メタボ予防の重要性が浮き彫りに 高血圧・糖尿病・脂質異常症を併発したメタボが32%

 協会けんぽの高額医療費集団169万人超の健診・レセプトデータを解析した調査で、医療費が上位10%の集団では、95%超が、2つ以上の慢性疾患が併存する「マルチモビディティ」であることが明らかになった。

 高血圧・糖尿病・脂質異常症を同時に併発したメタボリックシンドロームが、全体の31.8%を占めており、医療費でも28.6%を占め、腎臓病がもっとも高額であることも分かった。

 「患者数・医療費ともに多いメタボリックシンドロームの重症化を予防することの重要性があらためて示唆されました」と、研究者は述べている。

協会けんぽの高額医療費集団169万人超のデータを解析

 日本の医療保険制度では、被保険者と事業者が折半して保険料を支払っているが、近年では医療費が年々増加しており、各医療保険者の財政を圧迫している状況にある。

 そのため、医療保険制度を持続させるために、医療費が高額となる疾病を予防する対策が必要となっている。

 医療費を増加させる原因のひとつとして、個人に2つ以上の慢性疾患が併存している状態を示す「マルチモビディティ」が近年注目されている。

 そこで、慶應義塾大学・東京医科歯科大学・川崎医科大学・全国健康保険協会(協会けんぽ)は、日本の就労世代の高額医療費集団に特徴的なマルチモビディティのパターンの解明に取り組んだ。

 協会けんぽは、約4,000万人が加入している日本最大の医療保険者で、加入者の匿名化された健診・レセプトデータを分析できる環境を、外部有識者に提供する委託研究事業を、2020年度より実施している。

 研究グループは今回、協会けんぽの18歳以上65歳未満の高額医療費集団169万人超のデータにもとづき、マルチモビディティのパターンを明らかにした。協会けんぽの全国規模のデータを用いた解析は今回がはじめてとなる。

高血圧・糖尿病・脂質異常症を同時に併発したメタボが3分の1近くを占める

 その結果、医療費全体の6割を占める、年間医療費が上位10%の「高額医療費集団」では、95.6%の人がマルチモビディティに該当することが分かった。

 さらに、高血圧・糖尿病・脂質異常症を同時に併発した広義のメタボリックシンドロームが、全集団の31.8%を占めることが明らかになった。

 「今回の研究は、患者数・医療費ともに多いメタボリックシンドロームの重症化を予防することの重要性をあらためて示唆するものです」と、研究者は述べている。

 「複雑な病態であるマルチモビディティを理解する一助となり、今後の健康施策で重点をおくべき病態を検討するうえで役立つことが期待されます」としている。

 研究は、慶應義塾大学スポーツ医学研究センターの勝川史憲教授、同大学大学院健康マネジメント研究科の山内慶太教授、東京医科歯科大学M&Dデータ科学センターの髙橋邦彦教授、川崎医科大学医学部の神田英一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLoS One」に発表された。

7種類のメタボリックシンドロームのパターンでの各疾病の有病率
高血圧・糖尿病・脂質異常症を同時に併発した広義のメタボリックシンドロームが、全集団の31.8%を占める

出典:慶應義塾大学、2023年

患者数・医療費ともに多いメタボの重症化予防の重要性が浮き彫りに

 研究グループは今回、2015年度に協会けんぽに加入していた18歳以上65歳未満の被保険者1,698万9,029人のうち、医療費が上位10%にあたる169万8,902人(高額医療費集団:医療費全体の約6割を占める)を解析対象とした。

 高額医療費集団に特徴的なマルチモビディティのパターンの検討には、潜在クラス分析という手法を用い、出現頻度の高い疾病コード(68病名)にもとづき、30パターンに分類した。

 その結果、医療費が上位10%の集団では、95.6%の人がマルチモビディティに該当していた。

 マルチモビディティ・パターン別の年間総医療費(円)と1人当たりの年間医療費(円)を確認。

 その結果、糖尿病・高血圧・脂質異常症を合併した広義のメタボリックシンドロームを含むパターンは7種類に分類され、それらの合計医療費は全体の約3割を占めた。1人当たりの医療費でみると、腎臓病のパターンがもっとも高額だった。

 性別・年代別に30パターンの内訳を確認したところ、男性では、30代でメタボリックシンドロームのパターンに分類される者の割合が20%を超え、その割合は50代以降では半数以上に上昇した。

 女性では、40代までは周産期の病名や月経前症候群などを中心とする女性特有のパターンに分類される人が半数近くを占めたが、50代以降ではメタボリックシンドロームや運動器疾患のパターンに分類される人が増えた。

性別・年代別にみたマルチモビディティ・パターンの内訳
男性では、メタボリックシンドロームのパターンに分類される割合が高く、50代以降では半数以上に上昇する
女性でも、50代以降ではメタボリックシンドロームや運動器疾患のパターンに分類される人が増える

出典:慶應義塾大学、2023年

 「今回解析に用いたレセプト病名は必ずしも実際の病態を反映しないケースもあるため、結果の解釈については注意が必要ですが、将来的な医療費を抑制する観点では就労世代であっても、マルチモビディティの予防が重要であることが示唆されました」と、研究者は述べている。

 「本研究成果は、複雑な病態であるマルチモビディティを理解する一助となり、今後の健康施策やプライマリ・ケアにおける治療方針を検討する上で役立つ知見となります」としている。

慶應義塾大学スポーツ医学研究センター
全国健康保険協会 (協会けんぽ)
Multimorbidity patterns in the working age population with the top 10% medical cost from exhaustive insurance claims data of Japan Health Insurance Association (PLOS ONE 2023年9月28日)