肥満やメタボのある人のサポートでは「思いやり」も必要 「肥満の人はだらしがない」は誤解

 過体重や肥満のある人に対する支援やサポートでは、「思いやり(コンパッション)」も必要という声明が発表された。

 肥満やメタボの多くは、食事や運動などの生活スタイルの改善により、内臓脂肪がたまるのを防ぎ改善できることが分かっている。

 しかし、過体重や肥満の背景には、遺伝(体質)によるものと、環境によるものの両方があり、生育や発達での要因、社会的な要因、ストレスなどがさまざまに影響しており、個人の努力だけで対応できないケースが少なくないとしている。

 男性はアルコール、女性は過食で、ストレスに対処しようとする傾向があることも示されている。ストレスを上手に管理することも必要だ。

肥満に対する「スティグマ(誤解や偏見)」を解消

 過体重や肥満のある人に対する支援やサポートでは、科学的なエビデンスにもとづき、食事や運動などの生活スタイルの改善を促す介入が必要となる。

 そのときには、薬物療法などを行っているかにかかわらず、「思いやり(コンパッション)」もまた必要になるという声明を、米国ライフスタイル医学会(ACLM)が発表した。

 ACLMによると、肥満や肥満症を改善するための介入の柱になるのは、次の6項目の生活スタイルの改善だ。
運動や身体活動を習慣として行う 全粒穀物や植物性食品の摂取を増やす
十分な睡眠をとり休養をとる ストレスを管理する
活発な社会的な交流を維持する 危険なアルコールや薬物などを避ける

 声明では、「肥満や体重増加を促したり悪化させる要因が、家庭環境や社会環境にある人や、生活環境や遺伝的要因の影響の強い人もいて、人によってその背景は異なります。したがって、肥満改善のための指導や治療のアプローチは個別化する必要があります」としている。

 「生活スタイルの改善により、肥満の解消につながることは多いのですが、肥満は複雑な多因子疾患であり、患者さんによっては、そうした介入を超えたアプローチが必要になることもあります」と述べている。

関連する高血圧や高コレステロールなどの予防・改善も必要

 最近の研究では、肥満や糖尿病に「腸内細菌叢の異常」「血管内皮機能の障害」「酸化ストレス」「慢性炎症」なども関連することが分かってきた。

 さらに、生活スタイル改善のための医学の包括的なアプローチには、「高血圧」「高コレステロール」「心臓病」「2型糖尿病」「関節炎」など、過体重や肥満の患者に多い併存疾患や、関連する合併症の予防や治療についても考慮し、それらのリスクを軽減することも必要としている。

 「過体重や肥満の患者さんを治療するために、利用できるツールが多いほど、より良い結果を期待できます。さらには、それらを改善・治療することは、心臓病や糖尿病などの関連する慢性疾患の予防・改善にもつながります」としている。

肥満のある人のストレス管理を改善することも重要

 フィンランド保健福祉研究所(THL)による別の研究では、肥満を予防・治療するためには、肥満のある人のストレス管理を改善することも重要であることが示された。

 肥満のある人のストレスを緩和し、長期的・短期的に体重増加を抑えるために効果的なのは、食事とアルコールの摂取のあり方にアプローチすることだという。

 「ストレスに関連して、食事やアルコールの摂取が不健康になることが、体重に長期的な影響をもたらしている可能性があります」と、同研究所とヘルシンキ大学保健福祉研究所のエレナ ローゼンクビスト氏は言う。

 「早い段階でそれらに対応し、適切なストレス管理方法を開発するが、肥満を予防・改善するための重要な手段となると考えられます」としている。

男性はアルコール、女性は過食でストレスに対処している傾向

 ただし、男性と女性ではストレスへの対処法が異なる傾向があることに、注意する必要があるとしている。

 男性は、ストレスを解消するために、アルコールに頼ることが多い。アルコールの過剰な摂取は、アルコール中年期以降の体重増加を加速させる原因になっている。

 「酒は百薬の長」ということわざがある通り、適度なアルコールは健康に良いことを示した研究もあるが、アルコールの重大な健康リスクを示した研究も多い。

 アルコールにはストレス解消や、人間関係を円滑にするなどメリットがある一方で、過剰な飲酒は確実に体にダメージをもたらし、肥満や2型糖尿病のリスクを高める。

 一方、女性では過食が多くみられるという。女性のほぼ半数(41~55%)は、成人期に何らかの摂食障害を経験したことがあり、ストレス解消の手段として、男性よりも食事に向かう傾向がみられるという。

 「とくに女性に対しては、体重を減らすように課せられる文化的なプレッシャーが強い傾向があり、食べることでストレスを解消している女性にとって、そのことがより困難にしています」と、ローゼンクビスト氏は指摘している。

 研究グループは、フィンランドのコホート研究に参加した22歳、32歳、42歳、52歳の男女計5,621人を対象に、30年間追跡して調査した。

「肥満の人は生活がだらしなく自己管理ができない」は誤解

 日本肥満学会が、昨年発表した「肥満症診療ガイドライン2022」では、肥満に対する「スティグマ(誤解や偏見)」を解消し、肥満症のある人の福祉を向上するために、社会的な取り組みが必要とされている。

 日本人は欧米人に比べ、極端な肥満は少なく、軽度の肥満が多い。しかし、わずかに太っただけでも、2型糖尿病や脂質異常症、心筋梗塞、脳卒中、腎臓病などの発症率は高くなることが知られている。

 ガイドラインでは、肥満に対する保健指導などでは、肥満の原因は必要以上に食習慣などの個人の生活上の要因に帰せられている傾向がみられるとしている。さらに、「自己管理能力が低いから肥満になる」といった偏見も少なくない。

 たしかに肥満やメタボの多くは、食事や運動などの生活スタイルの改善により、内臓脂肪がたまるのを防ぎ改善できることが分かっている。

 しかし、肥満と肥満症の背景には、遺伝(体質)によるものと、環境によるものの両方があり、生育や発達での要因、社会的な要因などがさまざまに影響しており、個人の努力だけで対応できないケースも少なくない。

 「スティグマ」とは、特定の事象や属性をもった個人や集団に対する、間違った認識や根拠のない認識にもとづく差別や偏見のこと。

 同学会では、「肥満には、社会的スティグマに加え、肥満を自分自身の責任と考える個人的スティグマもあり、医療者と患者のあいだに治療の認識の差がある」と指摘。

 こうした肥満に対するスティグマは、心理的負担や社会的不利益をもたらすだけでなく、「自己管理の問題であって、医療を受ける対象ではない」といった誤った理解を引き起こし、適切な治療の機会が奪われるのにつながるとしている。

米国ライフスタイル医学会
アドボカシー (米国ライフスタイル医学会)
American College of Lifestyle Medicine releases statement calling for compassionate, evidence-based lifestyle intervention as first treatment for overweight and obesity (米国ライフスタイル医学会 2023年4月20日)

Managing stress with food and alcohol consumption connected with faster lifelong weight gain (フィンランド保健福祉研究所 2023年4月13日)
Stress-induced eating and drinking and their associations with weight among women and men during 30-year follow-up (Psychology and Health 2023年3月22日)

一般社団法人 日本肥満学会

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]