リレーコラム「教えて!肥満症」
第6回 肥満症の治療の進め方―治療の選択肢と肥満スティグマ

2026年04月27日

門脇 孝
日本肥満症予防協会 執行理事
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 院長
日本医学会・日本医学会連合 会長

肥満症の治療の進め方―治療の選択肢と肥満スティグマ

 これまでのリレーコラムでは、減量によって肥満症に伴うさまざまな健康障害が改善すること、また食事療法や運動療法によって体重の3%程度の減量でも多くの検査値が改善することを紹介してきました。さらに、より大きな減量が必要な場合には、近年使用可能となった効果の高い肥満症治療薬についても紹介しました。

 今回は、肥満症の治療の進め方と治療の選択肢についてわかりやすく説明します。あわせて、あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、治療の妨げになることがある「肥満スティグマ(偏見)」についても取り上げ、安心して肥満症治療を受けられる環境づくりについて考えます。

肥満症治療の進め方


図1 肥満症治療指針

 日本肥満学会の治療指針では、まず体重の3%以上の減量を目標とします。これは、わが国の研究により、この程度の減量でも複数の健康障害が改善することがわかっているためです。
 一方、BMIが35以上で健康障害を伴う「高度肥満症」の場合には、体重の5~10%の減量を目標とします。目標を達成した場合でも、健康状態に応じて目標を見直し、治療を継続していくことが大切です。

 治療の基本は食事療法、運動療法、行動療法(継続するための工夫)の3つです。これらはすべての治療の土台であり、薬物療法や外科療法を行う場合でも必ず併用します。
 これらを実践しても十分な減量が得られない場合には、食事療法の強化、薬物療法、外科療法といった次のステップを検討します。

 現在、保険適用のある肥満症治療薬としては、注射薬のセマグルチドチルゼパチドがあります。
 なお、肥満症治療では「体重を減らすこと」そのものが目的ではなく、健康障害を改善するための手段です。体重だけでなく、血糖値や血圧などの改善状況も合わせて評価することが重要です。

肥満症治療の選択肢


図2 肥満症治療の選択肢

 肥満症に伴う健康障害は、体重の約3%の減量で、血糖・脂質・血圧・肝機能・尿酸値などが改善することが知られています。これは、食事療法や運動療法で十分に達成可能な範囲です。
 さらに、約8%の減量を達成・維持できれば、検査値が正常化する可能性もあります。また、脂肪肝や睡眠時無呼吸症候群などの改善も期待できます。

 一方で、食事療法や運動療法に6か月以上取り組んでも十分な効果が得られない場合には、薬物療法を検討します。セマグルチドやチルゼパチドを用いた治療では、多くの方で5%以上の減量、場合によっては10~15%以上の減量が期待できます。これにより、検査値の改善に加えて、腎臓病や変形性関節症などの合併症の改善も期待されます。

 ただし、薬物療法中も食事・運動療法は継続が必要です。また、吐き気や下痢などの副作用が出ることがあるため、医師と相談しながら調整していきます。高度肥満症で薬の効果が十分でない場合には、外科療法(手術)が選択されることもあり、より大きな減量が期待できます。
 治療法の選択については、主治医とよく相談しながら進めることが大切です。

治療の妨げとなる「肥満スティグマ」

 肥満の原因は、遺伝、体質、環境、社会的背景など、さまざまな要因が関係しています。しかし実際には、「生活習慣の問題」として捉えられ、「自己管理ができていない」といった誤解や偏見(=肥満スティグマ)にさらされることがあります。

 その結果、自分を責めてしまうことや医療機関を受診しにくくなることなどの問題が生じ、適切な治療の機会が失われることもあります。
 これまでの肥満症治療は生活習慣の改善に大きく依存していたため、「自己責任」という考えが強まりやすい側面もありました。しかし現在では、効果の高い治療薬や外科療法などの進歩により、肥満症や高度肥満症は他の病気と同様に必要があれば薬や手術で治療する疾患と考えられるようになってきています。

 このような理解が広がることで、肥満スティグマの解消につながることが期待されます。

(2026年04月)