで改訂が繰り返されてきましたが、基本的な考え方は受け継がれてきています。
患者さんからいただいた一言
研究班では制度開始前のモデル的な実施や開始後の保険者データを活用して、保健指導の効果分析を始めました。保健指導の参加の有無による効果、体重減量と健康指標の改善の関係を可視化することを目的としました。体重、内臓脂肪を減量することがほんとうに健康指標の改善に役立つのか、検証しなくてはなりません。これは政府からの要求であった面もありますが、日ごろ診療する中で、肥満症の患者さんから言われた一言がきっかけとなって行った研究とも言えます。
「減量が必要、というけれど、どこまで減量したら合格点なのですか?」
私たち医療者は、減量の必要性を患者さんに話していましたが、どのくらい減量すべきか、根拠をもって具体的に伝えていなかったことに気づきました。ちまたでは「20㎏減量成功!」などのダイエットチラシが席巻し、不安をあおっていました。
米国のDPPなどの濃厚な生活習慣介入研究では7%減量を目標とする、という記述がありましたが、実際にその根拠については明らかではありませんでした。特定保健指導のように指導時間、回数に制約がある中で7%減量達成者は1割に満たず、とても全国共通の目標として引用できるものではないと考えられました。
そこで、特定保健指導積極的支援参加者において1年後の体重減少率と検査値変化の関連を分析したのが図の結果です。
図 1年後の体重変化率と検査値変化量(肥満症対象、積極的支援3,480人)

肥満症診療ガイドライン2016より引用
体重減少率が大きくなるほど、血糖、血圧、脂質だけでなく、肝機能、尿酸値の改善がみられること、多くの検査項目で3~5%の減量により有意な改善を認めることがわかりました。3%以上の減量達成率は特定保健指導参加者の約3割程度であり、実現可能な目標ではないかと考えられました。
この結果は日本肥満学会の肥満症診療ガイドラインにも掲載、「まずは3%以上の減量を目指す」ことの根拠として採用され、国際的な論文にも広く引用されるようになりました。
特定保健指導第4期(2024年~)ではアウトカム重視の方向性が導入され、「2cm・2kg減量達成により積極的支援終了と判定する」ことになりました。「3%減量の8割を達成していれば合格」ということで、2.4%減量でも達成と判定されることになっています。わかりやすさ、運用上の理由から、2cm・2kgが前面に立っていますが。
前向きに応援していくためのツール
もうひとつ取り組んだのが、本人が自走できる仕組みです。行動目標を設定しても、そのこと自体を忘れてしまうこともしばしば。日常生活を見守り、サポートするためにICTの積極的な活用が必要と考えています。指導者目線でなく、本人のがんばりを応援し、できないときにもあきらめず一緒にぼやいてくれるような存在が必要と考え、アプリの開発と検証に取り組みました。また、体重減量に効果をあげているアプリの特性を分析したり、本人の行動目標にあわせた市販アプリの活用効果などを検証しました。
最初は意識的に始めた生活習慣の見直しが、いつか本人のあたりまえの生活として定着することを目指して、これからも研究を進めていきたいと考えています。
特定保健指導の限界と肥満症治療への期待
20年にわたって取り組んできた特定保健指導ですが、課題も少なくありません。
まず、糖尿病や脂質異常症、高血圧症の薬物治療をしている人は対象外なので、肥満症患者に対してアプローチできていない、という課題があります。生活習慣病管理料などを活用した、医療の中での指導の充実が急務といえます。医療保険者でも「重症化予防事業」としての取組を開始していますが、さらに充実が必要です。
さらに、高度肥満の対象者では、特定保健指導の指導回数では十分な個別的支援ができないこと、3~6か月の期間を過ぎると対象から外れることが課題といえます。特定保健指導はあくまで期間限定のプログラムとして、保険診療の外に存在するものです。2022年のNDB分析によると、特定健診受診者のうち、BMI≧30は181万人(6.1%)、≧35は35万人(1.2%)にのぼります。まだまだ肥満症治療が行き届いていないのが現状です。保険診療の中で個別的な治療が継続されることが必要と考えます。
肥満症を抱える人が安心して継続的に相談できる場づくりが求められていると思います。
(2026年01月)








