わずか5分の運動でも「がんリスク」を32%減少 無理なく続けられる「新しい運動法」
2023年09月27日
わずか1日に5分の、少し息が上がるくらいの活発な運動や身体活動を行うだけで、がんの発症リスクを最大で32%減少できることが明らかになった。
保健指導などで勧められている体系化された運動を実行するのが難しいと感じていたり、魅力的ではないと思っている人でも、取り組みやすく、続けやすい運動法が求められている。
1回にわずか1分であっても体を動かすことが大切
わずか1日に5分くらいの、少し息が上がるくらいの活発な運動や身体活動を行うだけで、がんの発症リスクを最大で32%減少できることが、オーストラリアのシドニー大学などの研究で明らかになった。研究成果は、「JAMA Oncology」に発表された。 研究グループは、活動量計などのウェアラブルデバイスで入手したデータを使用して、2万人超の日常生活での身体活動を追跡した。対象となったのは、ほとんどが意識して運動をする習慣のない人たちだった。 その結果、1日にわずか4~5分間の活発で断続的な運動や身体活動であっても、何もしていない人に比べ、がんの発症リスクは大幅に低下することが示された。 研究グループは、そうした運動を「VILPA:vigorous intermittent lifestyle physical activity」と名付けて、座ったままの時間が長引いたときは、休憩をとり、立ち上がって体を動かすことを奨励している。 「1回あたりわずか1分であっても、体を動かすことを習慣として行うことは、健康増進のベネフィットをもたらします。ただし、意識的に活発な身体活動をすることが大切です」と、同大学保健医学研究所の健康科学部のエマニュエル スタマタキス教授は言う。 たとえば、▼家事をしっかりと行う、▼食料品店で重い買い物を運ぶ、▼ウォーキングはなるべく速歩で行う、▼なるべく車を使わず徒歩で用事を済ます、▼子供たちと体を使った遊びをするといったことでも、そうした身体活動を積み重ねれば、1日の終わりにはかなりの運動量になるという。1日に運動の時間をとれない人でも無理なく続けられる
「運動療法で勧められることが多いのは、高強度インターバルトレーニング(HIIT)です。これは、高強度の運動と低・中強度の運動を交互に数セット行い、最後にクールダウンをするというものです」と、スタマタキス教授は説明する。 たとえば、息が上がり汗ばむくらいの活発なウォーキングを数分間行い、その後でゆっくりとしたウォーキングを行い呼吸を整え、その2つを交互に行うというもの。これを1日に3〜10セット行う。 「高強度インターバルトレーニングは、1日にまとまった時間をとれないと続けるのが難しくなります。働いている人の多くは、毎日忙しく過ごしており、なかなか運動の時間をとれないという課題がありました」。 運動不足はがんのリスクを高める。中高年世代の人の大多数は、運動を習慣として行っていないため、がんの発症リスクが高まっている。 研究グループは今回、市販されている活動量計などのウェアラブルデバイスの性能や精度が上がっており、すでに多くの人々が日常生活の一部として利用していることに着目した。 いまでは、ほとんどの人が所有しているスマートフォンにも、運動やフィットネスをサポートするアプリを入れることができる。
毎日の仕事の合間に行う1分間の運動で寿命を延ばせる可能性がある
シドニー大学が公開しているビデオ
シドニー大学が公開しているビデオ
毎日5分の運動によりがんリスクが最大で32%減少
- VILPAを毎日3.5分以上行うと、何もしないでいるのに比べ、がんの発症リスクが最大18%減少する。
- VILPAを毎日4.5分行うと、何もしないでいるのに比べ、がんの発症リスクが最大で32%減少する。
- VILPAの毎日の実行量を増やすほど、身体不足に関連したがんの発症リスクは減少する。
- 1分間のVILPAであれば、ほとんどの人は毎日行うのが苦にならず、92%が実行できた。VILPAを習慣化すれば、その時間を増やしていくのも難しいことではないことが判明した。
短時間であっても活発な運動をすることが重要
スタマタキス教授によると、運動をする習慣のない成人は、大腸がん・乳がん・子宮内膜がんなどの特定のがんを発症するリスクが高くなる。 「意識して強度を高めた運動や身体活動であれば、1日わずか4~5分間であっても、毎日続ければ健康増進の効果をえられることが分かりました。運動の時間は1回あたり1分程度であっても、何もしないでいるよりはずっと良いのです」としている。 短時間であっても活発な運動をすることで、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きを高めることが期待できる。インスリン感受性や慢性炎症を改善することが、がん予防につながっている可能性があるという。運動に慣れてきたら、少しずつ時間を増やしていくことを勧めている。 「今回の研究は、観察研究であり、原因と結果の因果関係を直接調べたものではないという限界があります。この関連については、今後のしっかりとした試験を通じて、さらに調査していく必要があります」と、スタマタキス教授は付け加えている。 「しかし、保健指導などで勧められている体系化された運動を実行するのが難しいと感じていたり、魅力的ではないと思っている人にとって、VILPAは取り組みやすいと感じられるはずです。VILPAは、がんリスクを低下できる、特別な費用も必要にならない、有望な薬になる可能性があります」としている。 Short bursts of daily activity linked to reduced cancer risk (シドニー大学 2023年7月28日)Vigorous Intermittent Lifestyle Physical Activity and Cancer Incidence Among Nonexercising Adults: The UK Biobank Accelerometry Study (JAMA Oncology 2023年7月27日)
[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]
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