リレーコラム「教えて!肥満症」
第4回 肥満症と糖尿病

2026年01月21日

植木 浩二郎
日本肥満症予防協会 執行理事
国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 糖尿病研究センター長

はじめに

 肥満に起因する11の疾患の中でも耐糖能障害(2型糖尿病など)は、肥満症を持つ方の寿命やQOLに重大な影響を与える疾患です。日本人は、欧米人に比べてインスリン分泌能が低いために軽度の肥満でも糖尿病を発症しやすいことが知られています。そのため、糖尿病の発症予防においては肥満の予防・解消が有用であることが知られていました。
 一方で、糖尿病は一旦発症すると治癒しない疾患であると言われていましたが、最近では肥満の解消によっていわゆる寛解状態にできることも分かってきています。

我が国における糖尿診療の現状

 我が国における糖尿病を持つ方の90%以上が2型糖尿病であり、上記のように遺伝素因に大きく影響を受ける膵β細胞からのインスリン分泌の低下に加えて、内臓脂肪肥満による悪玉アディポカインの増加や肝臓や筋肉への異所性脂肪蓄積によってインスリン抵抗性(肝臓・骨格筋・脂肪細胞でのインスリンの作用低下)が生じて発症・進展します。生活習慣によってインスリン分泌能を増強することは困難ですので、発症予防には前回コラムで津下先生が書かれているように肥満の解消が有用です。
 実際、我が国の糖尿病を持つ方(糖尿病が強く疑われる者)、糖尿病の予備群の方(糖尿病の可能性が否定できない者)の推移を見てみると、特定健診・特定保健指導が開始されていわゆるメタボへの取り組みが奏功して、糖尿病の予備群が減少していることが分かります(図1)。


図1 糖尿病とその予備群の推移 2024国民健康栄養調査の概要より作図

 一方、糖尿病を持つ方の人数は依然増加していますが、ある期間の糖尿病を持つ方の増加分は(新たに糖尿病を発症した人数―死亡した人数)ですので、糖尿病を持つ方の寿命が延伸すると減らないことになります。実際、治療の進歩によって、糖尿病を持つ方と持たない方の死亡時年齢はほとんどからなくなってきていることが、日本糖尿病学会の調査や奈良県立医大の今村先生らのNDBの解析から分かってきています。
 今後とも肥満症改善の努力によって、糖尿病の予備群の人数が減少してくれば必然的に新規発症も減少して、我が国の糖尿病患者数は減少に転じることが期待されます。

糖尿病は治らない病気か?

 上記のように、現在糖尿病の治療薬は進歩しており、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬など、肥満の改善とともに低血糖を起こさずに強力な血糖改善効果を持ち、かつ合併症の予防効果があるものが登場しています。実際、GIP/GLP-1受容体作動薬の第3相試験では、高用量を用いるとHbA1c<5.7%の達成率が80%近くになることが示されています。しかしながら、糖尿病の発症時点では膵β細胞の量や機能が低下しており、さらに経年的に進行していくため、一旦発症すると治癒しない疾患であると言われてきました。
 ところが、海外でまず広く行われる様になった肥満に対する外科手術が、体重減少のみならず減量とは独立した大きな糖代謝作用を持つことが分かってきました。そのメカニズムは、内因性のインクレチン効果の増大などが言われていますが、正確には分かっていません。このような背景から、我が国ではこれらの外科的手術を減量代謝改善手術と呼んでおり、BMI>35で高血圧症、脂質異常症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、非アルコール性脂肪肝炎を含めた非アルコール性脂肪性肝疾患のうち1つ以上を持つ方、あるいは、32<BMI<34.9で上記のうち2つ以上(ただし糖尿病はHbA1C 8.0%以上)を持つ方にはスリーブ状胃切除術が、BMI>35で糖尿病を合併している方にはスリーブ・バイパス術が保険適応となっています。
 我が国において、減量効果がやや小さいと考えられているスリーブ状胃切除術を行った方でも、2年後に薬物療法なしでもHbA1c<6%を達成している糖尿病の「寛解」状態の方が75.6%もいると報告されています。糖尿病を持つ比較的高度肥満の方で生活習慣の改善や薬物療法などでは十分な減量効果・糖尿病の改善が認められない場合、減量のみならず糖尿病の寛解を目指して減量代謝改善手術を選択肢として考えることができますが、我が国では年間1000例ほどしか行われておらず、普及が待たれるところです。

 一方、肥満がある糖尿病を持つ方では、減量によって薬物療法が不要になることが経験的にはあることが知られていましたが、我が国におけるその実態やどの程度の減量が必要かについては明らかではありませんでした。最近、新潟大学の曽根先生らは、糖尿病専門医のレジストリであるJDDMを解析して、特に発症早期でHbA1cが6%台であれば10%以上の体重減少で、1年後に薬物療法なしでHbA1c<6.5%未満の寛解状態の方が9%程度いることを明らかにしました(図2)。


図2 体重減少と糖尿病寛解率 Fujihara et al. Diabetes Obes Metab 2023より作図

今後の肥満症と糖尿病治療の考え方

 上記の減量代謝改善手術も、内科的治療による減量も、糖尿病の罹病期間が長くなり膵β細胞の量や機能の減少が大きくなると寛解率が低下することが知られています。今後の肥満症に伴う糖代謝異常を持つ方への介入の考え方としては、糖尿病の発症前から減量に取り組むこと、発症した場合でもなるべく早期に減量することで薬物療法が不要になる寛解を目標とすべきです。
 その際の方法としての生活習慣への適切な介入法、薬物療法をどのように取り入れるか、外科療法の適応やタイミングについてもコンセンサスの形成と個別化を図っていく必要があると思います。

(2026年01月)