カラフルな野菜を食べている人は認知症の発症が少ない ホウレンソウやブロッコリーで認知症予防

 野菜や果物のカロテノイドであるルテインやゼアキサンチンなどの血中濃度が高い人や、黄斑色素として網膜に蓄積されている人では、アルツハイマー病のリスクが大幅に低いことが、大規模な調査で明らかになった。

 アルツハイマー病を発症する人は、日本を含め世界中で増えている。「カロテノイドを豊富に含む、彩り豊かな野菜や果物などの食品を食べ、運動を習慣として行うことが、脳を最適な状態に保つことに役立ちます」と、研究者は指摘している。

緑黄色野菜のカロテノイドやビタミンEが認知症リスクを低下

 アルツハイマー病を発症した患者では、発症していない患者に比べ、脳内の「ルテイン」「ゼアキサンチン」「リコピン」「ビタミンE」といった、野菜に多く含まれる成分が半分しかないことが、米国のバージニア工科大学医学部による調査で明らかになった。

 また、ルテインとゼアキサンチンを食事で多く摂取している高齢者ほど、認知機能が向上し、認知症やアルツハイマー病のリスクが低下する傾向があることが示された。

 ルテイン・ゼアキサンチン・リコピンは、緑黄色野菜に多く含まれるカロテノイドの一種で、ホウレンソウやブロッコリー、ケール、カブの葉などの野菜に含まれる。

 カロテノイドは、野菜の色素成分で、体内で増えた活性酸素を除去する抗酸化作用がある。脂溶性ビタミンであるビタミンEにも抗酸化作用があり、老化を防止する働きがあるとみられている。

 これらは体内ではほとんど合成することができず、年齢とともに減少することが知られている。そのため、食事から摂取する必要がある。

カロテノイドを豊富に含む野菜が脳を健康に

 アルツハイマー病は、認知症の原因の7割を占める、進行性の神経変性疾患。脳のなかに原因となるタンパク質がたまり、脳の神経細胞が壊されることで発症し、徐々に認知機能が障害されていく。

 アルツハイマー病を発症する人は世界中で増えており、世界で3,300万人、米国だけでも600万人が罹患していると推定されている。

 「今回の研究は、アルツハイマー病を発症した人の脳で、野菜などに多く含まれる、抗酸化作用のある成分が不足していることをはじめて証明したものです」と、同大学医学部基礎科学教育学科のキャスリーン ドリー教授は言う。

 「カロテノイドが豊富に含まれる食事をとっている人や、ルテインやゼアキサンチンの血中濃度が高い人、黄斑色素として網膜に蓄積されている人では、アルツハイマー病のリスクが大幅に低いことは、これまでの大規模な研究とも一致しています」。

 「カロテノイドなどを豊富に含む食事をとることは、あらゆる年齢層で、脳の健康状態に最高に保つのに役立つことは明らかです」としている。

健康な食事スタイルにより認知能力が向上

 研究グループは今回、「ラッシュ大学記憶・老化プロジェクト」に参加した、シカゴ在住の1,000人以上の参加者の食事と認知能力の関連を、10年以上追跡して調査した。

 その結果、野菜・魚・ナッツ類などを十分に食べ、肉類や高カロリーのジャンクフードなどの摂取量が少ない人では、アルツハイマー病の診断リスクが低下し、認知能力が向上し、アルツハイマー病に関連する脳の病変が少ないことが明らかになった。

 さらに、10年間にカロテノイドあるいはルテイン/ゼアキサンチンの摂取量がもっとも多かった群では、アルツハイマー病の発症リスクが50%低いことが分かった。

 とくに「MINDダイエット」を実践している人は、抗酸化物質が豊富に含まれる野菜や果物をより多く摂取しており、ルテインやゼアキサンチンの摂取量が多いことも分かった。

 MINDダイエットは、健康的であることが知られる「地中海式ダイエット」と、高血圧治療のための「DASHダイエット」をかけあわせて、米ラッシュ大学などが作った新しい食事スタイル。心臓病だけでなく、認知症の予防も含めて考案された。

認知症リスクの高い人の脳は酸化ダメージを受けやすい

 ミスフォールドタンパクとは、タンパク質がおりたたまれる過程で特定の立体構造をとれなくなり、体内で正しい機能や役割を果たせなくなること。

 「認知症のリスクの高い人では、正常な脳の機能とミスフォールドタンパク質への反応は、反応性の酸化分子を生成するため、脳は累積的な酸化ダメージを受けやすくなっています」と、ドリー教授は説明する。

 「しかし、これらは健康的な食事によって供給される抗酸化物質によって防ぐことができます。たとえばカロテノイドは、緑黄色野菜や果物などの色鮮やかな植物に多く含まれる、黄色や赤色の色素成分で、強力な抗酸化作用をもちます」としている。

 脳では、ルテイン・ゼアキサンチン・β-クリプトキサンチンなどのカロテノイドが選択的に蓄積されていることが、これまでに報告されている。そうした成分が、脳の老化を防止する働きをしているとみられている。

将来のアルツハイマー病の発症を抑制

 今回の研究で、食事でルテイン・ゼアキサンチン・リコピン・ビタミンEを十分に摂取すると、アルツハイマー病を予防したり、発症を遅らせることができる、さらには診断後も認知機能の低下を遅らせることができる可能性が示された。

 ルテインやゼアキサンチンは、黄色色素であり、眼の黄斑と呼ばれる網膜の中央部(物を見るときに焦点が合う部位)にもある。研究グループは、黄斑色素の光学濃度を非侵襲的に測定することで、脳内のルテインとゼアキサンチンの濃度を推定した。

 「アルツハイマー病の治療法は進歩しており、最近の成果はこの病気の進行を遅らせる効果的な方法として、素晴らしい可能性が示されています」と、ドリー教授は言う。

 「カロテノイドを豊富に含む、彩り豊かな野菜や果物などの食品を食べ、運動を習慣として行うことが、脳を最適な状態に保つことに役立つことを、多くの人に知って欲しいと思います。これらにより認知症のリスクを軽減できる可能性があることが、研究で示されています」としている。

Eat your vegetables to protect your brain (バージニア工科大学 2023年8月11日)
Low Xanthophylls, Retinol, Lycopene, and Tocopherols in Gray and White Matter of Brains with Alzheimer's Disease (Journal of Alzheimer's Disease 2023年6月)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]