肥満予防に「ゆっくり食べる」ことが効果的 よく噛んで食べるための8つの対策

 仕事などで毎日が忙しく、十分に咀嚼せず、食物を早く飲み込み、食事のスピードが速いという人は多い。しかし、早食いは体に悪影響をもたらすので注意が必要だ。早食いが原因で肥満になったり、血糖変動が大きくなり糖尿病リスクが上昇するという研究が発表された。
食事に15分以上かけることが必要
 早食いをすると肥満や2型糖尿病のリスクが上昇するのは、脳の満腹中枢が関係しているからだ。満腹中枢は、脳の視床下部にある器官のひとつで、摂取した食物に反応して体に満腹感を知らせる。

 食べ物を摂取すると血液中のブドウ糖(血糖)の量が増加し、血糖値が上昇する。満腹中枢がこれを感知し、「これ以上食べる必要ない」と体に伝える。もしも満腹中枢が正常に機能しないと、どれだけ食べても満腹感を得られなくなる。

 さらに満腹中枢は交感神経の中枢でもあるので、よく噛んで食べることで脳のヒスタミン神経系が活性化されると、交感神経を経由して内臓脂肪が燃焼しやすくなる。

 満腹中枢が血糖値の上昇を感知するまでに約15分かかるとされている。食べ過ぎを改善するためには、最低でも15分以上かけて食事をすることが大切だ。
食欲を抑えられないのはなぜ?
 早食いは2型糖尿病のリスクを高める。食物を摂取すると血中のブドウ糖が増え、血糖値が上昇する。すると、血糖値を抑制しようと、膵臓からインスリンが分泌される。

 早食いをすると、食後の血糖値が上昇しやすくなる。すると、膵臓は短時間で必要なインスリンを分泌しなくてはならなくなる。これにより膵臓に負担がかかり、膵臓が疲弊しやすくなる。

 その結果、インスリンの分泌量が減少したり、分泌されても十分に機能しなくなったりなどの問題が生じて、やがて血糖値をコントロールできなくなる。

 血糖値を下げるためには、インスリンが必要不可欠だが、日本人を含むアジア人は欧米人に比べ相対的にインスリンの分泌量が少ないことが知られる。糖尿病を防ぐためには、早食いに注意し、膵臓への負担を軽減することが大切となる。
ゆっくりと食べると糖尿病リスクが低下
 ゆっくりと食べる人は、肥満になる可能性が低く、2型糖尿病、心臓病、脳卒中などの危険性を高めるメタボリックシンドローム(メタボ)を発症する可能性も低いことが、広島大学の山路貴之氏らによる1,000人以上を対象とした調査で明らかになった。

 メタボは、内臓脂肪の蓄積、空腹時血糖値の上昇、高血圧、高中性脂肪、低HDLコレステロールなどのリスク要因が3つ以上重なる場合に判定される。

 研究者らは、2008年にメタボと判定されなかった642人の男性と441人の女性(平均51.2歳)を対象に調査。ふだんの食事をとる速さによって、参加者を3つのグループに分けた。調査は5年間継続して行われた。

 その結果、早食いの習慣のある人がメタボを発症した割合は11.6%で、ゆっくり食べる人の2.3%、普通の人の6.5%よりも高いことが判明した。早食いは、体重の増加、血糖値の上昇、腹囲周囲径の増加と関連していることも判明した。

 メタボリックシンドロームを予防するために、ゆっくりと食事をするよう、生活スタイルを変えていくことが大切だ。
糖尿病の肥満予防に「ゆっくり食べる」ことが効果的
 九州大学が2型糖尿病の日本人約6万人を対象とした研究でも、食事の速度が肥満やBMIに影響することが示された。速く食べる人ほどBMIや腹囲が上昇するという

 研究は、九州大学大学院医学研究院の福田治久氏らによるもので、医学誌「ブリティッシュ メディカル ジャーナル」のオンライン版に発表された。

 研究チームは、調査期間中に2型糖尿病と診断された日本人5万9,717人を対象に、食べる速度と体重の増減との関連を調べた。日本医療データセンター(JMDC)が作成した健康保険組合の実施した健康診断のデータベースを利用した。

 解析した結果、食べる速度が速い人は全体の37.6%(22 070)、普通の人は55.4%(33 455)、ゆっくりの人は6.9%(4192)であることが判明した。

 BMI(体格指数)は身長と体重から算出され、体重が適正範囲内かどうかを判断する際に用いられる。BMIが25以上の肥満の割合は、食べる速度が速い人では44.8%、普通の人では29.6%、ゆっくりの人では21.5%で、食べる速度がゆっくりであるほど肥満の割合は少なくなることが明らかになった。
ゆっくり食べると糖尿病と肥満のリスクは減少
 食べる速度はウエスト周囲径にも影響する。ウエスト周囲径の平均は、食べる速度が速い人では86.8cm、普通の人では82.8cm、ゆっくりの人では80.1cmで、食べる速度がゆっくりであるほど、お腹周りも引き締まることが分かった。

 また、就寝の2時間前までに夕食を食べている人の割合は、食べる速度が速い人では43.3%、普通の人では33.4%、ゆっくりの人では36.8%だった。就寝前の食事は肥満につながりやすい。食べるのがゆっくりであると、食事スタイルも健康的になる傾向がみられた。

 研究チームは論文で、食事の速度は肥満や体格指数(BMI)の値、腹囲に影響すると指摘し、「食べる速さがゆっくりであるほど、肥満の割合は減少することが明らかになりました。ゆっくり食べるよう食事のスタイルを変えていくことで、肥満の予防や、肥満が関連する健康リスクを減らせる効果を得られる可能性があります」と結論付けている。
よく噛んで食べるための8つの対策
 ハーバード公衆衛生大学院によると、1回の食事にかける時間が少ないと、短時間に吸収の早い食品を選びがちになる。吸収の早い食品は食後の血糖値を上げやすい。

 また、早食いをすると、血糖変動が大きくなり、インスリンの効きの悪くなるインスリン抵抗性につながるおそれがある。

 ゆっくり食べるために、1回の食事に費やす時間を増やす必要がある。下記の工夫をすると、自然に噛む回数を増やし、ゆっくりと食事ができる。

1 ひと口の量を減らす
 多くの人はひと口で噛む回数は量によって変わらないという調査結果がある。ひと口の量を減らせば、噛む回数を増やせる。

2 食事の時間に余裕をもつ
 忙しい毎日、時間に追われると、つい早食いになってしまいがちだ。食事の時間をゆっくりとれば、噛む回数を増やせる。

3 食べることに集中する
 テレビやスマートフォンを見たり、パソコンの前で仕事をしながらの食事は、食べることに集中できなくなるだけでなく、カロリーの摂り過ぎにもつながる。
 食べるときにはスマートフォンの電源を消し、なるべく食べることに集中する。楽しみながら食事をすることで、ゆっくりと食べられるようになる。

4 まずは噛む回数を5回増やす
 ひと口の噛む回数をいきなり増やすのは大変なので、まずは5回増やしてみる。慣れてきたら少しずつ増やしていく。

5 歯ごたえのある食材を選ぶ
 ゴボウやレンコンなどの根菜類や、きのこ、コンニャク、海藻類、ナッツ類(アーモンド、クルミ)など、食物繊維が豊富に含まれ、噛み応えのある食品を副菜に取り入れる。調理で野菜や肉を硬めに仕上げるのも効果がある。

6 食材は大きく、厚めに切る
 食材を一口大に切ると、飲み込める大きさになるまで噛むようになるので、自然に噛む回数も増える。みじん切りや千切りよりは、乱切りなどのように大きめに切ったほうが良い。

7 薄味にする
 薄味にすると、食材本来の味を味わおうとして、よく噛むようになる。

8 食事はなるべく家で
 ファストフードやレストランなどでの外食は、1回の食事量が多く、食べ過ぎにつながりやすく、しかも多くは栄養価も低い。食事にかけられる時間も少なくなる傾向がある。なるべく家で家族といっしょに食べよう。

Gobbling your food may harm your waistline and heart(米国心臓学会 2017年11月13日)
Slow Down, You Eat Too Fast: Fast Eating Associate With Obesity and Future Prevalence of Metabolic Syndrome(Circulation 2018年6月9日)
Effects of changes in eating speed on obesity in patients with diabetes: a secondary analysis of longitudinal health check-up data(British Medical Journal 2018年2月12日)
Beyond Willpower: Diet Quality and Quantity Matter(ハーバード公衆衛生大学院)