適度なアルコール摂取は健康的? 大量飲酒の習慣は悪影響をもたらす お酒との良い関係

 アルコール摂取量と心血管疾患発症とのあいだにU字型の関連があり、日本でも軽度のアルコールを摂取している人は心筋梗塞や脳卒中などのリスクが少なく、死亡リスクも低いなどの超結果が報告されている。

 一方で、多量の飲酒の習慣があると、健康に悪影響があらわれ、心血管疾患、アルコール関連肝疾患(ALD)、がんなどのリスクが上昇することも報告されている。

 とくに女性の場合、男性に比べて過度の飲酒をしなくても、飲酒により健康リスクは高くなることが示されている。

適度な飲酒は健康的?

 アルコールを飲むのを楽しみにしている人は多い。適度な飲酒はストレスの軽減につながり、血行が促進され、人との円滑なコミュニケーションにも役立つ。

 アルコール摂取量と心血管疾患発症とのあいだにU字型の関連があり、日本でも軽度のアルコールを摂取している人は心筋梗塞や脳卒中などのリスクが少なく、死亡リスクも低いことなどが報告されている。

 軽度の飲酒をしている人は、血糖などの代謝に良い影響があらわれ、2型糖尿病のリスクが減少する可能性があるという調査結果も発表されている。適度の飲酒は高い生活の質(QOL)と関連することも指摘されている。

 日本の年齢40~80歳の中高年8,000人超を平均5.5年の追跡した前向きコホート研究では、軽度の飲酒の習慣のある人は、まったく飲まない人に比べて、急性心筋梗塞の発症リスクは51%低いことなどが示された。

 なお、純アルコール換算で週に25g以下の飲酒をしている人は全体の4割、1日に25g以下の飲酒は3割だった。研究は岩手医科大学などによるもので、研究成果は「Atherosclerosis」に掲載された。

多量飲酒の習慣は健康に悪影響をもたらす

 ただし、アルコールを飲みすぎると、そうしたベネフィットは打ち消されてしまう。

 日本の健康日本21でも、適度な飲酒は1日に純アルコールに換算して20g程度とされている。これは、缶ビール約1.5本(500mL、アルコール度数5%)、缶チューハイ1本(350mL、アルコール度数7%)、日本酒1合(180mL、アルコール度数15%)、ワイン1杯(200mL、アルコール度数12%)に相当する。女性の適度な飲酒量は男性の1/2~2/3程度だ。

 1日に60gを越えるような多量の飲酒は、健康に悪影響をもたらし、生産性の低下など職場への影響も無視できないとしている。

 多量飲酒をしている人が、お酒を飲む量をコントロールするために、ノンアルコール飲料を上手に利用すると効果的という研究や、スマートフォンなどのアプリの活用するとアルコール関連の障害を減らすのに役立つ可能性があるという研究も発表されている。

女性では中程度の飲酒でも健康リスクに

 多くの調査で適度なアルコール摂取は、狭心症や心筋梗塞などの心血管疾患などのリスクを下げることが示唆されているが、最近の研究では、少しでも飲みすぎると健康にとって有害であることが明らかになっている。

 研究は、米国の健康保険システムであるカイザー パーマネンテの医療機関で治療を受けた、18~65歳の43万人以上の成人のデータを解析したもの。アルコールと心血管疾患の関連性を調べた研究としてはこれまでで最大規模のものだという。

 その結果、アルコールの摂取量の多い男性は、少ない男性に比べて、心血管疾患のリスクが33%高かった。女性もアルコールの摂取量が多いと、心血管疾患のリスクが45%高く、中程度の飲酒であっても29%高いことが明らかになった。

 「アルコールをたまに飲みすぎるくらいであれば影響は少ないかもしれませんが、多量の飲酒が習慣になると、血圧が上昇しやすくなり、肥満や2型糖尿病など代謝の異常が引き起こされ、炎症にも関連することが分かっています。男女ともにアルコールを過剰に摂取すると心臓病のリスクが高くなります」と、カイザーパーマネンテの医療グループの心臓専門医であるジャマル ラナ氏は述べている。

 「とくに女性の場合、男性に比べて過度の飲酒をしなくても、飲酒により健康リスクは高くなることが分かりました。女性でもこの数十年でアルコール摂取の頻度や過度の飲酒が増えています」としている。

 米国では、1ドリンクは14gの純アルコールに相当する。純アルコールはビール 350mLに14g、ワイン 120mLに12g、それぞれ含まれる。週に男性は3~14ドリンク(缶ビール3~14本)、女性3~7ドリンク(缶ビール3~7本)を飲んでいると、中程度の飲酒に相当する。

多量飲酒は肝臓病のリスクも高める

 多量の飲酒を長期にわたり続けると、さまざまな臓器に障害が起こり、なかでも肝障害は高い頻度で起こり、重症化しやすいことも知られている。

 過度の飲酒が原因になるアルコール関連肝疾患(ALD)のリスクが、20年で倍増しているという最新の調査結果も発表された。

 研究は米国のスタンフォード大学医学部消化器病・肝臓病学のロバート ウォン氏らによるもの。研究成果は「JAMA Network Open」に掲載された。

 研究グループが、ALDが原因で死亡した43万6,814人を横断調査した結果、米国人のALDの死亡率は、1999~2022年に10万人あたり6.71人から12.53人に2倍に増えたことが明らかになった。とくに25~44歳の若年成人や女性での増加が目立つという。

 「アルコール関連肝疾患は、肝硬変に関連する死亡の原因の4分の1を占め、公衆衛生上の大きな懸念事項になっています」と、研究者は述べている。

多量飲酒はがんリスクも大幅に高める

 アルコールは、乳がん、大腸がん、口腔がんなど、数種類のがんの発症リスクも大幅に高めることが、別の研究で明らかになっている。

 新たに発症したがんの7分の1にあたる10万件以上の症例に、軽度から中程度の飲酒が関連しているという。

 研究は、カナダの依存症メンタルヘルスセンター(CAMH)によるもの。研究グループは、世界情報システムの2010年のアルコール消費量推定値を用いて、アルコールに起因する新しいがん症例を推定した。

 「アルコールはさまざまな経路でがんを引き起こします」と、カナダのメンタルヘルス政策研究所のケビン シールド氏は述べている。

 「アルコールががんを引き起こす主なメカニズムとして、DNA修復の阻害が考えられます。そのほかに、慢性的なアルコール摂取による肝硬変や、アルコールによるホルモン調節異常が引き起こす乳がんなどがあります。また、アルコールはタバコからの発がん物質の吸収を増加させるため、喫煙者のがんリスクも高めます」としている。

健康日本21 (アルコール) (厚生労働省)
Impact of Alcohol Intake and Drinking Patterns on Mortality From All Causes and Major Causes of Death in a Japanese Population (Journal of Epidemiology 2018年3月5日)
Influence of mild-to-moderate alcohol consumption on cardiovascular diseases in men from the general population (Atherosclerosis 2012年9月)
Alcohol Raises Heart Disease Risk, Particularly Among Women: Large study suggests more than one drink per day can increase the risk of coronary heart disease (米国心臓病学会 2024年3月28日)
Alcohol-associated liver disease mortality (JAMA Network 2025年6月11日)
Alcohol-Associated Liver Disease Mortality (JAMA Network Open 2025年6月11日)
New study links moderate alcohol use with higher cancer risk (依存症メンタルヘルスセンター 2021年7月14日)
Global burden of cancer in 2020 attributable to alcohol consumption: a population-based study (Lancet Oncology 2021年7月13日)