魚を食べる食事スタイルが寿命を延ばす 小魚を食べるとがんなどの健康リスクが低下 魚の油が脂肪燃焼を促進

 日本の食事スタイルの特徴のひとつは魚を食べること。魚をよく食べている人は、心筋梗塞や狭心症などのリスクが低いことが明らかになっている。

 さらに、小魚を食べる習慣のある人は、死亡リスクが大幅に低いことが、日本の8万人超を9年間追跡した調査でも明らかになった。

 サバ・イワシ・アジ・ニシンなどの魚油に含まれるEPAが、全身の脂質代謝や筋機能を向上することも新たに分かった。

魚を食べると生活習慣病リスクは低下

 40~59歳の日本人4万人を約11年間追跡した大規模な調査で、魚をよく食べている人は、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患のリスクが約60%低いことが明らかになった。

 魚を週に1~2回食べるだけでも効果を期待できるが、それ以上食べると効果はさらに高くなることが示されている。

 肥満や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病の原因にはいろいろなものがあり、生まれつきの「遺伝的素因」のように、当人の努力では変えられないものもある。

 しかし、肥満などになりやすい遺伝的素因(体質)のある人でも、毎日の食事を改善することで予防・改善することができる。最近の研究では、食べ物に含まれる成分により、遺伝子の働き方を変えられることも分かってきた。

小魚を食べる日本の食事スタイルは注目されている

 小魚を食べる習慣のある人は、死亡リスクが大幅に低いことが、名古屋大学などが日本の8.1万人を9年間追跡した別の調査でも明らかになった。

 小魚に含まれる栄養素や生理活性物質が、死亡リスクの低下に関わっている可能性がある。

 日本の食事スタイルの特徴のひとつは魚を食べること。日本人は古来から、シシャモやシラスなどの小魚を食べてきた。こうした小魚は、頭・臓・骨を丸ごと食べられるという特徴があり、ホールフード(素材まるごと食べること)として注目されている。

 魚の頭・内臓・骨には、ビタミンAやカルシウムなどの疾病予防に役立つ栄養素が多く含まれている。これらを一度に摂取できる小魚は、不足しがちな栄養素をとれる大切な食材だ。

 これまでの研究で、小魚に含まれる栄養素の摂取は、血圧を低下させて動脈硬化を防いだり、がん予防に有用であることが報告されている。魚を食べる習慣が、全死亡、循環器疾患による死亡、がん死亡のリスクを下げる可能性も示されている。

小魚を食べている女性は死亡とがんのリスクが大幅に低下

 名古屋大学などの研究グループは、日本の大規模コホート研究であるJ-MICC研究に参加した約8.1万人をおよそ9年間追跡して調査し、小魚の摂取頻度と死亡リスクとの関連を調べた。

 J-MICC研究は、日本全国でおよそ10万人を対象に、どんな人がどのような病気になりやすいかなど、健康状態を20年にわたり追跡している多施設共同コホート研究。遺伝的な背景も考慮して病気の原因を調査している。

 その結果、小魚をたくさん食べている女性は、全死亡のリスクが低いことが分かった。小魚を食べている女性は、ほとんど食べない人に比べて、全死亡リスクが月に1~3回食べている人で0.68倍、1~2回の人で0.72倍、3回以上の人で0.69倍にそれぞれ減少した。

 小魚を食べる習慣は、がんによる死亡リスクの低下とも関連していた。小魚を食べている女性は、がん死亡リスクが月に1~3回食べている人で0.72倍、1~2回の人で0.71倍、3回以上の人で0.64倍にそれぞれ減少した。

 なお、男性でも小魚を食べることで、全死亡とがん死亡のリスクが低下する傾向がみられたが、統計学的に有意ではなかった。

毎日の食事に小魚を取り入れることを提案

 小魚をたくさん食べる人は、他の魚もたくさん食べる傾向があるため、研究グループは焼き魚、煮魚、刺身など、一般的な魚の摂取頻度を考慮した分析も行ったが、やはり小魚を食べる人は死亡リスクが低いことが示された。

 研究は、名古屋大学大学院医学系研究科予防医学分野の笠原千夏氏、田村高志准教授、若井建志教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Public Health Nutrition」に掲載された。

 「これまで、小魚の摂取に着目して死亡リスクとの関連を調べたコホート研究はほとんどありませんでした。研究結果は、ふだんの食事に小魚を取り入れることの重要性を示すものです」と、研究者は述べている。

魚に含まれる油が脂肪の燃焼を促進 運動にも似た効果が

 サバ・イワシ・アジ・ニシンなどの青魚には、油が多く含まれる。魚油に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)など、n-3系と呼ばれる脂肪酸は、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患や脳卒中などの予防に役立つことが知られている。

 北里大学などは、魚油に含まれる脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)が、脂質代謝を改善し、骨格筋の抗疲労性の遅筋線維を増やし、全身の脂質代謝や筋機能を向上することを明らかにした。

 「古くから知られる魚油の摂取が、脂肪燃焼を促す理由の一端を解明しました。魚を食べることで、脂質の燃焼作用の亢進や抗疲労性の獲得といった、運動トレーニングに似た効果を引き出せる可能性があります」と、研究者は述べている。

 骨格筋を構成する筋線維は、遅筋タイプ(抗疲労性、1型)と速筋タイプ(易疲労性、2型)の2つに大別され、その構成は骨格筋の収縮速度や疲労耐性などの収縮特性、代謝特性と密接に関連している。

 研究グループは、魚油に含まれる脂肪酸に着目し、ラットの骨格筋線維タイプ、骨格筋機能や全身代謝に対する作用やその機序を明らかにすることを目指した。

 その結果、魚油に含まれるEPAに、骨格筋の遅筋線維の割合を増加し、全身の脂質代謝と筋機能を向上する、新規の機能性があることが明らかになった。

 魚のEPAを摂取すると、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)経路などが活性化することが分かった。脂質をエネルギー源として、TCAサイクル(クエン酸回路)が活発になることも示唆された。

 AMPKは、細胞内のエネルギー調整で重要な役割をになっており、脂質代謝やグルコース代謝に関わり、2型糖尿病や肥満といった代謝性疾患とも関連が深い。

 研究は、北里大学の小宮佑介准教授、麻布大学の水野谷航准教授、九州大学、京都大学、弘前大学、東海大学の共同研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」にオンライン掲載された。

Intake of Fish and n3 Fatty Acids and Risk of Coronary Heart Disease Among Japanese: The Japan Public Health Center-Based (JPHC) Study Cohort I (Circulation 2006年1月9日)
名古屋大学大学院医学系研究科:予防医学
Association between consumption of small fish and all-cause mortality among Japanese: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study (Public Health Nutrition 2024年5月3日)
Eicosapentaenoic acid increases proportion of type 1 muscle fibers through PPARδ and AMPK pathways in rats (iScience 2024年6月21日)