肥満の人が保健指導でやせてもリバウンド? でも減量の取組みは無駄にはならない
2023年05月29日
「減量プログラム」を取り組んだ結果、いったん体重を減らしてやせても、その後にリバウンドして、体重をある程度増やしてしまう人も多い。
こうした減量後に体重が戻る体重変化のパターンの人であっても、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクを減少する効果はあり続けると、米国心臓学会(AHA)が発表した。
「いったん体重を減らした人でも、その後にリバウンドしてしまうことは少なくありません。そのことが、減量のためのサポートを提供するうえで障壁になっています」と、研究者は述べている。
「しかし、過体重や肥満の悩みを抱える人々が減量に取り組むことは、2型糖尿病や心血管疾患のリスクを軽減するための効果的な方法であることは確かです。減量は無駄にはなりません」としている。
減量後にリバウンドしても健康効果は続く
肥満や過体重の人は、高コレステロールや高血圧になりやすいことが知られている。これらは心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクを高める要因となる。 肥満は、血糖値を下げるインスリンの効果を発揮できなくなるインスリン抵抗性も促進しやすい。インスリン抵抗性があると、2型糖尿病のリスクが上昇する。 米国心臓学会(AHA)によると、米国だけでも過体重や肥満が原因で、2020年に240万人が死亡している。肥満は世界的に、社会的な問題になっている。 そこで、英国のオックスフォード大学は、健康的な食事や運動・身体活動の増加など、生活スタイルや行動の変容を促す「減量行動プログラム」を開発した。 プログラムは、肥満や過体重の人が体重を減らし、健康的な体重を維持できるよう工夫されている。しかし、いったん体重を減らしてやせても、その後にリバウンドして、体重をある程度増やしてしまう人も多い。 こうした減量後に体重が戻る体重変化のパターンの人であっても、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクを減少する効果的はあり続けることが、同大学の研究で明らかになった。減量に成功すると心臓病や糖尿病のリスクが減少
「減量に取り組んでいる患者さんや、肥満症や糖尿病の治療を行っている医師の多くは、いったん体重を減らしても、その後にリバウンドしてしまうことが多いので、減量の取り組みはあまり意味がないと考えてしまいがちです」と、オックスフォード大学プライマリケア健康科学科のスーザン ジェブ教授は言う。 「しかし、減量プログラムに参加して体重を減らすのに成功した人は、その後数年にわたり心血管疾患のリスクの減少効果を得られることが明らかになりました。減量に取り組むことは、長期的には無駄にはなりません」としている。 研究グループは、124件の国際的な科学的研究を評価し、集中的な減量行動プログラムの参加した患者と、プログラムに参加しなかった患者との、心血管疾患と2型糖尿病の危険因子を比較した。 対象となった参加者の数は5万人以上で、平均年齢は51歳で、体格指数(BMI)の平均は33で、肥満と判定されていた。 平均28ヵ月の追跡調査が行われ、参加者は食事療法や運動療法に取り組み、その方法は対面による個別指導やグループ指導、スマホのアプリや電話などによるオンライン指導、さらには金銭的インセンティブを設定したものなどさまざまだった。 その結果、参加者は平均して体重を2~5kg減らし、年間に0.12~0.32kg減らした。集中的な減量行動プログラムに参加した患者は、参加しなかった患者に比べ、体重をより減らし、心血管疾患や2型糖尿病の危険因子が減少したことが明らかになった。さらに、プログラムが終了した後も、その効果は数年にわたり続くことも分かった。減量は無駄にはならない 血圧や血糖値が低下 コレステロールも改善
- 収縮期(最高)血圧値は、減量プログラムに参加してから1年後に、平均して1.5mmHg低下し、5年後にも0.4mmHg低下していた。
- 糖尿病の検査に使用されている、1~2ヵ月の血糖値の平均が反映されるHbA1c値は、減量プログラムに参加してから1年後も5年後も、0.26%低下していた。
- 善玉として知られているHDLコレステロールと、総コレステロールの比率は、減量プログラムに参加してから1年後も5年後も、1.5ポイント低下していた。
食事や運動などの生活スタイルをどう改善? 「ライフ エッセンシャル 8」
米国心臓学会の「ライフ エッセンシャル8」
▼ 食事療法 |
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個人のレベル(個人の健康管理、食事療法の指導)、および公衆衛生のレベルで、大人と子供の食事の質を高めることが必要。
AHAは、高血圧を防ぐための食事療法として「DASHダイエット」を提案している。▼塩分を控える、▼肉などの動物性食品に含まれる飽和脂肪酸を抑える、▼健康に良い不飽和脂肪酸を十分に摂る、▼野菜は1日350g以上、▼全粒粉など精製されていない穀類を摂る、▼糖質を控える――といった特徴があり、肥満や2型糖尿病などにも効果的としている。 |
▼ 運動と身体活動 |
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運動ガイドラインでは、成人は週に150分以上のウォーキングなどの中強度の運動、あるいは筋トレなどを組合せた週に75分の高強度の運動を行うことが推奨されている。
短い時間の運動であっても、頻繁に行えば効果がある。座ったまま過ごす時間が長引いたときはそれを中断し、立ち上がって体を動かすことが大切。 |
▼ 健康的な体重 |
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体格指数(BMI)は、体重コントロールや肥満の判定基準としては十分ではなく、内臓脂肪も含めて管理する必要がある。それでもBMIは、簡単に計算でき、広く利用できる利点がある。
成人ではBMIが18.5~24.9であると、心血管の健康が良好になりやすい。理想的なBMIは人種や民族によって異なり、低体重(やせ)にも注意が必要だが、多くはBMIが高いと心血管疾患や2型糖尿病などのリスクが高まることが示されている。 |
▼ 血中脂質の管理 |
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血中脂質(コレステロールや中性脂肪)を適正にコントロールすることが必要。最近は、総コレステロールではなく、non-HDLコレステロール(総コレステロールから善玉のHDLコレステロールを引いたもの)を管理対象とすることもある。
悪玉のLDLコレステロールは空腹時に測らないと正確な値が出ないが、non-HDLコレステロールは空腹時かどうかに左右されずに測定できることなどが評価されている。 |
▼ 血圧値の管理 |
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血圧は、最高(収縮期)血圧は120mmHg未満、最低(拡張期)血圧80mmHg未満が最適。最高血圧130~139mmHg、最低血圧80~89mmHgであると、血圧は高めで、これまで通りの生活を続けていると高血圧へと移行してしまう可能性が高い。血圧が高い場合は、食事や運動などの生活習慣を見直す。
米国のガイドラインでは、成人のナトリウム摂取量を1日2,300mg(塩分相当量は5.8g)以下にすることを推奨しているが、AHAはさらに、1日1,500mg(同3.8g)以下を理想としている。 |
▼ 血糖値の管理 |
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1型糖尿病と2型糖尿病、糖尿病予備群で、1~2ヵ月の血糖値の平均を反映するHbA1cを測定することが推奨されている。HbA1cは、長期的な血糖コントロールの指標にもなる。
糖尿病の人は、合併症を予防するために、HbA1c7.0%未満を、可能であれば6.0%未満を目指す。 |
▼ 喫煙と受動喫煙の害を避ける |
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これまでは、可燃式タバコのみが危険とされていたが、新たに電子タバコなどのニコチン送達システムも追加された。電子タバコも健康にとって有害であることを示した報告は増えている。受動喫煙も危険なので、なるべく避けるようにする。
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▼ 睡眠の改善 |
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質の良い睡眠をとることも大切。睡眠の質や時間が十分であると、心筋梗塞や脳卒中のリスクが低下することを示した研究は増えている。1日の理想的な睡眠時間は、成人では7~9時間。
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ライフ エッセンシャル 8
米国心臓学会(AHA)が公開しているビデオ
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Long-Term Effect of Weight Regain Following Behavioral Weight Management Programs on Cardiometabolic Disease Incidence and Risk: Systematic Review and Meta-Analysis (Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes 2023年3月28日) Life's Essential 8 (米国心臓学会)
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[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]
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