「歩きながら会話」が難しくなったのは認知症のサイン? 脳の老化は50代から始まっている
2023年04月24日

歩きながら会話をするなど、「デュアルタスク(二重課題)」が難しくなっているのは、認知症が忍び寄っているというサインかもしれない。
デュアルタスク下で歩行する能力の低下は、65歳以上の高齢者の認知機能の低下などに関連付けられることが多いが、実際には多くの人は、50代の半ばからその能力が低下しはじめていることが明らかになった。
「50歳を過ぎた人は、"まだ若いから"と油断することなく、食事や運動、睡眠などの生活スタイルを見直し、脳機能を高めるために社会的な交流や知的な活動を意識して行うなど、対策が必要です」と、専門家は指摘している。
「歩きながら会話」をするのが難しいのは認知症のサイン?
人は歩きながら、景色を見たり、考えごとをしたり、会話をしたり、音楽を聴いたり、歩道の信号を確認するなど、多くのことを行っている。こうしたさまざまなタスクを同時に実行する能力は、高齢になると衰えていくことが多い。 「デュアルタスク(二重課題)」とは、2つ以上のことを同時に行う「ながら動作」のこと。 歩きながら会話をするなど、デュアルタスクが難しくなっているのは、認知症が忍び寄っているというサインかもしれない。 デュアルタスク下で歩行する能力の低下は、65歳以上の高齢者の認知機能の低下などに関連付けられることが多いが、実際にはこの能力は、50代の半ばから低下しはじめていることが、米ハーバード大学医学部などの研究で明らかになった。 認知症の芽は、40代や50代の中年頃にはじまっていて、無症状のまま進行していく。「まだ若いから」と油断をするのは禁物だ。 認知症リスクは、糖尿病や高血圧、脂質異常症などとも関連が深く、食事や運動・睡眠などの生活スタイルも影響している。デュアルタスクの能力は55歳までに低下しはじめる
「40歳~64歳の中高年を対象とした研究で、通常のウォーキングを行う能力は、全体的で安定している傾向がみられましたが、歩きながら暗算するなどデュアルタスクの能力については、個人差はあるものの、55歳までに低下しはじめることが分かりました」と、ハーバード大学老化研究所のジュンホン チョウ氏は言う。 研究グループによると、脳が同時に2つのタスクを実行するデュアルタスクの能力は、ウォーキングをしながら別のことを同時にできるかをみるという、簡単な方法で分かるという。 歩きながら会話をするなど、デュアルタスクを行えない場合は、加齢にともなう脳機能の低下の初期の変化があらわれていることになる。これは認知症の発症するリスクの上昇にも関連しているという。 「ただ歩いている場合と比較して、デュアルタスク下での歩行は、脳内の共有リソースをめぐって2つのタスクが競合するため、脳の運動制御システムにストレスをもたらします」と、チョウ氏は説明する。 「このストレスに対処できなくなり、2つのタスクを行う能力を適切に維持できなくなると、脳機能が低下していることが疑われます。これまで脳の回復力の低下は、65歳を過ぎると起こると考えられていましたが、実際にはもっと若い年齢からはじまっていることが分かってきました」としている。脳機能が低下していると2つのタスクを同時に行えない
研究グループは今回、スペインで実施されているコホート研究である「バルセロナ脳健康イニシアチブ」に参加した42〜64歳の男女640人のデータを解析した。 歩行のデュアルタスクついての評価は、任意のスピードで静かに45秒間歩くテストと、ランダムに選ばれた3桁の数字から3を引いた数字を答えてもらう課題をこなしながら、45秒間任意のスピードで歩くテストの2種類を実施。 認知能力については、心理学的テストにより、包括的な認知機能スコアや、処理速度・作業記憶など、5つの領域のスコアを算出した。 その結果、通常の歩行テストでは、年齢に関係なくほぼ一定の結果が得られたものの、デュアルタスク下での歩行テストでは、54歳を境に年齢が上がるにつれパフォーマンスが低下した。若いうちから脳機能の低下を抑える対策をすることが大切
「脳機能の低下を抑制するための対策は、早い段階から開始する必要があります」と、チョウ氏は指摘する。 「50歳を過ぎた人は、"まだ若いから"と油断することなく、食事や運動、睡眠などの生活スタイルを見直し、脳機能を高めるために社会的な交流や知的な活動を意識して行うなど、対策が必要と考えられます」とている。 デュアルタスクを行うことで得られる、認知機能を維持する潜在的なベネフィットについては、研究が活発に進められている。 ただし65歳を過ぎた高齢者が、デュアルタスクを行おうとすると、注意力が散漫になり、歩行のパフォーマンスが低下し、不安定になり、転倒のリスクが高まる場合もある。二重課題トレーニングも、注意して行う必要がある。 研究グループは今後、年齢を重ねてもデュアルタスクのパフォーマンスを維持するのをサポートする生活スタイルや、影響の強い因子の特定、さらにはそれらをターゲットとした効果的な介入の方法を開発することを目指している。 「50歳以下の参加者では、デュアルタスクの能力は低下しておらず、老化の影響に対して抵抗力のある人がいることも分かりました。今回の研究は、こうした対策を何歳から始めれば良いかという、重要な手がかりをもたらするものです」としている。 Cognitive Changes Affect Ability to Walk, Talk at Same Time (ハーバード大学医学部 2023年3月21日)The age-related contribution of cognitive function to dual-task gait in middle-aged adults in Spain: observations from a population-based study (Lancet Healthy Longevity 2023年3月)
[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。 ©2006-2025 soshinsha. 日本医療・健康情報研究所
- 04月23日
- 日本人の平均寿命と健康寿命の差は拡大 健康格差が拡大 肥満や認知症のリスクも深刻
- 04月23日
- 学校給食に子供の肥満を減らす効果 給食を使う日本の食育を高評価 世界では子供の肥満が2倍に
- 04月23日
- 「塩のとりすぎ」で肥満リスクも上昇 塩分をコントロールする2つの効果的な方法
- 04月23日
- 自転車通勤は健康増進に役立つ 体を動かすアクティブ通勤 高齢者の自転車利用にもメリット
- 04月23日
- ゆっくり食べると肥満・メタボのリスクが減る ゆっくり食べるのを習慣化する方法
- 04月23日
- すべての年代の人は運動により脳の健康を高められる あらゆる運動がメンタルヘルスを高める
- 04月23日
- 朝に自然光を浴びると肥満やメタボのリスクが減少 目覚めの質も良くなる 体内時計を調節
- 04月23日
- 土曜・日曜のみの「週末だけ運動」で肥満リスクを減らせる 忙しい人も運動は続けられる
- 03月31日
- 体組成計にのるだけで要介護化リスクの高い高齢者がわかる リスクの高い高齢者を早期発見し支援
- 野菜摂取量の平均値は、256.0g(男性262.2g、女性250.6g)。野菜摂取量は有意に減少 令和5年(2023)「国民健康・栄養調査」結果より
- 糖尿病が強く疑われる人は、男性16.8%、女性8.9% 令和5年(2023) 「国民健康・栄養調査」の結果より
- 肥満の人は、男性31.5%、女性21.1%。やせの人は、男性4.4%、女性12.0%(20歳代女性20.2%) 令和5年(2023)「国民健康・栄養調査」の結果より
- 特定健診(40~74歳)受診者約3,017万人のうち、メタボリックシンドローム該当者は16.6%(男性13.3%、女性3.2%)、予備群該当者は、12.3%(男性 9.7%、女性2.6%) 令和4年(2022)「特定健康診査・特定保健指導の実施状況」の結果より
- メタボリックシンドロームが強く疑われる人は、男性 4.3%、女性11.3%。予備群の人は、男性 4.3%、女性11.3% 令和1年(2019)「国民健康・栄養調査」の結果より