健診で「腎臓病」を指摘されても、医療機関で診断を受けたのは5年以上も後

 一般社団法人ピーペックと日本ベーリンガーインゲルハイムは、透析や腎移植にいたっていない保存期の「慢性腎臓病(CKD)」の患者の経験や負担を明らかにする調査を実施した。

 CKDの診断のきっかけは、8割は「健康診断」「他疾患の治療時」だったが、2割は診断を受けるまでに「5年以上の期間があった」ことが分かった。実際に治療を開始するまでに長い時間が経過しており、せっかく検査を受けても、経過診断が進んでいない実態が明らかになった。

 CKDに対する理解促進と、患者同士のコミュニケーションの場をより多く作っていく必要性が示された。

透析導入前の保存期のCKD患者の経験や負担を調査

 「慢性腎臓病(CKD)」は、腎障害や腎機能の低下が持続する疾患。CKDの治療を受けずに放置して、進行してしまうと、末期腎不全にいたり、透析療法や腎移植術が必要となる。また、CKDは、死亡や心筋梗塞、脳卒中、心不全などの心血管疾患の危険因子になることも知られている。

 CKDの治療目的は、腎機能の低下を抑え、末期腎不全への進行を遅らせること、さらには心血管疾患の発症を予防すること。CKD患者には、毎日の生活スタイルの改善、食事でのカロリー・塩分・タンパク質の摂取制限、高血圧や糖尿病などの原疾患に対する治療など、総合的な治療・管理が求められる。

 CKDは、生活改善や治療にともなう経済的な負担に加えて、生活の質(QOL)も低下させる。しかし、これまでに透析導入前の保存期のCKD患者の経験や負担を明らかにした報告は限られていた。

 そこで、一般社団法人ピーペックと日本ベーリンガーインゲルハイムは、透析や腎移植にいたっていない保存期の「慢性腎臓病(CKD)」の患者の経験や負担を明らかにする調査を実施した。研究結果は、「Advances in Therapy」に掲載された。

CKD診断のきっかけは8割が「健康診断」「糖尿病などの他疾患の治療時」

 調査は、維持透析や腎移植を受けていない保存期のCKD患者の、疾患および治療の経験や認識を知ることを目的に、複数のパネルを介して募集した20歳以上の日本人CKD患者342人(50~60代がおよそ半数)を対象にウェブで実施した。

 専門家のアドバイスのもとに作成した質問票を用いて、患者の背景、疾病・治療、日常の負担、および今後の治療へのニーズや期待などを尋ねた。

 また、患者団体から推薦された患者5人の参加のもと、アドバイザリーボードも実施。主に、アンケート調査の結果をもとに設定したトピックに焦点をあて、調査結果を補足・解釈するための情報を収集した。

 その結果、CKDの診断のきっかけは、81%が「健康診断」および「他疾患の治療時」と回答したが、CKDの診断を受けるまでの期間が5年以上だった患者の割合は20.8%に上った。

 CKDは、その成因の違いからくる多様性が際立つ疾患であり、診断までに大幅な期間を要するケースがあるとしている。

 治療のゴールについては、CKDの治療を始める際に、治療のゴールを共有されたという回答は14.3%にとどまった。明確なゴールの提示がないことへの不安や、ゴール自体の定義に関する疑問などがあることも浮き彫りになった。

CKDへの理解や支援が不足 患者同士の交流の場も十分ではない

 疾患への理解については、65.7%が「診断を受けるまでCKDを知らなかった」と回答した。これらの結果にともない、CKDへの周囲の正しい理解や支援がいまだに不足しており、それらの提供を促す必要があることが明らかになった。

 また、CKD患者は、同じ疾患をもつ患者のことを「もっと知りたい」と思っているが、保存期の患者同士の交流の場は十分ではないなど、共通する患者のニーズ・優先事項が明らかになったとしている。

 調査を共同で実施したピーペックは、「病気をもっているからこそ社会を変えるパワーがある」という共通の想いを胸に、10年以上にわたり、それぞれの慢性疾患領域で生活や就労支援、エンパワーメント支援の活動をしてきた仲間が集い、2019年に設立した一般社団法人。

 「病気をもつ人や、そのご家族、患者会、さまざまな企業、地域のみなさんとつながり、"病気があっても大丈夫"と言える社会の実現を目指しています」としている。

 自身もCKDの患者で、ピーペックの代表理事である宿野部武志氏は次のように述べている。

 「現在、医療やライフサイエンスの領域でPPI(患者市民参画)が進み、医療におけるさまざまな場面でも病気をもつ立場からの参画の機会が拡がっています。今回は、私自身がもつ"腎臓病"をテーマに研究に関わらせていただいたことに大変感謝しております」。

 また、同研究の専門家アドバイザーで論文の責任著者である大阪医科薬科大学腎臓内科の美馬晶先生はこう述べている。

 「CKDに関する調査は多く実施されているなか、保存期CKD患者の負担や日常などを調査した研究は限定的です。今回の研究により、明確な診断基準があるにもかかわらず、診断までに5年以上かかっている患者が約2割に上り、CKDに対する理解促進、および患者同士のコミュニケーションの場をより多く作っていく必要性が明らかになりました」。

Experience and Daily Burden of Patients with Chronic Kidney Disease Not Receiving Maintenance Dialysis or Renal Transplantation (Advances in Therapy 2022年11月29日)
一般社団法人 ピーペック
ベーリンガーインゲルハイムジャパン

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]