【勤労者の長期病休】年齢にともなう変化に男女で違い 産業保健では性差や年齢差を考慮した支援も

勤労者の長期病休発生を実態調査 性差に着目して検討
女性は男性よりも長期病休発生率が高く年齢による違いが顕著
勤労者の長期病休の実態調査の結果を、国立健康危機管理研究機構(JIHS)が発表した。研究では、10数の企業の約10万人の勤労者から収集した病休情報にもとづき、2012年度~2021年度の10年間の長期病休の発生率を性別・年齢・原因別に調べた。
観察期間中に発生した長期病休件数は、男性 6,518件、女性 1,866件だった。1万人年あたりの長期病休の発生率は、女性 115.5、男性 89.2となり、女性の方が男性より高い値になった。
女性では20歳代の長期病休発生率がもっとも高く、年齢が上がるとともに低下したが、男性では20歳代~50歳代にわずかに上昇しており、長期病休の年齢にともなう変化は男女で異なることが明らかになった。
また、長期病休の主な原因は性別や年齢によって大きく異なり、男女ともに、もっとも多かったのは精神および行動の障害だが、年齢が上がるにつれその割合は減少した。
40歳未満の女性では、精神および行動の障害に次いで、妊娠関連の健康問題が多く、30歳代の長期病休の原因の約3割を占めた。
男女ともに年齢が上がるにつれて、身体的疾患による長期病休の割合は増える傾向がみられた。
さらに、原因別の長期病休発生率は、若年齢層では、女性は男性よりも精神および行動の障害や腫瘍に起因するものが高く、50歳代以降では、女性は男性よりも筋骨格系疾患および外傷に起因するものが高いという結果になった。
腫瘍、筋骨格系疾患、外傷に起因する長期病休発生率は男性よりも女性で高いこと、またこれらの長期病休の発生率は年齢による増減のパターンが男女で異なることも示された。
「本研究により、女性は男性よりも長期病休発生率が全般的に高いことが明らかになりました。また、性別や年齢によって長期病休の原因となる主な傷病には特徴があり、女性は年齢による違いが顕著でした」と、研究者は述べている。
「これらの結果は、長期病休を引き起こす疾病の予防やケアで、性差や年齢差を考慮した産業保健上の対応が必要であることを示唆しています」としている。
研究は、国立健康危機管理研究機構(JIHS)臨床研究センター疫学・予防研究部の谷山祐香里研究員、溝上哲也部長らによるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」にオンライン掲載された。

長期病休の発生率比および交互作用の検定結果

勤労者約10万人を対象にした職域多施設研究のデータを解析
これまで、長期にわたる病休(長期病休)については、産業保健上の専門的対応が求められるが、その予防やケアに関する対策の立案や計画に必要な長期病休のデータが少ないという課題があった。
とくに、労働人口の約45%を占める女性については、社会でのいっそうの活躍が期待されており、女性での長期病休の発生状況やその原因疾患の実態把握は重要だ。
そこで研究グループは今回、関東・東海地方に本社がある10数社の勤労者約10万人を対象にした職域多施設研究(J-ECOHスタディ)で、2012年度~2021年度の10年間の長期病休発生率を、性別、年齢、原因別に調べた。長期病休発生率は、期間中にどれだけの長期病休が発生したかを示す指標。ここでは連続30日以上の欠勤を長期病休と定義した。
病休申請時に事業所に提出する診断書の傷病名を、疾病および関連保健問題の国際統計分類第10版(ICD-10)にもとづいて分類した。
観察期間中に発生した長期病休件数と、毎年度の性・年齢階級別在職者数により、1万人年あたり長期病休発生率を性別、年齢、原因別に計算した。同一人が長期病休を観察期間内に2回以上取得した場合は、各病休を別々に計上した。性別や年齢による長期病休発生率の違いや、長期病休の年齢による発生率パターンの性差も統計的に分析した。
国立健康危機管理研究機構 臨床研究センター 疫学・予防研究部
Incidence rates of medically certified long-term sickness absence among Japanese employees: A focus on sex differences (Journal of Epidemiology 2025年5月17日)