リレーコラム「教えて!肥満症」
第8回 睡眠時無呼吸治療のパラダイムシフト
2026年06月26日
塩見 利明
日本肥満症予防協会 執行理事
愛知医科大学 名誉教授
一般社団法人日本睡眠学会 監事
「睡眠障害」診療科名に追加、看板・広告で標榜可能に
6月1日から医療法施行令において、医業について、内科等と組み合わせて広告をすることができる疾病又は病態として、感染症、腫瘍、糖尿病及びアレルギー疾患が定められているところ、これに「睡眠障害」が追加され、内科又は精神科といった単独で標榜できる診療科名と組み合わせて「睡眠障害内科」もしくは「睡眠障害精神科」等を標榜することが可能になりました1)。夜に眠れない、昼に眠気が強い、朝に起きられない、いびきがうるさい、そんな悩みで困ってこられた患者さん達にとって福音に違いありません。
新たな標榜診療科の追加は2008年以来のことです。私は2008年から愛知医科大学病院に独立診療科として日本初の「睡眠科」を立ち上げてきた経験がありますが、愛知医科大学病院の睡眠科は現在も院内標榜だけの診療科に過ぎないため、これからは全国津々浦々の街角に1日も早く睡眠障害〇〇科を標榜するクリニック又は診療所が多数開設されることを願っています。
肥満症とOSAのただならぬ関係

図1 閉塞性睡眠時無呼吸 (OSA)の多彩な臨床症状
睡眠時無呼吸(Sleep Apnea)は、閉塞性、中枢性、混合性の3種類に分類されますが、大いびきや日中の過度な眠気を訴える成人の患者さんの大半は閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea、以下OSAと略す)です。OSAは肥満症ともただならぬ関係があり、図1に示すような多彩な臨床症状を訴えます。
肥満はOSAの最も重要なリスク因子の1つであり、改善可能な要因です。減量は上気道の閉塞を減少させることで無呼吸を軽減させます。睡眠ポリグラフ検査では、夜間睡眠中の1時間あたりの「(閉塞性)無呼吸」と「(閉塞性)低呼吸」の合計回数を無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index;以下AHIと略す)と呼び、この指数(/時間)が5以上(AHI≧5)の場合にOSAと診断されます。OSAの重症度に関しては通常、軽症(5≦AHI<15)、中等症(15≦AHI<30)、及び重症(AHI≧30)の3群に分類されます。AHI≧15 が治療の必要な「中等症以上のOSA」です。米国で行われた大規模研究「ウィスコンシン睡眠コホート研究」の追跡調査では、体重が10%増加するとAHIは32%増加し、逆に10%やせるとAHIは26%減少することが明らかにされています2)。複数のメタ解析の結果も同様であり、いずれも一貫して体重減少に伴いAHI が改善することが示されています。そのため、肥満を伴うOSAでは基本的な治療戦略として減量を実施することが推奨され、減量により循環器疾患リスク因子の改善も期待されてきました。
しかし、これまでの肥満を伴うOSAの治療では、生活習慣への介入のみで体重の10%以上の減量を達成することは難しく、AHIが治療の目標値まで改善するほどの効果はなかなか見込めないため、減量は単独の治療法ではなく、持続的気道陽圧(continuous positive airway pressure ; 以下CPAPと略す)又は口腔内装置といった他の治療と併用することが推奨されるに留まっていました。さらに、2014年から肥満の外科手術(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術等)が保険収載されていますが、OSAの場合の適応は高度肥満者(BMI≧35kg/m2)に限られているため、普及するには至っていません。そのため、肥満を伴うOSAの治療では、循環器又は呼吸器の内科医でも使用できる安全な肥満症の治療薬の登場が長年にわたり待ち望まれてきました。
広まり続けるCPAP治療とその限界
CPAP治療は1998年に保険収載されてから現在に至るまでもっとも有効で安全な標準治療とされてきました。CPAPの保険適用はAHIが目安になります。今回の診療報酬改定により、1998年以降AHI≧20だったCPAPの適応数値が6月1日からAHI≧15(中等症以上)へと引き下げられました。この改定自体は、わが国だけがAHI≧20という中途半端な適応数値であったのがAHI≧15の世界標準に引き下げられたわけであり、これからは当然の成り行きとしてCPAP治療はわが国でさらに広まり続けると思われます。
しかし、わが国のCPAP治療には二つの大きな問題点、すなわち限界があることも周知しておくべきでしょう。一つ目の限界は、図2に示すごとく、世界的にOSAの患者数はあまりにも多く、30~60歳代の日本人におけるOSAの有病者数は軽症(AHI≧5)を含めると約2,200万人(33%)、その中で治療が必要な中等症以上(AHI≧15)のOSAの有病者数は約940万人(14%)という推計結果が報告されているからです3)。なんと日本人の30~60歳代では約7人に1人の頻度であり、もしもその全例がCPAP治療の適応になるならば、これはわが国の医療経済的にみてもコストの負担がかさみ過ぎるため大きな問題点となるでしょう。二つ目の限界は、CPAP治療があくまでも「対症療法」に過ぎないという問題点です。CPAPはそれを適切に使っている間は確実に無呼吸を防ぎ、昼間の眠気を消失させることからQOL的には非常に有効な治療法に違いありませんが、残念ながらCPAPの単独治療には減量効果がなく、やめると多くの場合はすぐにOSAが再発します。さらにCPAPの継続治療におけるアドヒアランスは以前からの課題であり、約3人に1人が治療から脱落するという問題点が指摘されています。そのため、睡眠医学の研究者の間では、以前からCPAP治療を凌駕する治療法の開発が待ち望まれていました。

図2 世界の推定OSA患者数(AHI≧5, AHI≧15) 参考資料3)より引用
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)治療のパラダイムシフト
5月18日、チルゼパチド(ゼップバウンド®皮下注)は、わが国でも肥満を合併した中等度以上のOSAに対する保険適用が承認され、その最適使用推進ガイドラインも公開されました4)。チルゼパチドは既にGIP/GLP-1の両受容体に作用する肥満症治療薬として2025年4月11日にわが国で上市されていましたが、新たに投与対象となるのは「中等症以上のOSAかつBMI≧27kg/m2」に該当する患者さんです。但し、使用できる施設は「循環器内科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、内科のいずれかを標榜する保険医療機関」に限られています4)。
チルゼパチドでは、肥満を合併した中等症以上のOSAを対象に約1年間投与した国際共同第3相試験「SURMOUNT-OSA」5)が行われ、①AHIが偽薬と比べて約25〜29回減少した、②CPAP使用中の患者さんでは、4割以上でCPAPが不要になる水準まで改善した、③日中の眠気、睡眠の質、及び心血管リスクのいずれもが改善した、という非常に良好な試験成績が2024年に報告されています。これまで、OSAに対して「根本原因である肥満を医学的に治療して無呼吸を大幅に改善させた」という高いレベルのエビデンスは存在しませんでしたが、SURMOUNT-OSAの成績では薬物による減量が単なる体重減少にとどまらず、OSAそのものの重症度を劇的に改善できることが大規模RCTで初めて示されました。
チルゼパチドの承認によりOSAの治療薬としての道が開かれ、OSA治療の選択肢も大きく広がる転換点になったことは間違いないでしょう。チルゼパチドがOSA患者さんの長期予後に及ぼす影響、中止後の体重のリバウンド及びOSAの再発などまだ解決されるべき多数の疑問点や課題は残されていますが、少なくともこれまでCPAP治療が主体であった中等症以上のOSA治療においてパラダイムシフトが起こるのではないかと期待しています。
おわりに
私は1983年から循環器内科医の立場でOSAを中心とした睡眠障害の研究と診療を行ってきましたが、2026年の春は睡眠医療において、①睡眠障害〇〇科の標榜が可能となる、②CPAPの適応数値がAHI≧20から15という世界標準まで下がる、③肥満を合併した中等度以上のOSAに対するチルゼパチドが保険適用になる、さらに本コラムでは敢えてふれませんでしたが、④不眠症への認知行動療法(非薬物療法)に公的医療保険が適用される、という大きな改訂が重なり画期的な幕開けとなりました。しかし、睡眠医療の実地臨床はその教育も含めまだこれからです。私の拙い夢かもしれませんが、「わが国の地域医療における安全かつ健全な睡眠医療の樹立」の達成される日がいつしか来ることを心待ちにしております。参考資料
1)厚生労働省 報道・広報:標榜可能な診療科名に係る医療法施行令の改正について ~組み合わせで標榜可能な事項に「睡眠障害」を追加~
2)Peppard PE, Young T, Palta M, et al. Longitudinal study of moderate weight change and sleep-disordered breathing. JAMA. 2000; 284:3015-3021.
3)Benjafield AV, Ayas NT, Eastwood PR, et al. Estimation of the global prevalence and burden of obstructive sleep apnoea: a literature-based analysis. Lancet Respir Med 2019; 7: 687-698.
4)厚生労働省:最適使用推進ガイドライン チルゼパチド (販売名:ゼップバウンド皮下注)~閉塞性睡眠時無呼吸症候群~
5)Malhotra A, et al. Tirzepatide for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and Obesity. N Engl J Med. 2024;391(14):1288-1298.
(2026年06月)








