「果物」を食べるとうつ病リスクが減少 フラボノイドなどの果物の天然成分が予防的に働く?

 果物や、フラボノイドが豊富に含まれる果物をよく食べている人ほど、うつ病を発症するリスクが低いことが、国立がん研究センターなどの調査で明らかになった。

 果物をよく食べている人では、もっとも少ない人に比べ、うつ病のリスクが0.34倍に減少することと関連していた。

 果物に含まれるフラボノイドは、強力な抗酸化作用をもつとされるポリフェノールの一種。果物に含まれる天然由来成分による、抗酸化作用などの生物学的作用が、うつ病の発症に対して予防的に働いた可能性が考えられる。

野菜や果物の摂取がうつ病に予防的に働く可能性

 こころの不調のなかでも、うつ病は、障害によって失われた健康的な生活の年数が循環器疾患と同じ程度で、個人にとっても国全体にとっても負担が大きい。

 これまでの研究で、野菜や果物の摂取が、うつ病に予防的に働く可能性が示されている。とりわけフラボノイドという天然由来のポリフェノール化合物は、脳由来の神経栄養因子や、酸化ストレスと神経炎症の抑制作用により、抗うつ効果をもつことが示唆されている。

 そこで国立がん研究センターなどは、「JPHC研究」の一環として、日本人を対象に、野菜・果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取が、うつ病のリスク低下と関連するかどうかを調べた。

 「JPHC研究」は、日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で、国立がん研究センターを中心に実施されている多目的コホート研究。20年以上にわたり、追跡調査が行われている。

 今回の研究は、同センターと国立精神・神経医療研究センターなどでの研究グループによるもの。研究成果は、「Translational Psychiatry」に掲載された。

果物をよく食べている人はうつ病リスクが0.34倍に減少

 研究グループは、1995年と2000年に行った2回の食事調査アンケートに回答し、2014~2015年にかけて実施した「こころの検診」に参加した1,204人を対象に調査をした。

 2回のアンケートから、野菜・果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取量の平均値を計算し、それぞれについて人数が均等になるよう5グループに分け、摂取量がもっとも少ないグループを基準とし、他のグループのうつ病発症リスクとの関連を調べた。

 その結果、1,204人のうち93人がうつ病と診断されたが、果物の摂取量がもっとも少ないグループと比較して、摂取量がもっとも多いグループでは、うつ病の発症は0.34倍(95%信頼区間 0.15~0.77)となり、果物をよく食べているとうつ病の発症が少ないことが示された。

 また、フラボノイドの豊富な果物の摂取量がもっとも少ないグループと比較して、摂取量がもっとも多いグループでは、うつ病の発症は0.44倍(95%信頼区間 0.20~0.97)となり、やはりうつ病の発症が少なかった。

 なお研究では、認知症によって引き起こされたうつ症状と区別するため、認知症を合併している人は除外された。

摂取量がもっとも多いグループでは、もっとも少ないグループに比べ、
うつ病のリスクが0.34倍に減少

出典:国立がん研究センター、2022年

果物の栄養の抗酸化作用がうつ病の発症に対し予防的に働く可能性

 今回の研究により、果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いほど、うつ病を発症するリスクが低いことが明らかにされた。

 果物全体とフラボノイドが豊富な果物の両方をもっとも多く摂取したグループで、うつ病の発症リスクが低かったことから、フラボノイド固有のメカニズムだけでなく、果物全体に含まれる天然由来成分のもつ抗酸化作用などの生物学的作用も、うつ病の発症に対して予防的に働いた可能性が考えられるという。

 一方、野菜ならびに関連栄養素の摂取量と、うつ病との間には関連がみられなかった。研究では、野菜や果物に関連する栄養素として、α-カロテン、β-カロテン、ビタミンC、ビタミンE、葉酸の平均摂取量とうつ病との関連も調べられた。

 これまで、野菜をよく食べている人も、うつ病を発症するリスクが低いことが報告されている。今回の研究では、野菜とうつ病に関連しているさまざまな要因を除外しきれなかったことなどが背景として考えられるという。

 「本研究では、調査開始時点でのうつ病の情報を得られていないために、調査開始時点のうつ状態が野菜果物の摂取量に影響を受けていた可能性が除外しきれないこと、中高年における研究結果であるため若年者などにも当てはまる結果であるとは言えないことなどが限界点です」と、研究グループでは述べている。

 「今回の研究の範囲内では、果物摂取量が高いグループほどリスクの低下がみられましたが、今回の結果を確かめるには、より大きな集団で行うなど、今後のさらなる研究が必要です」としている。

果物の効果的な食べ方
糖質の少ない果物を選んで食べる

 果物は、糖質が多くまれるものもあるため、とくに糖質を制限していると、食べるのを控えているという人は少なくない。確かに、100gあたりに含まれる単糖の量は、たとえば、温州ミカンは8.9g、キウイフルーツは9.6g、リンゴは12.4g、カキは13.3g、モモは16.6g、バナナは19.4gがそれぞれ含まれる。決して少ない量ではない。

 ただし、糖質が比較的低めの果物もある。たとえば、100gあたりの単糖量は、イチゴは6.1g、ブルーベリーは8.6g、ラズベリーは5.6g、オレンジは8.3g、グレープフルーツは7.5g、ナシは8.3g、アンズは4.8gとなっている。果物の食べ過ぎに注意したり、糖質の少ない果物を選んで食べる方法もある。

 海外の研究では、果物を1日100g以内食べていると、血糖、中性脂肪の値が改善し、体重も増加しないことが示されている。

 果物や緑黄色野菜には、ビタミンA(βカロテン)やビタミンC、カリウムなどのミネラル、フラボノイドなどが多く含まれる。これらには抗酸化作用があり、動脈硬化を予防する効果を期待できる。

 もちろん、果物をどれだけ食べると良いかについては個人差があるが、▼1日に100gを目安にして食べる、▼糖質が多い甘い果物の食べ過ぎは避けるなど、工夫をしながら食べれば、果物による健康効果を期待できそうだ。

 果物を食べるときは、できれば皮や芯まで含めて果物全体を食べるのが良いという研究も発表されている。また、フルーツジュースは植物繊維などを摂れず、ビタミンなども低下しているので、100%果汁のものであっても飲み過ぎは勧められない。

国立研究開発法人 国立がん研究センター
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
Association between vegetable, fruit, and flavonoid-rich fruit consumption in midlife and major depressive disorder in later life: the JPHC Saku Mental Health Study (Translational Psychiatry 2022年9月26日)

Study: Adding color to your plate may lower risk of cognitive decline(米国神経学会 2021年7月28日)
Long-term Dietary Flavonoid Intake and Subjective Cognitive Decline in US Men and Women(Neurology 2021年7月28日)
People who eat a healthy diet including whole fruits may be less likely to develop diabetes(米国内分泌学会 2021年6月2日)
Associations between fruit intake and risk of diabetes in the AusDiab cohort(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 2021年6月2日)