GLP-1受容体作動薬の安全・適正使用に関するステートメントを公表 日本肥満学会
「ウゴービ皮下注」が薬価収載
GLP-1受容体作動薬「ウゴービ皮下注」(一般名:セマグルチド)は、肥満症に効能・効果のある肥満症治療薬として、2023年11月22日に薬価収載された。
同一成分である「オゼンピック皮下注」は、すでに2型糖尿病治療薬として使用されており、「ウゴービ皮下注」はこれとは独立した臨床試験で、肥満症に対する効果と安全性の検証プロセスを経て上市された別の製剤となる。
厚生労働省は「最適使用推進ガイドライン セマグルチド(遺伝子組換え)」を策定、11月21日に公開をはじめた。
日本肥満学会はそれに合わせて、「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメント」を策定し、「ウゴービ皮下注は肥満症治療薬であり、適応となる疾患である肥満症に対する十分な理解のもと、安全・適正に使用されることが望まれる。とくに、健康障害をともなわない(したがって肥満症とは診断されない)肥満に用いるべきではなく、また低体重や普通体重など適応外の体重者に対し美容・痩身・ダイエットなどの目的で用いる薬剤ではない点には、十分留意すべき」と注意を呼びかけている。
同剤についてさらに、「最適使用推進ガイドラインの対象品目であるため、同ガイドラインで示されている内容についても十分に理解したうえで使用されるべき薬剤」としている。
適応症となる肥満症について、肥満は疾患ではないため、この存在のみでは本剤の適応とはならない。同剤の適応症である肥満症は"肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患"と定義されているとしている(肥満症診療ガイドライン2022)。
具体的には、肥満(BMI 25以上)に加え、減量によりその予防や病態改善が期待できる「肥満症の診断基準に必須の11の健康障害」のいずれかをともなうものを肥満症と診断し、治療の対象とするとしている。
GLP-1受容体作動薬「ウゴービ皮下注」の適応となる肥満症
同剤は肥満症と診断され、かつ、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかを有し、以下のいずれかに該当する場合に限り適応となる。
BMIが27以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する場合か、BMIが35以上である場合。すなわち、肥満症のなかでもBMIが35以上である場合は、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかを有する場合、BMIが27以上35未満である場合は、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかに加えて、11の健康障害のうちのいずれか1つを含め、計2つ以上の健康障害を有する場合、保険適用となる。
使用時に確認すべき注意点
(1) 同剤の使用に際しては、患者が肥満症と診断され、かつ適応基準を満たすことを確認したうえで適応を考慮する。
(2) 肥満症治療の基本である食事療法(肥満症治療食の強化を含む)・運動療法・行動療法をあらかじめ行っても、十分な効果が得られない場合で、薬物治療の対象として適切と判断された場合にのみ考慮する。
(3) 内分泌性肥満、遺伝性肥満、視床下部性肥満、薬剤性肥満等の症候性(二次性)肥満の疑いがある患者では、原因精査と原疾患の治療を優先させる。
日本肥満学会の「ステートメント」では、「ウゴービ皮下注」の安全性について、糖尿病治療との関連として、下記の説明をしている。
- 同剤は糖尿病を有するもの、有さないものいずれにおいても、単独で使用する場合には、低血糖を生じるリスクは少ない。ただし、他の血糖降下薬、特にインスリン製剤、スルホニル尿素(SU)薬、グリニド薬と併用する場合には、低血糖をきたす可能性が増大することに十分な注意を払う必要がある。
- 血糖降下薬を不適切に減量すると、望ましくない高血糖や急性代謝障害を引き起こす可能性もある。したがって、糖尿病に対する治療が行われている場合には、投薬を含めた治療状況を十分に把握したうえで同剤による治療を行うことが望ましく、糖尿病治療を行っている医師が処方するか、糖尿病治療を行っている医師と十分に連携をとったうえで処方するべきである。
さらに、副作用について、添付文書上の重大な副作用に、低血糖に加え、急性膵炎、胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸が示されていることを指摘。これらの副作用の発現にも注意すべきとしている。
また、特定の背景を有する患者に関する注意として、「高齢者が示されており、同剤による過剰な体重減少にも注意を払う必要がある。さらに、とくに高度肥満症においてはメンタルヘルスの変化にも注意し、自殺企図または自殺念慮を有する、あるいは既往のある患者には格別の留意が必要」と指摘。
さらに、甲状腺髄様癌の既往のある患者や、甲状腺髄様癌または多発性内分泌腫瘍症2型の家族歴のある患者に対する安全性は確立していないことや、同剤の中止によって、顕著なHbA1cの上昇や急激な肝機能の悪化などの健康障害の悪化やリフィーディング症候群をきたす可能性があることなどを指摘。最適使用推進ガイドラインの対象品目であるため、最適使用推進ガイドラインに記載されている(1) 施設・医師要件、(2) 患者要件、(3) 投与の継続・中止の判断基準、を遵守して使用されるべきことなどを記載している。
同学会は、「同剤は、適応やエビデンスを十分に考慮したうえで、最適使用推進ガイドラインの要件に沿い、添付文書に示されている安全性情報にも十分な注意を払ったうえで、減量と減量による健康障害の改善が医学的に必要な対象に限って、適正に使用されるべき薬剤である」と注意を促している。
「セマグルチド(遺伝子組換え)」 概略
- 常勤の管理栄養士による適切な栄養指導ができる施設で、内科、循環器内科、内分泌内科、代謝内科、糖尿病内科の医師が、同剤についての十分な知識を有している医師の指導のもとで処方が可能。
- 日本循環器学会、日本糖尿病学会、日本内分泌学会のいずれかにより教育研修施設として認定された施設であり、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病ならびに肥満症の診療に5年以上の臨床経験を有し、日本循環器学会、日本糖尿病学会、日本内分泌学会のいずれかの専門医資格を有する常勤医師(日本肥満学会の専門医を有することが望ましい)が1人以上所属している施設であることが処方可能な施設の要件となっている。
- 患者要件では、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかの薬物療法がなされ、適切な食事療法・運動療法を6ヵ月以上継続した上で、保険適用の範囲内で処方が可能である。投与開始後は、2ヵ月に1回以上の栄養指導を含めた適切な食事療法・運動療法を継続し、投与開始3~4ヵ月間は毎月、それ以降は2~3ヵ月に1回、体重、血糖、血圧、脂質の確認を行いながら、最大68週間投与することが可能。
- 同剤の中止後に肥満症の悪化が認められた場合は、適切な食事療法・運動療法を原則として6ヵ月以上実施しても必要な場合に限って同剤を投与することとされているが、肥満に関連する健康障害の増悪が認められた場合には、必要性について十分に検討し治療計画を作成したうえで、同剤の投与再開が可能とされている。