20~30代低体重女性で腸内細菌叢の多様性が低下 食事内容が同じでも違いが生じることを解明
藤田医科大学とシンバイオシス・ソリューションズ株式会社は、20~39歳の低体重女性では、正常体重女性と比べて腸内細菌叢の多様性(α多様性)が有意に低く、炎症関連菌の割合が高いことを明らかにした。
注目すべき点は、両群で食事パターン(摂取食品の多様性)に有意差がなかったにもかかわらず、腸内細菌叢には明確な違いが認められたことである。若年女性の低体重対策において、従来の食事内容の改善だけでは不十分で、腸内環境に着目した新たな介入の可能性を示唆する結果といえる。
20代女性の約2割が「やせ」 20年間横ばいの深刻な現状
近年、日本では若年女性の間で低体重傾向が続いており、この傾向は20年間変わっていない。令和5年の国民健康・栄養調査では、20代・30代の「やせ」の者の割合は20.2%と5人に1人におよび、「健康日本21」(第3次)においても、「BMI18.5未満の20~30歳代女性のやせの減少」が目標に掲げられている。
やせの者(BMI<18.5kg/m2)の割合の年次推移(20歳以上)
出典:厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」P.6(2024年11月25日)
若年女性の低体重は、月経不順や不妊の原因になるほか、低出生体重児の出産リスクや将来の骨粗鬆症などの健康リスクにつながる可能性が指摘されている。特に「やせ」については、妊娠・出産を通じて次世代の健康にも影響が及ぶ可能性があるため、大きな健康課題となっている。
なお、食事のパターンでは、40代・50代になると健康意識が高まることで、不足しがちな海藻類、果物、乳製品も摂るようになり、食事の多様性が改善されてくる傾向にあるが、20代男女では食事の多様性が低いことがわかっている。
これまでも低体重女性におけるビタミン欠乏のリスクは報告されており、腸内細菌叢パターンと体格の関連も報告されている。肥満と腸内細菌の関係は多く報告されているが、一方で日本における低体重女性の腸内細菌叢パターンについては明らかになっていなかった。
そこで本研究では、若年女性における体型と食事パターンおよび腸内細菌叢の多様性との関連を検討することを目的とした調査が行なわれた。
低体重群と正常体重群における食事・腸内細菌叢の比較
本研究は、藤田医科大学(愛知県豊明市)医学部臨床栄養学 飯塚勝美教授とシンバイオシス・ソリューションズ株式会社(本社:東京都千代田区)が実施した。
検診でBMI<17.5を理由に栄養評価外来を受診した20~39歳の女性40名(低体重群)と、18.5≦BMI<25の女性40名(対照群)に分類し、食事パターンの調査と腸内細菌叢の解析を行い、α多様性(菌種の豊富さ)とβ多様性(菌構成の違い)を比較した。食事パターンは主な食品10カテゴリー(肉、魚、卵、大豆製品、乳製品、果物、緑黄色野菜、海藻、芋、油脂類)の摂取多様性スコアにより評価した。
腸内細菌叢にみられた低体重特有の特徴
解析の結果、低体重群において腸内細菌叢の多様性(α多様性)の低下が確認された。一般に、腸内細菌叢の多様性低下はディスバイオシス(腸内細菌叢のバランス異常)の一形態とされ、さまざまな疾患リスクとの関連が指摘されている。
具体的には、低体重群でBacteroides属やEnterocloster属といった炎症惹起に関与する可能性のある菌群の割合が高かった。
これは、若年期の低体重が将来的な炎症性疾患や代謝性疾患のリスク因子となり得るメカニズムの一つとして、腸内環境の変化が介在している可能性を示唆している。
一方で、食事パターンスコアには両群間で有意な差は認められなかった。この結果は、腸内環境の違いが食事内容の差だけではなく、低体重という身体状態そのもの、あるいは未測定の代謝因子に起因している可能性を示唆している。
プロバイオティクス等を活用した新たな介入へ
若年女性の低体重の原因として「やせ願望」が背景にあると考えられる。やせ願望形成におけるメディアの影響としては、「理想BMI18.5未満」の内、約46%が「メディアの影響がある」と回答し、理想BMIが低いほどメディアの影響を受けている割合が多いことが報告されている。
このような「やせている方が良い」という価値観と、誤ったダイエット法が普及していることが、若年女性のやせの問題を引き起こしていると考えられている。偏った食生活は、鉄欠乏など潜在的な栄養不良のリスクを高めるおそれがある。
誤ったダイエットによる弊害が懸念される中、本研究は、食事内容が同等であっても腸内細菌叢の多様性が低下していることを確認した。
「今後は、善玉菌を増やすプロバイオティクスだけでなく、プレバイオティクスも活用した栄養指導などを通じて、腸内細菌叢のバランスを整える介入方法の開発が期待されます」と研究者は指摘している。
参 考
20代・30代の低体重女性では腸内細菌叢の多様性が低く、 炎症に関係する菌が多いことが明らかに|藤田医科大学(2025年10月28日)
Gut Microbiota α- and β-Diversity, but Not Dietary Patterns,Differ Between Underweight and Normal-Weight Japanese Women Aged 20-39 Years|Nutrients(2025年10月17日)
令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要|厚生労働省(2024年11月25日)
女性のやせのインターネット調査 (結果概要) |厚生労働省
若い女性の「やせ」と健康・栄養問題|健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~








