肥満症予防コラム「肥満と11の関連疾患」

5. 肥満と脳梗塞

肥満により脳梗塞が起こるメカニズム

 脳血管が詰まり、動脈硬化を起こし、狭窄や血栓ができることで脳に酸素や栄養が届かなくなり、脳の組織が壊死し、障害が起こるのが脳梗塞です。

 脳梗塞には3種類あり、肥満と大きく関係しているのは「アテローム血栓性脳梗塞」です。動脈硬化(アテローム硬化)により狭くなった太い血管に血栓ができ、血管が詰まらせます。

 内臓脂肪型肥満が動脈硬化を発症させる理由は実に多様ですが、そのひとつとして脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインがあります。内臓脂肪が蓄積すると脂肪細胞から血栓を起こすPAI-1という物質を多く分泌され、脳梗塞などの要因になることがわかっています。加えて脂肪細胞からは、アディポネクチンという糖尿病や動脈硬化を防ぐアディポサイトカインが分泌されていていますが、内臓脂肪が蓄積するとその分泌が低下して、動脈硬化の原因となります。

 また、肥満によっても引き起こされる耐糖能異常、脂質異常症、高血圧はそれぞれが動脈硬化の主たる危険因子です。

耐糖能異常
白血球などの血管内壁への付着物が増え、動脈硬化を発症させる原因となります。
脂質異常症
コレステロールの中でも、小型LDLコレステロールは血管内壁に入って酸化され、動脈硬化の大きな要因となります。また中性脂肪の増加は、小型LDLコレステロールを増やす原因ともなります。
高血圧
血圧が高い状態が続くと、血管内壁を傷つき、コレステロールが血管内に入りやすい環境になるほか、血管に負担をかけ続けるため、動脈硬化を促進します。また脳卒中を起こす引き金ともなります。

診断基準

 片麻痺・片側感覚障害などの局所神経兆候と、頭部のCTやMRI所見で診断をします。

 また脳梗塞の前触れとして、一過性脳虚血発作が知られています。一時的に脳の血管が詰まるものの、すぐに血流が再開し、短い場合は5分、長くても24時間以内には消失する発作です。症状が短時間で消えてしまうために軽く考えられがちですが、専門医の間では、一過性脳虚血発作は、脳梗塞の重要な「前触れ発作」「警告発作」であり、早期受診、早期治療が必要な緊急疾患であるという認識です。一過性脳虚血発作を治療しないで放っておくと、3か月以内に15~20%の方が脳梗塞を発症することがわかりました。

 さらに、一過性脳虚血発作後、速やかに病院を受診し、検査・治療を始めれば、その後の脳梗塞発症の危険を減らせることが報告されています。

どうやって発見するのか(予備群への対処)

 手足のしびれや麻痺、ろれつがまわらない、言葉が出ない、相手の言うことをよく理解できない、めまいやふらつき、物が見えにくい、などの症状が1つでもあれば脳梗塞が疑われます。

 脳梗塞の原因である動脈硬化ですが、数値で示されるような基準はないため、病院では、動脈硬化の程度を知る手がかりとして、血圧、コレステロール値、中性脂肪値、脈波、血糖値、尿酸値などをチェックし、肥満度や喫煙歴など危険因子を加味し、医師が動脈硬化の可能性について判断します。

 脳梗塞は危険因子を避け、食事、運動などに気をつければ、予防できますし、進行を食い止めることもまた可能です。危険因子の中には相互に関連するものがあり、1つを改善すると関連のある別の危険因子も改善できる場合があります。

 喫煙、過度の飲酒、肥満、耐糖能異常、脂質異常症、高血圧症が主な危険因子です。禁煙、節酒に加え、食事の動物性脂肪を減らし、有酸素運動を継続的に行うなどして減量をする必要があります。

治療と改善

 脳梗塞が起こると、数分後には脳細胞が壊死し始め、時間がたてばたつほどダメージが広がり、後遺症も大きくなるため、一刻も早く医療機関で診断を受け、治療を始めることが重要です。

 発症直後は薬物治療が基本で、「血栓溶解療法」、「抗血小板療法」、「抗凝固療法」、「脳保護療法」などが行われます。