地震で不眠が続いている? 睡眠を十分にとるための対処法を公開
2016年04月28日
日本睡眠学会は、地震などの災害でストレスを受け睡眠問題を抱えた人への対応に関する情報を、同学会の公式サイトで公開した。
ストレスがかかったときの不眠は正常な生体反応
熊本県を震源とする地震に見舞われた被災地の中には、睡眠もままならない人が少なくない。避難生活では慣れない環境の中でストレスも増し、睡眠不足に陥りがちだ。
また、震災後の不眠は被災地以外でも生じる。繰り返しテレビなどで流れる報道が脳裏から離れず、夜中に不安を感じて寝つかれない夜を過ごしたという人も多いだろう。
震災のような大きなストレスを受けたときに、多くの人は不安を感じ情動の興奮が起こる。そのため過剰に覚醒した状態である「情動的過覚醒」におちいる。これが夜間にも持続するため自然な眠りの出現を妨げる。
通常の場合には、危機的状況から抜けだし不安の原因が解決するにつれて、情動的過覚醒は自然に緩和されて、不眠症状も改善していくという。
そのため震災後の4~8週間にみられる不眠に対しては、あまり心配する必要はない。ただし、8週間を超えてる不眠は注意が必要となる。不眠症状だけではなく、日中に不眠による深刻な問題がある場合には治療が必要となるという。
睡眠を確保するためのポイント
日本睡眠学会が公開したのは、日本大学医学部精神医学系の内山真教授による東日本大震災発災時の睡眠問題への対応策だ。避難所など慣れない場所での睡眠を確保するポイントとして、次のことを挙げている
(1)睡眠時は体を冷やさない体が冷えると、特に足の甲、手の甲が冷たいと、寝つけなくなる。靴下や手袋をするなどして、できるだけ手や足を温かく感じられるように工夫すると眠りやすくなる。
避難所に生活する人のために、夜間眠れない人が明るい中で暖かく起きていられる場所を確保することも重要だ。 (2)日中に活動したり、太陽の光を浴びたりして過ごすなど、昼夜にメリハリを付ける
体には「生物時計」が備わっており、昼間の活動と夜間の休息のリズムをつくっている。毎日決まった時刻に起き、起床後には明るい光を浴びることなどを心がけると、生物時計を調整しやすい。
逆に夜には、明るい照明を浴びないようにして、リラックスして過ごし、脳に信号を送ると睡眠を得やすくなる。
不眠があっても淡々と受け止め、日々の生活をこなすことに集中することが大切だ。 (3)可能な限り自分のペースで休む
「眠れるときに眠る」という考え方も必要だ。夜に皆と一緒に眠らなくてはならない、という思い込みはかえって睡眠に対する「身構え」を強くし、不安を高め、消灯すると目が冴えてしまうという「不眠恐怖症」の状態に陥るおそれがある。
「今は体が眠りを求めていない」と良い意味で開き直り、自然な眠気がくるまで、呼吸をゆっくりと整え、静かに横になっているだけでも効果があるという。 (4)お酒を飲むのを控える
睡眠薬代わりにお酒を飲むのは控えた方が良い。飲酒により寝つきが良くなる人もいるが、じきに効果は弱くなる。逆に、飲酒は質の良い睡眠を減らし、朝方の目覚めが多くなってしまう。
睡眠不足は糖尿病や心筋梗塞などのリスクを高める
日本睡眠学会のリリースでは、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の三島和夫氏の情報も紹介している。
情動的過覚醒が2ヵ月続くと、身体の過覚醒が生じるようになる(生理的過覚醒)。交感神経の緊張が持続的に高まり、ストレスホルモン(副腎皮質ホルモンなど)の分泌が過剰になるなどの変化が生じる。
生理的過覚醒に陥ると、もともとの原因(震災ストレス、不安感)が解決しても不眠症状が改善せず、不眠が持続することで生理的過覚醒はさらに強くなる悪循環に陥ってしまうおそれがある。
慢性的な睡眠不足は日中の眠気や意欲低下・記憶力減退など精神機能の低下を引き起こすだけではなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られている。
睡眠不足が2日間続いただけで、食欲を抑えるホルモンである「レプチン」の分泌が減少し、逆に食欲を高めるホルモンである「グレリン」の分泌が亢進するため、食欲が増大する。慢性的な寝不足の状態にある人は、2型糖尿病や心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病が悪化しやすいことが明らかになっている。
入眠困難や中途覚醒・早朝覚醒など不眠症状のある人では睡眠を十分にとっている人に比べ、2型糖尿病を発症するリスクが1.5?2倍に上昇するという。
睡眠不足が続く場合は睡眠薬を用いた治療を
一般的な不眠対処法が無効なときには、睡眠薬を用いる治療が勧められるという。睡眠薬を服用することに対して依存症などの不安を抱く人が少なくないが、現在の睡眠薬は安全性が高いので、医師の指示を守りながら服用すれば心配する必要はないという。
眠りを取り戻すことで、生理的過覚醒と慢性不眠の悪循環を断ち切れれば、睡眠薬の減量や中止も可能だ。
睡眠薬は消失半減期から選択されることが多い。一般的には、入眠困難には超短時間・短時間作用型が、中途覚醒や早朝覚醒などの睡眠維持障害には中間・長時間作用型が推奨されている。
なお、震災地では特に高齢者で、強いストレス、睡眠不足、環境の急激な変化などから「せん妄」という不眠症に似た病気になりやすいことが分かっている。せん妄は、意識混濁に不穏・興奮が加わった状態だ。
一般的には強い不眠があり、逆に昼間には午睡が増える(昼夜逆転)。もうろう状態のまま夜間徘徊したり、興奮して大声を出すこともある。
習慣性飲酒のあった人が震災後に急に断酒をした後にせん妄が出現することがある(振戦せん妄)。この場合には至急の対処が必要なので、できるだけ早く医療関係者に相談する必要がある。
日本睡眠学会
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