日本小児科学会などが「幼児肥満ガイド」を作成 小児期の肥満は成人後にリスクに
2019年06月14日
日本小児科学会など4団体は、5歳未満の幼児を対象とした肥満対策をまとめた「幼児肥満ガイド」を作成し、ホームページで公開を始めた。医師以外の看護師、保健師、栄養士、保育士、教員、スポーツ指導者などの専門職の利用を呼びかけている。
早いうちに肥満治療を開始することが重要
「幼児肥満ガイド」は、日本小児科学会、日本小児保健協会、日本小児科医会、日本小児期外科系関連学会協議会の4団体から構成される「日本小児医療保健協議会」の栄養委員会が中心となり作成された。
「幼児肥満ガイド」では、小児期でも肥満治療は重要であり、できるだけ早いうちに始めることが重要だとしている。
小児肥満の問題点は、小児期にさまざまな異常や健康障害があらわれるだけではなく、成人してから肥満に移行して、生活習慣病と呼ばれる2型糖尿病、脂質異常症、高血圧などの発症リスクを高めることだ。子供の肥満は大人の肥満のもとだ。
小児肥満は乳児期、幼児期、学童期および思春期のいずれの時期からも始まるが、幼児期に起こるBMI(体格指数)の跳ね上がりである「アディポシティリバウンド(AR)」が早く始まるほど、その後に肥満や生活習慣病に罹患するリスクが高くなることが明らかにされている。
なぜ子供は肥満になるのか?
5歳児の肥満の2017年度の出現率は全国平均で2.73%だが、最小0.74%(島根県)から最大6.53%(福島県)のように、地域による格差がみられるという。
小児肥満の判定法にはさまざまな方法があるが、日本では学校保健統計が充実していて、肥満度が用いられている。肥満度を用いた肥満判定基準は、幼児と児童生徒では異なり、幼児は+15%以上、児童生徒は+20%以上なら肥満とされている。
成人や児童生徒では、肥満にともなう健康障害発生に、過剰な内臓脂肪の蓄積が深く関わっており、2002年には小児肥満症判定基準がつくられ、20107年版が最新版となっている。
子供の肥満のほとんどは「原発性肥満(単純性肥満)」といい、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回っているために生ずるものだ。肥満の中には病気がかくれている2次性肥満もあるが、日本でこの数十年間に増加した肥満のほとんどは原発性肥満で、食生活をはじめとする生活習慣の大きな変化が主因となっている。
つまり、食事・おやつ・ジュースなどの過剰摂取、食事内容のバランスの悪さ、さらに運動不足などによって起こり、近年では高エネルギー高脂肪食や運動不足の環境により肥満を発症しやすいことが知られている。
専門職による子供の肥満対策
幼児肥満の対策は、行政が行なうべき対策と医学系学会や医療機関が行なうべき対策に二分される。このうち、肥満予防や軽度肥満児に対する指導は、対策の基礎となり診療所小児科医、看護師、保健師、栄養士、保育士などが実施すべき課題になるという。
個別介入を行う手段として「声掛け(brief opportunistic intervention)」という方法があり、欧米では成人の肥満指導などでも有効性が証明されている。「子供の肥満対策は家族全員で取り組もうね」「テレビやゲームなどの時間を減らそうね」といった言葉を家族に継続的に声掛けをすることが重要となる。
看護師や保健師は家庭訪問や保健指導などの面談のおりに、保育士は日常業務の中で、栄養士は種々の講習会や栄養相談時に、声掛けを繰り返すことが効果を生む。必要な時間は数秒間程度だという。
家庭環境の中心を担うのは母親
幼児期は食事、運動、睡眠などさまざまな生活習慣が形成され身につく時期であり、2歳以降その生活習慣の獲得はすでに始まっているという。
幼児肥満のメンタル面での対応は、発達段階に合わせることが必要だ。また、主たる養育者である母親の肥満に対する捉え方を把握し、母親への共感とねぎらいを含めることが必要不可欠だという。
家族の理解が得られない母親が子供を連れて受診しても、必ずしも父親や他の家族の理解が得られず、母親が孤立しているケースは少なくない。まずは母親が子供の健康を心配し肥満に取り組もうとしていることを高く評価し、母親の言葉に耳を傾け、一緒に考えていくことが肝要だ。
また、幼児の生活習慣は子供が自ら作っているわけでなく、社会や生活環境の変化にともない変化している。夫婦共稼ぎの家庭では子供は託児所に預けられて帰宅時間が遅くなり、夕食や就寝も遅い時間となることもあり、夜遅い食事は肥満と関連する。また、母子・父子家庭も増加している。
「現代の日本では社会構造や生活環境が多様化していることにも留意し、社会全体の責任や課題に目を向ける必要がある」と指摘している。
「幼児肥満ガイド」について
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