「運動」と「マインドフルネス」でメンタルヘルスを改善 働く人のうつ病や不安障害に効果

 うつ病や不安症などのメンタル不調を改善するのに効果的な方法のひとつは、ウォーキングなどの運動や身体活動を習慣として行うことだ。

 運動を習慣として行うことで得られるメンタルヘルスへの影響として、ストレスの軽減、自尊心の向上、睡眠の改善、不安の最小化などがある。

 うつ病や不安障害などのメンタル不調を改善するのに役立つと注目されている、もうひとつの方法は「マインドフルネス」だ。

 ヨガやウォーキング、瞑想などの、ストレス緩和やリラックスに役立つ「マインドフルネス」を実践することが、多くの人のメンタルヘルスの改善に役立つという研究が発表された。

運動やスポーツでメンタル不調を改善

 うつ病は、もっとも一般的にみられるメンタル不調で、米国では成人の8.4%が罹患しているという。うつ病の患者にとって生活の質を大きく下げる原因になるだけでなく、社会的な生産性の損失も深刻だ。

 うつ病や不安症などのメンタル不調を改善するのに効果的な方法のひとつは、ウォーキングやサイクリング、ラケットスポーツ、水泳、ダンスなどの運動や身体活動を習慣として行うことだ。

 うつ病や不安症などは精神科クリニックで治療されることが多く、薬物療法などは進歩しているものの、運動や身体活動が、うつ病を改善するための潜在的な治療オプションになりえることは十分に知られていない。

 運動を習慣として行うことで得られるメンタルヘルスへの影響として、ストレスの軽減、自尊心の向上、睡眠の改善、不安の最小化などがある。

 運動や身体運動がうつ病を改善する根本的なメカニズムのひとつに、運動中や運動後に体から分泌されるホルモンであるエンドルフィンの影響がある。

 エンドルフィンが出ると、たとえば「ランナーズ ハイ」という言葉にある通り、多幸感が生じ、気分が全体的に改善され心地良くなる。

運動により多くのベネフィットを得られる

 「運動を習慣として行うことで、早く眠りにつけるようになり、睡眠の質を改善できることを示した研究はたくさんあります」と、ジョンズ ホプキンス大学睡眠センターのディレクターであるシャーリーン ガマルド氏は言う。

 「どれくらいの運動をいつ行えば良いかについては個人差があります。ご自分のお体の声に耳を傾けて、運動や身体活動に応じて、どれくらい眠れるようになったかを確かめながら取り組むことをお勧めします」としている。

 米国心臓学会(AHA)や同大学によると、運動を行うことで下記のベネフィットを得られやすくなる。

ストレスの減少
多くの人が、日常生活でストレスを感じているが、ストレスが慢性化し重度になると、うつ病や睡眠障害、高血圧や2型糖尿病、肥満などのリスクが高くなる。運動に取り組むことは、ストレスレベルの低下に関連しており、うつ病のリスクを軽減する。

自尊心の向上
うつ病でもっとも一般的にみられる症状として、自尊心の低下がある。運動に取り組むことは、自尊心を向上させることにつながる。たとえば、肥満のある人が、運動を続けて体重を減らすことができれば、自信と自尊心の向上につながり、人生に対するより前向きな見方を強めるのに役立つ。

睡眠の改善
うつ病に関連し多くみられるもうひとつの症状として、睡眠障害がある。うつ病の人の多くは、夜によく眠れないなど、休息により疲労をとることが十分にできないでいる。とくにウォーキングなど有酸素運動が、睡眠の質を改善するのに有用であることは、多くの研究で確かめられている。睡眠パターンをより健康的にすることは、疲労を軽減し、憂鬱な気分を改善するのに役立つ。

不安の最小化
うつ病に苦しむ人は、不安障害も抱えていることが多い。運動に取り組むことが気分転換になり、仕事や家族に対する義務など、不安を引き起こす要因から気をそらすことができる。たとえ20~30分であっても運動に集中することで、不安の原因となるこれらのことから距離を置くことができ、気分をリセットし、不安を軽減することができる。

運動を通じた社会交流
うつ病の人は孤立感や孤独感も抱えていることが多いが、運動はこれらの感情を軽減するのに役立つ。たとえば、友人とワークアウトしたり、グループでフィットネスをするクラスに参加することで、さまざまな社会交流もできるようになる。社交性が高まると、自分も社会の一員であると感じられるようになり、うつ病や孤独感の軽減につながる。

「マインドフルネス」がメンタルヘルス改善に効果的

「マインドフルネス」が注目されている

 うつ病や不安障害などのメンタル不調を改善するのに役立つと注目されている、もうひとつの方法は「マインドフルネス」だ。

 ヨガやウォーキング、瞑想などの、ストレス緩和やリラックスに役立つ「マインドフルネス」を実践することが、メンタルヘルスの改善に役立つという研究を、米国のジョージタウン大学医療センターが発表した。

 マインドフルネスは、日本の禅などの考え方や瞑想をヒントにして開発されたメンタルトレーニング。マインドフルネスを日本語に訳すと「気付くこと」「意識すること」という意味になる。

 マインドフルネスを簡潔にあらわすと、「今、ここで起きていることを、ありのままに感じて、受け止めること」。自分の体や心の状態を意識することで、ストレスを受ける場面に遭っても、ネガティブな感情にとらわれることなく、物事をありのままにみることができるようになり、平静を保てるようになる。

 海外では、マインドフルネスを取り入れて、ウォーキング・ヨガ・気功・太極拳・瞑想などに取り組み、ストレスへの対処法やリラックスの仕方などを身に付けることで、ストレスや不安を自分で管理できるようになるよう設計されたプログラムが増えている。

 ゆっくりと呼吸し、自分の呼吸に注意を向けるトレーニングにより、マインドフルネスを高められる。深い呼吸をしながら行うヨガやストレッチ、ウォーキング、瞑想などを組み合わせたプログラムもある。

 同医療センターによると、マインドフルネスにもとづくストレス軽減のためのプログラムは、抗うつ薬などの、うつ病や不安障害を治療するための治療薬と同じくらい効果的だという。

「マインドフルネス」は治療薬と同じくらい効果がある

 「地域や企業などの保健活動に携わっている保健師や看護師、医師などの専門職や医療システムは、不安障害やうつ病に対処し、メンタルヘルスを改善するための効果的な方法として、マインドフルネスにもとづくストレス軽減法を検討するべきかもしれません」と、同大学精神医学部で不安障害研究プログラムのディレクターを務めているエリザベス ホージ氏は言う。

 クリニックや病院でうつ病や不安障害の治療に使われている薬は効果があるものの、医療機関にアクセスするのが難しかったり、薬の副作用に悩まされている患者は少なくない。

 そこで研究グループは、ボストン・ニューヨーク・ワシントンDCの3つの病院の276人のうつ病や不安障害の患者を対象に、ホーム エクササイズやマインドフルネスを取り入れた8週間のプログラムに参加してもらうランダム化比較試験を実施した。

 その結果、マインドフルネスに取り組んだグループは、うつ病や不安障害の評価尺度が平均して1.35ポイント減少し、薬物療法を行ったグループの1.43ポイント減少とほぼ同等だった。

 マインドフルネスに取り組んだグループでは、不安障害の重症度が30%低下した。なお、マインドフルネスのグループは、平均年齢は33歳で、女性が75%を占めていたという。

 「マインドフルネスのセッションは、医療機関以外でも、地域の学校やコミュニティセンターなど、どこでも行うことができます。マインドフルネスのファシリテーターになるために、臨床学位など特別な資格も必要ありません」と、ホージ氏は指摘している。

Working Out to Relieve Stress (米国心臓学会 2021年10月19日)
Exercising for Better Sleep (ジョンズ ホプキンス大学医学部 2023年4月17日)
Mindfulness-Based Stress Reduction is as Effective as an Antidepressant Drug for Treating Anxiety Disorders (ジョージタウン大学 2022年11月9日)
Mindfulness-Based Stress Reduction vs Escitalopram for the Treatment of Adults With Anxiety Disorders: A Randomized Clinical Trial (JAMA Psychiatry 2022年11月9日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]