世界肥満デー2026 in 名古屋市立大学病院

2026年04月27日

 去る2026年3月4日の「世界肥満デー」にあたり、肥満が引き起こす健康障害や予防法について広く啓発することを目的とした肥満症専門医や管理栄養士による講演を実施。会場では一般来場者が参加できる講演、体組成測定体験コーナーや個別相談ブースに加え、疾患啓発を目的としたカルテットコンサートも同時に開催され、多面的な取り組みが展開されました。

開催概要

日時:2026年3月4日 10:00~
会場:名古屋市立大学病院4階 第1会議室
主催:名古屋市立大学病院 肥満症治療センター
後援:日本肥満症予防協会、西日本肥満対策コンソーシアム

開催あいさつ

名古屋市立大学病院 肥満症治療センター 内分泌・糖尿病内科 講師 小山博之先生

 近年、肥満症治療における食事療法、運動療法および行動療法の重要性が再確認され、特に体重の定期的な測定や生活習慣の自己管理は、行動療法として有効な治療手段であることが示されています。
 また、減量は単なる体重減少だけでなく、体組成の変化に留意する必要があり、過度な炭水化物制限などにより体重減少を認めた場合でも、脂肪のみならず筋肉量も同時に減少する可能性があり、これが基礎代謝の低下を招き、結果として減量の停滞やリバウンドの一因となっています。

 筋肉はエネルギー代謝において重要な役割を担う臓器であり、その維持は肥満症治療において極めて重要です。体重や体脂肪率に加え、筋肉量の評価を行い、自身の体組成を把握することが推奨されています。近年では体組成計等を用いることで筋肉量の把握が可能であり、治療および生活習慣改善の指標として有用です。

 以上の理由から、肥満症管理においては体重減少のみを目的とするのではなく、筋肉量の維持・改善を含めた包括的な体組成管理が重要であると考えます。

講演Ⅰ「知っておきたい肥満症の正しい知識」


公開講座の様子

名古屋市立大学病院 病院助教 内分泌・糖尿病内科 清水優希先生

■BMIと肥満リスクの関連およびメタボリックドミノ

 肥満評価指標であるBMIについては、日本人の男女ともにBMI22~22.5付近を最小リスクとするJカーブ現象が認められ、BMIの上昇に伴い高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、さらには心血管・脳血管疾患の合併リスクが増大することが示されています。さらに、「メタボリックドミノ」の概念に基づき、生活習慣病が連鎖的に進展し、最終的に腎症、失明、脳卒中、認知症といった重篤な転帰に至る過程です。上流因子が肥満と位置づけられ、病態形成における中心的役割となっています。
 また、肥満と肥満症は明確に区別されるべき概念で、肥満はBMI25以上とされているのに対し、肥満症は肥満に加えて健康障害の合併、あるいは内臓脂肪蓄積を伴う病態を指し、臨床的介入の対象となります。BMI30以上は高度肥満症と分類されます。

■肥満症に関連する主な合併症

 肥満症に関連する主な健康障害としては、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧のほか、脳血管障害、非アルコール性脂肪性肝疾患、月経異常、不妊症、整形外科的疾患、睡眠時無呼吸症候群等が挙げられ、胆石症、気管支喘息、悪性腫瘍との関連も報告されています。高度肥満症においては、心不全、低換気症候群、呼吸不全などの重篤な合併症を呈する例もあります。

■肥満症の治療戦略

 治療においては、合併症管理と並行して肥満への介入が不可欠となります。肥満症治療はガイドラインに基づき、体重の3%(高度肥満症では5~10%)減少を初期目標とし、食事療法、運動療法、行動療法を基本とします。これらの介入で十分な効果が得られない場合には、薬物療法および外科的治療が適応となります。
 名古屋市立大学病院では肥満症治療センターを設置し、内科を中心として睡眠医療、リハビリテーション医学、消化器外科等との多職種連携による包括的診療体制を構築しています。さらに、臨床心理士および管理栄養士が介入し、外来・入院双方において多面的な治療を実施しています。

■初診時評価と個別化医療

 初診時には、複数の健康障害の有無を系統的に評価するとともに、家族歴および服薬歴を含む詳細な問診により二次性肥満の鑑別を行い、個別化された治療方針を策定します。
 入院減量プログラムは約2週間を標準としており、食事療法では1日600~800kcal程度のエネルギー制限を行います。リフィーディング症候群予防の観点から、退院前には段階的な栄養再導入を行います。運動療法はリハビリテーション科と連携し、身体活動量の定量的評価および目標設定を行っています。行動療法としては、体重の頻回測定、食事記録、食行動の修正を通じて自己管理能力の向上を図ります。薬物療法においては、既存薬に加えGLP-1受容体作動薬などの新規治療薬も適応に応じて導入しています。

■外科的治療の位置づけと患者支援

 外科的治療としては、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術およびスリーブバイパス術が施行されており、摂取制限および吸収抑制の双方の機序により有意な体重減少が期待されます。これらの術式は保険適用下で実施可能です。加えて、患者教育および治療継続支援の一環として患者会活動も行われており、患者間の相互支援および医療関係者との情報共有の場が提供されています。

講演Ⅱ「食事と生活習慣を見直してみませんか?」

名古屋市立大学病院 栄養科 花村由香里先生

■生活習慣改善の重要性と行動変容の意義

 肥満症は長期的な健康状態に大きな影響を与える疾患であり、日常的な生活習慣の改善が不可欠である。食事および生活行動は本日からでも介入可能な重要因子であり、小さな行動変容の積み重ねが将来の健康および生活の質(QOL)の維持に寄与します。
 栄養指導の現場において、「食べていないのに体重が増える」との訴えは頻繁に認められるが、実際には脂質の過剰摂取や身体活動量の低下が関与している場合が多い。特に脂質は1gあたり9kcalと高エネルギーであり、外食や加工食品の増加に伴い無自覚の過剰摂取につながりやすい。

■サルコペニア肥満の病態とリスク

 身体活動量の低下と高エネルギー食の組み合わせは、サルコペニア肥満の発症リスクを高める。これは筋肉量の減少と脂肪量の増加が同時に進行する病態であり、生活習慣病リスクの増大および将来的な要介護状態への移行と関連します。
 体重、筋肉量、体脂肪量のバランスが重要であり、標準体重であっても筋肉量が少なく体脂肪量が多い場合にはサルコペニア肥満のリスクがある。このような症例では、単なる食事制限ではなく、適切な栄養摂取と運動を組み合わせた介入が必要です。

■食事療法の基本と具体的実践

 食事療法の基本として、1日3食において主食・主菜(タンパク質)・副菜(野菜)を揃えることが推奨される。また、「さあ、にぎやか(に)いただく」を合言葉に、多様な食品群をバランスよく摂取することが重要である。朝食ではタンパク質補給、昼食では単品メニューの回避、夕食では脂質を抑えた調理法の選択が推奨され、外食時にも栄養バランスへの配慮が必要です。

■身体活動の実践指標

 間食は原則として控えることが望ましいが、摂取する場合には時間帯および内容に留意する必要がある。特に就寝前や頻回摂取は避け、午後の早い時間帯に乳製品や果物などを選択することが推奨される。
身体活動については、「1日10分の追加運動」が現実的かつ有効な目標とされる。短時間であっても継続することでエネルギー消費量の増加につながり、体脂肪減少に寄与する。特に日常生活における歩行の増加は実践しやすい方法です。

 規則正しい食事時間の設定や十分な睡眠(7時間以上)の確保は、食欲調節にも関与する重要な要素であり、生活習慣全体の改善に寄与します。行動変容においては完璧を求めすぎず、継続可能な範囲で取り組むことが重要である。小さな改善の積み重ねが将来的な健康状態の向上につながるため、個々の生活に応じた現実的な目標設定が求められる。

最後に

名古屋市立大学病院 肥満症治療センター 副センター長 内分泌・糖尿病内科 准教授 田中智洋先生

 本日の講演では、肥満症に対する理解促進と最新の治療動向を紹介しました。世界肥満デーは肥満に対する正しい認識を共有する日であり、世界では約30億人が肥満または関連リスクを有するとされます。
 肥満は従来、生活習慣の問題として捉えられがちでした。しかし近年では脳の食欲調節機構や代謝特性に基づく疾患として理解が進んでいます。治療においては薬物療法や外科的治療の進歩により選択肢が拡大しており、個々の病態に応じた介入が可能です。さらに行動療法として摂取カロリーの時間配分やタンパク質摂取の工夫など、日常生活における具体的な実践方法についてもご紹介しました。

 肥満症は社会全体で取り組むべき疾患だと思いますので、皆様のご理解が重要だと思います。本日はありがとうございました。


InBody©による身体チェックも

肥満症対策に関する講演・イベントのご紹介募集のご案内

 一般社団法人日本肥満症予防協会では、肥満症の予防および改善に積極的に取り組む医療機関、企業・団体、自治体の活動を広く支援する取り組みを行っております。
 その一環として、各地で開催される講演会や市民公開講座、健康イベントなどの情報を当協会にて収集・発信し、優れた取り組みの共有および社会全体への啓発につなげてまいります。

 つきましては、今後、肥満症に関連する講演やイベントの開催をご予定されている医療機関・企業・自治体の皆様におかれましては、ぜひその内容をご提供いただきたくお願い申し上げます。ご応募いただいた企画につきましては、当協会の会報誌「Obesity Report」や各種媒体を通じてご紹介させていただく予定です。
 本取り組みは、各施設の実践事例を広く共有することで、肥満症対策の質の向上と普及促進を図ることを目的としております。規模の大小を問わず、地域に根ざした活動や新たな試みなども歓迎いたします。

 肥満症は社会全体で取り組むべき重要な健康課題です。皆様の活動を広く発信し、次なる取り組みへとつなげていくためにも、ぜひご協力賜りますようお願い申し上げます。
 皆様からのご応募を心よりお待ちしております。

・応募受付フォーム肥満症対策に関する講演・イベントのご紹介募集
・応募締め切り:2026年12月末

(2026年04月)