リレーコラム「教えて!肥満症」
第7回 言い訳の多い人へのアプローチ

2026年05月25日

坂根 直樹
日本肥満症予防協会 執行理事
独立行政法人国立病院機構京都医療センター 予防医学研究室 室長

はじめに

 近年、肥満症治療薬は大きく進歩し、臨床における選択肢は広がっています。これらの薬剤を安全かつ効果的に活用するためには、認知行動療法などの行動変容支援を併用することが重要です。
 一方で、医療費の負担から薬物療法を継続できない方や、使用中止後のリバウンドを懸念する方も少なくありません。また、自己流のダイエットに繰り返し挑戦してはリバウンドを経験し、自信を失ってしまうケースも多くみられます。
 その結果、「自分は太りやすい体質だ」「水を飲んでも太る」といった形で、行動を妨げる認知や言い訳をする人もいます()。このような人にどのようにアプローチすればよいのでしょうか。

言い訳は「指導方法を変えるサイン」

 外来で肥満症を持つ人と話をしていると、しばしば次のような言葉に出会います。

  • そんなに食べていないのに太る
  • 頑張っているのになかなか痩せない
  • やろうと思うけど、三日坊主で終わる

 中には「痩せるお茶を飲んでいるのに...」といった外的要因に原因を求めるケースもあります。特に女性では、仕事・家事・育児・介護など複合的なストレスを背景に、「間食をやめるとストレスがたまる」と訴えることが少なくありません。
 しかし、信頼関係ができたあとに丁寧に話を聞くと、ストレスがない時でも習慣的に間食をしていることが明らかになることも多いのが実際です。

 運動に関しても、働き盛り世代では「時間がない」と言われることが多く、夏は「暑いからできない」、冬は「寒いからできない」、春は「花粉症で難しい」、さらには秋になると「イベントが多くて時間が取れない」といった具合に、季節や生活状況に応じて運動できない言い訳がどんどん変化します。
 すなわち、運動できない言い訳は一定ではなく、状況に応じて置き換わるのが典型的なパターンなのです。

 この言い訳のことを、専門用語では「心理的抵抗」(psychological resistance)といいます。それに対して、「食べ過ぎているから太るんです」(病態的には正しい)と反論すると、「私は太りやすい体質だ!」と抵抗はさらに強まります。
 そのため、言い訳を分析し、現在の減量指導を変えるサインだと気づくことが大切です。

言い訳を分析すると...

 肥満症を伴う人が減量に対していう言い訳は、「意志が弱くて続かない」など自分に原因を求める内的要因型と、「仕事で食べる時間が遅くなる」(仕事のせい)、「近所の人からのもらいものが多い」(他人のせい)など、自分以外に原因がある外的要因型に分けられます(表1)。
 前者は自己効力感の低さと関連し、肥満スティグマを引き起こす原因となります。後者は責任の外在化と関連しています。そのため、前者では次に述べる「意志が弱い」訴える人へのアプローチ方法を試します。後者ではいずれも単純な説得では変化しにくく、環境調整と代替行動の設定(例:遅い日は軽食に変更、室内運動など)、ダイエットサポーターを活用するなどアプローチの工夫が必要です。

表1 言い訳の分類
分類
自分が原因
(内的要因型)
「意志が弱くて、続かない」
「根性がない」「3日坊主になる」
自分以外が原因
(外的要因型)
「仕事で食べる時間が遅くなる」
「近所の人からのもらいものが多い」
「天候が悪くて運動できない」

「意志が弱い」へのアプローチ:MCII(WOOP)

 「もっと頑張りましょう」「気合いが足りません」といった助言は、実臨床ではあまり効果的ではありません。意志力は有限であり、日常生活の中で容易に消耗してしまうため、行動変容を意志力に依存させないアプローチが重要です。

 その代表が、MCII(Mental Contrasting with Implementation Intentions)、すなわちWOOP(Wish, Outcome, Obstacle, Plan)です。MCIIでは、まず望ましい未来を具体的にイメージし(ポジティブ)、次にそれを妨げる現実の障害を明確にします(ネガティブ)。この「ポジティブ→ネガティブ」の順序により、目標は単なる願望から達成すべき課題へと変わり、障害も「できない理由」ではなく「対処すべき課題」として捉え直されます。
 一方で、「良い結果」を強調するだけの関わりや、脅しや努力を促すだけの関わりは、行動の具体化や持続につながりにくいとされています。また、根拠のない励ましも現実逃避を助長する可能性があります。
 これに対して、「痩せたらどんな良いことが起こりますか?」に続いて「それを妨げているものは何ですか?」と問いかけることで、課題と対処法を明確にできます。さらに、「もし〜ならば、〜する」という実行意図を組み合わせることで、行動はより実践的かつ自動化されます。
 このようにMCIIは、「意志の強さ」に頼るのではなく、認知と行動の仕組みを整えることで、持続的な行動変容を支援します(表2)。

表2 減量に対するMCIIの例:ポジティブな未来とネガティブな現実の対比
指導パターン 「声かけの例」(特徴)
ポジティブのみ 「痩せると体も軽くなって、見た目も良くなりますよ!」
(ガンバリズムで押し通す、成功イメージだけ、現実逃避、行動につながらない)
ネガティブのみ 「このままだと悪化します」→「もっと気をつけないといけません」
(問題ばかり注目、無力感、回避)
ネガティブ
→ポジティブ
「このままだと悪化します」→「頑張りましょう」
(脅し+励まし、努力依存、一時的な動機づけ)
ポジティブ
→ネガティブ
「痩せたらどんなことが起こりますか?」(望ましい未来を描く)
→「その妨げになるのは?」(現実の障害)
(心的対比:未来+障害を統合、持続的な動機づけ)
→「その時はどうしましょうか?」(実行意図)

おわりに

 肥満症のある方の中には、これまでに何度も減量に挑戦しながら、思うような成果が得られなかったり、リバウンドを繰り返した経験から自信を失い、肥満の自己スティグマ(自尊感情の低下)に陥っている方も少なくありません。さらに、「こうあるべき像」とのギャップ、いわゆる乖離的スティグマを背景に、行動を妨げる理由や言い訳が出てきます。
 しかし、こうした言い訳は単なる抵抗ではなく、その人の現実や困難を反映した重要な手がかりと捉えることができます。それを契機に、肥満症の治療に治療共同体で取り組むことができるようになるといいですね。

参考図書

坂根直樹:保健指導・栄養指導に役立つ キーワードと理論で磨く伝える力、中央法規出版、2023

(2026年05月)