肥満をおさえる「糖」を発見 「太りにくく」なるメカニズムを解明

 肥満を抑える作用のある「糖」のつらなりである「糖鎖」を、理化学研究所の研究チームが発見した。肥満の抑制や、肥満に伴う2型糖尿病や動脈硬化などの、新たな治療法の開発につながる成果だ。
2型糖尿病の原因は「糖鎖」の異常
 日本ではBMI(体格指数)が25以上の肥満者が増加しており、2015年の成人の肥満者は約2,500万人と推定されている。

 肥満は2型糖尿病や高血圧、動脈硬化といった生活習慣病の発症リスクを高める。その原因のひとつは、肥満に伴って脂肪細胞が肥大化・増殖し、働きが悪くなり、代謝の異常が起こることだ。

 脂肪を中に貯蔵する脂肪細胞は、「白色脂肪細胞」と「褐色脂肪細胞」に分けられる。肥大化して肥満をもたらすのは白色脂肪細胞で、脂肪細胞の約99%を占める。

 「糖鎖」とは、グルコースなどの糖が鎖状につながってタンパク質などに結合したもので、体内の半分以上のタンパク質は糖鎖をもった状態で存在している。糖鎖はタンパク質の修飾の中でもっとも多く、体の中でさまざまな役割を果たしている。

 また糖鎖は種類が多様で、それぞれが異なる役割をもっていることから、特定の糖鎖の増減が、がん、2型糖尿病、アルツハイマー病などの疾患の原因のひとつとなると考えられている。

 しかし、脂肪細胞の肥大化・増殖の過程で、糖鎖がどのような役割を果たしているかはよく分かっていない。そこで研究チームは、肥満における糖鎖の役割の解明を行った。
「α2,6シアル酸」を標的とした新しい治療法
 具体的には、マウスに高脂肪食を与えて肥満を誘発し、そのとき脂肪細胞に起こる糖鎖の変化を解析した。

 その結果、末端に「α2,6シアル酸」と呼ばれる糖をもつ糖鎖の量が、肥満細胞への分化に伴って大きく減少していることを発見した。

 さらに、詳しくは調べたところ、「ST6GAL1」と呼ばれる酵素が作るα2,6シアル酸が、脂肪細胞の接着分子とも呼ばれるタンパク質であるインテグリンβ1の働きを調節することで、脂肪の増殖を抑えていることが分かった。

 ヒトの遺伝子解析でも、ST6GAL1が肥満や糖尿病と関係していることが報告されている。

 ST6GAL1の遺伝子を調べたところ、その減少はDNAメチル化によって引き起こされていることが分かり、遺伝子を調節する生化学的変化である「エピジェネティクス」によって、その遺伝子が「オフ」になっていることが明らかになった。

 さらに、細胞の中のST6GAL1の量を強制的に増やして脂肪細胞へ分化させたところ、脂肪細胞の増殖が抑えられ、脂肪の蓄積が抑えられることが分かった。

 今後、肥満に関連する疾患の治療を考える上で、「α2,6シアル酸」を標的とした新しい治療法の開発が期待できるという。

 肥満における糖鎖の役割を解明することが今後、肥満の抑制、肥満に伴う2型糖尿病や動脈硬化といった疾患の治療法の開発につながる。

 研究は、理化学研究所グローバル研究クラスタ疾患糖鎖研究チームの蕪木智子客員研究員、木塚康彦研究員、北爪しのぶ副チームリーダー、谷口直之チームリーダーらによるもので、米国の科学誌「The Journal of Biological Chemistry」に発表された。
理化学研究所グローバル研究クラスタ疾患糖鎖研究チーム
Inhibitory Role of α2,6-Sialylation in Adipogenesis(The Journal of Biological Chemistry 2016年12月28日)