アルコールを飲み過ぎている人は認知症リスクが高い 飲酒量が多くなるほどリスクは上昇

 アルコールを多量飲んでいる人は、認知症の発症リスクが高いことが、国立がん研究センターなどが実施している多目的コホート研究「JPHC研究」で明らかになった。

 日本人の「適度な飲酒」は、男性で純アルコール量が1日に20~25gぐらいまでだと考えられている。

飲酒量が多くなるほど認知症リスクは上昇

 「JPHC研究」は、日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で、国立がん研究センターを中心に実施されている多目的コホート研究。20年以上にわたり、追跡調査が行われている。

 研究グループは今回、飲酒と認知症の関連を調べるため、1995年と1998年に秋田、長野、沖縄、茨城、高知の5地域に在住していた45~74歳の男女4万2,870を、2016年まで追跡して調査した。

 その結果、アルコールを週1回以上飲む習慣のある人を調べたところ、飲酒量が多くなるほど、認知症のリスクが高くなることが分かった。

 認知症リスクは、純アルコール換算で週に75g未満を飲んでいる人に比べ、週に300g~450gを飲んでいる人で1.13倍に、450g以上を飲んでいる人で1.34倍にそれぞれ上昇した。

 日本人の「適度な飲酒」は、男性で純アルコール量が1日に20~25gぐらいまでだと考えられている。

 純アルコール量20gは、▼ビール(ロング缶) 1本 (500mL)、▼チューハイ(レギュラー缶) 1本 (350mL)、▼日本酒 1合(180mL)、▼焼酎 1杯 (100mL)、▼ワイン 2杯 (120mL)、▼ウイスキー 2杯 (60mL)に相当する。

 「多量飲酒は、栄養不足、脳の萎縮変化、認知症のリスクとなる脳卒中のような病態や疾患と関連があることも報告されています。中年期からの多量飲酒を避けることは、さまざまな疾患のみならず、認知症を予防するうえでも、望ましいと考えられます」と、研究者は述べている。

認知症リスクはビールロング缶を1日に3本以上飲んでいる人で1.3倍超に上昇

 日本では、介護保険制度がはじまった2000年~2016年に、介護保険利用者が3倍に増加した。その主な原因は認知症で、2016年には18%を占めていたとみられている。

 過去の研究でも、アルコールを多量飲んでいる人や、過去に飲んでいた人で、認知症のリスクが高いことが報告されている。

 一方で、アルコールに対する感受性には人種差があり、日本人ではエビデンスが不足しており、また飲酒習慣はライフステージで変化することも多く、1時点のみの飲酒を調べた研究だけでは不十分という課題もあった。

 そこで研究グループは、4万2,870人の参加者を対象に、調査開始時(1995~1999年)とその5年後(2000~2003年)に、飲酒習慣についてアンケート調査を実施。

 週にアルコールを飲む量により、▼ほとんど飲まない(非飲酒)、▼ときどき飲む(月1~3日)、▼週75g未満、▼週75~150g、▼週150~300g、▼週300~450g、▼週450g以上、▼不明(飲酒頻度や飲酒量が分からない人)の8つのグループに分類し比較した。

 参加者のうち、11%(4,802人)が調査期間中に認知症と診断され、調査開始から認知症発症までの平均年数は14.9年だった。

 5年間、ずっとアルコールを飲んでいない人や、週1回以上飲んでいる人に限定して解析したところ、認知症リスクは、純アルコール換算で週に75g未満を飲んでいる人に比べ、週に300g~450gを飲んでいる人で1.13倍に、450g以上を飲んでいる人で1.34倍にそれぞれ上昇した。

 週に75gのアルコールに相当する飲酒量は、ビールでは中瓶(500mL)を3.5本くらい、日本酒では3.5合くらいが目安になる。

飲酒量が多くなるほど認知症のリスクは上昇

出典:国立がん研究センター、2023年

アルコールを飲む習慣は認知症のリスクを上昇させる?

 研究では、非飲酒者でも認知症のリスクは上昇することも示されたが、これについては、アルコールを飲まない人には、調査期間にうつ病などの精神的疾患や、心代謝系疾患を発症したために、飲酒をやめた人なども含まれており、これらの疾患が認知症リスクとも関連しているために、高いリスクを示した可能性も考えられるという。

 また、アルコールを飲まないと回答した人のなかには、飲酒により顔が赤くなったり、頭が痛くなるなど、「フラッシング反応」を起こす人が含まれている可能性もある。

 フラッシング反応が起きる体質の人では、アルコールが分解されてできるアセトアルデヒドを酢酸に分解する酵素であるアルデヒド脱水素酵素(ALDH)のうち、ALDH2が遺伝的に欠損していることが多く、こうした要因が認知症の発症と関連しているという報告もある。

 さらに、今回の研究で定義した認知症は、アルツハイマー型認知症や血管性認知症といった認知症の病型に分類することができなかったことや、また調査開始とその5年後以外の期間の飲酒についての継続的な把握ができていないなど、研究には限界もあるとしている。

多目的コホート研究「JPHC Study」(国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト)
Alcohol consumption from midlife and risk of disabling dementia in a large population-based cohort study in Japan (International Journal of Geriatric Psychiatry 2023年2月25日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]