漬物やキムチなどの「発酵食品」が肥満やメタボを抑制 腸内菌の有益な働きを解明

 漬物やキムチなどの発酵食品に含まれる特定の乳酸菌が、肥満や糖尿病の予防・改善に有用であることを、京都大学などが明らかにした。

 この乳酸菌は、糖質から菌体外多糖を産生し、腸内環境を変えるという。腸内細菌による代謝物であり、基礎代謝の向上や免疫の調整などに関わり、体に良い働きをする「短鎖脂肪酸」の産生量を増やすことで、肥満などを防いでいるとみられている。

 腸内菌の有益な働きを利用する「プレバイオティクス」や「ポストバイオティクス」を、肥満や2型糖尿病などの予防・治療に役立てたり、糖質を含む食品を摂取したときの血糖上昇の抑制に役立てることなどが期待されている。

ヨーグルト・納豆・漬物の乳酸菌の働きに注目

 ファストフードやジャンクフードなどの高糖質・高脂肪の食事スタイルや、食物繊維の不足した食事スタイルが増えており、肥満や糖尿病などの代謝性疾患のリスクが高まっている。

 そのなかで、腸内環境を改善し、さまざまな好ましい健康効果をもたらすとして、「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」、その両方を組み合わせた「シンバイオティクス」は注目されている。

 プロバイオティクスは、腸内フローラのバランスを改善し、宿主に有益な作用をもたらす乳酸菌やビフィズス菌などの微生物。プレバイオティクスは、腸内の特定の細菌を増殖させたり活性化する、食物繊維などの食品成分。

 「プロバイオシス」という言葉には、[共生・ともに生きる]といった意味がある。ヨーグルトやチーズ、納豆、味噌、漬物、キムチ、乳酸菌飲料などに含まれるプロバイオティクスの腸内での働きは注目されている。

 さらに近年、有用菌が生成した代謝産物や不活化した細菌などの「ポストバイオティクス」についても解明されている。

善玉菌が産生した代謝物により肥満が改善

 そのなかで、漬物やキムチのような発酵食品の発酵に用いられる乳酸菌である「L.mesenteroides」が、肥満を防ぐことを、京都大学などが明らかにした。

 研究グループは今回、この乳酸菌による代謝産物である「EPS」に着目。EPSは、食物繊維や炭水化物と同様の多糖類であり、結合様式によって多種多様な構造を示す。環境ストレスなどから自身を保護するなどの役割をしているとみられている。

 腸内細菌による代謝物であり、基礎代謝の向上や免疫の調整などに関わり、体に有用な働きをする「短鎖脂肪酸」の産生量を増加させることで、肥満を防いでいるとみられている。

 短鎖脂肪酸には、エネルギー代謝の調節を含めたさまざまな生理機能に影響し、その結果、肥満や糖尿病などの代謝性疾患や免疫疾患、神経疾患などが改善すると考えられる。

 漬物やキムチのような発酵食品の発酵に用いられる乳酸菌などが、EPSを産生することは知られていたが、発酵食品などに含まれるEPSの摂取により起こる生理機能や、腸内細菌叢に及ぼす影響などはよく分かっていなかった。

乳酸菌による代謝物が腸内環境を改善し肥満や糖尿病を抑制
研究で解明されたメカニズム

京都大学、2023年

発酵食品に含まれる乳酸菌の働きを解明

 食物繊維などの難消化性の多糖類は、消化酵素による消化と小腸での吸収をまぬがれて、大腸まで移行することで、腸内細菌のエサとして利用され、その結果、最終代謝産物として短鎖脂肪酸を産生される。

 研究グループは今回の研究で、発酵食品の食機能性、とくにL.mesenteroidesの効果の要因として、この菌が産生するEPSを食物繊維と捉え、プレバイオティクスによる短鎖脂肪酸の産生が重要ではないかと考えた。

 まず、L.mesenteroidesがグルコースやフルクトースではなく、スクロースを含む糖源培地で培養したときのみ、スクロースを基質としてEPSを多量に産生することを確認。

 さらに、その産生量は、一般的な乳酸菌に比べて300倍以上であることを明らかにした。その糖構造は、宿主の消化酵素で消化できない難消化性多糖と考えられるという。

 このL.mesenteroidesが産生したEPSを精製し、さまざまな腸内細菌種の単一菌培養培地にEPSを加えると、バクテロイデス属やバクテロイデス属といった有用菌が特異的に増殖すること、さらには短鎖脂肪酸の産生量が増加することを突き止めた。

 さらに、マウスへEPSを投与した場合でも、腸内や血中で短鎖脂肪酸濃度が顕著に増加することを見出した。

善玉菌の働きや産生された有用な代謝物の可能性に期待

 研究は、京都大学大学院生命科学研究科の木村郁夫教授(東京農工大学大学院農学研究院特任教授)、東京農工大学大学院農学研究院の宮本潤基テニュアトラック准教授、Nosterの清水秀憲研究グループ長(京都大学大学院生命科学研究科受託研究員)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Gut Microbes」にオンライン掲載された。

 今回の研究で、乳酸菌の一種であるL.mesenteroidesが産生する菌体外多糖EPSの摂取は、腸内細菌の構成を変化させ、主要な腸内細菌代謝物である短鎖脂肪酸(主にプロピオン酸)の産生を促進することが明らかになった。

 さらに、宿主側の短鎖脂肪酸受容体を介して、エネルギー代謝調節に関与することが確認された。

 EPSの投与により、耐糖能が改善し、さらに長期的に投与すると、高脂肪食から誘導される肥満の症状が劇的に改善すること、さらには、EPSを腸内細菌が利用して作られる短鎖脂肪酸が、この作用に寄与することなども明らかになった。

 「L.mesenteroidesは、ポストバイオティクス成分EPSを介してプレバイオティクス効果をも発揮できるシンバイオティクス乳酸菌として、さらなる応用が期待されます」と、研究グループでは述べている。

 また、ポストバイオティクス成分であるEPS自体を、肥満や2型糖尿病に代表される代謝性疾患の予防・治療のためのサプリメント・機能性食品素材として応用することも期待されるとしている。

 「腸内環境を制御する食習慣や腸内細菌の代謝産物が、肥満や2型糖尿病などの代謝性疾患に対する新たな標的として注目される今、ポストバイオティクス成分のEPSや、シンバイオティクス乳酸菌は、さまざまな分野における応用が可能とみられます」と、研究グループでは述べている。

乳酸菌による代謝物が腸内環境を改善し肥満や糖尿病を抑制
研究で解明されたメカニズム

図1 EPS 摂取による代謝改善作用
EPS 摂取は糖代謝や高脂肪食誘導性肥満を改善した。 図2 EPSの腸内環境制御
EPSの摂取は、短鎖脂肪酸の産生と腸内細菌の構成を変化させた。 図3 ノトバイオートマウス
腸内細菌を定着させたマウスでは、EPSを基質として短鎖脂肪酸が産生された。
京都大学、2023年

京都大学大学院生命科学研究科
Host metabolic benefits of prebiotic exopolysaccharides produced by Leuconostoc mesenteroides (Gut Microbes 2023年1月5日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]