「うつ病」リスクは糖尿病予備群の段階で上昇 肥満やメタボが原因の「インスリン抵抗性」

 糖尿病予備群の段階で、うつ病を発症するリスクは2倍以上に上昇するという調査結果を、スタンフォード大学医学部が発表した。
 平均年齢41歳の男女601人を9年間追跡して調査した結果、うつ病の発症に関わるのはインスリン抵抗性であることを突き止めた。インスリン抵抗性は、肥満やメタボ、糖尿病で多くみられる。
 肥満の増加を背景に、米国人の3人に1人にインスリン抵抗性がみられるという。新型コロナの拡大の影響で、うつ病の増加はより深刻になっている。
肥満やメタボが原因のインスリン抵抗性
 うつ病(大うつ病性障害)はありふれた病気で、日本人でも15人に1人が、一生のうちに1回はうつ病になるという報告もある。

 うつ病は、生活上のさまざまなストレスが引き金(誘因)となり発症する。絶え間ない悲しみがあるなどの抑うつ気分や、物事に対する興味や関心が低下したりといった心の症状のほかに、体重の増減、食欲不振、疲れやすい、睡眠障害といった体の症状があらわれる。このタイプの患者の数は増えている。

 一方、「インスリン抵抗性」とは、血糖を下げるホルモンであるインスリンに対する、全身の細胞の感受性が低下している状態のこと。

 インスリンは十分に作られていても、その効果を発揮できない状態をさす。運動不足、食べ過ぎ、肥満、ストレス、十分な睡眠をとれないなど、さまざまな原因で、インスリンの働きが鈍くなる。その結果、血液中に糖があふれるようになり、血糖値が上昇する。
インスリン抵抗性がうつ病のリスクを上昇
 米スタンフォード大学医学部が、うつ病を発症するリスクの増加に、肥満やメタボ、糖尿病で多くみられるインスリン抵抗性が関連しているという研究を発表した。

 「もしもあなたが糖尿病予備群で、インスリン抵抗性を抱えているのなら、うつ病を発症するリスクは、以前にうつ病を経験したことがなくても、2倍以上に上昇するおそれがあります」と、同大学精神医学部行動科学科のナタリー ラスゴン教授は述べている。

 ラスゴン教授によると、インスリン抵抗性は、米国の成人の3人に1人以上でみられるという。放置していると、最終的に血糖値が慢性的に高くなる。血糖値が一定の値を超えて高くなると、2型糖尿病と診断されるようになる。

 しかし、「インスリン抵抗性は予防や改善が可能です。食事療法と運動療法、そして必要に応じて薬を使うことで、インスリン抵抗性を軽減または排除することができます。ぜひ保健指導を受け、医師などにも相談してほしい」としている。
米国の成人の3人に1人以上にインスリン抵抗性が
 インスリン抵抗性はメンタルヘルスにも関連するという調査結果は、これまでにも報告されている。たとえば、気分障害に苦しむ患者の40%でインスリン抵抗性がみられたという報告もあるという。

 しかし、これらの報告はある集団のある一時点での健康障害などを調査する横断研究にもとづくもので、特定の集団を数年から数十年にわたり追跡する縦断研究は行われていなかった。

 そこで研究グループは、2015年に設立された多施設共同研究の一環として、オランダの3,000人以上の参加者を9年間にわたり追跡する調査を行った。

 調査に参加した平均年齢41歳の男女601人のデータを分析した。参加者は研究の開始時には、うつ病や不安に悩まされていなかった。

 インスリン抵抗性を、中性脂肪と善玉のHDLコレステロールの比率、ウエスト周囲径、空腹時血糖値などで測定した結果、9年間でインスリン抵抗性があると判定された人は、うつ病を発症するリスクが上昇することが明らかになった。

 うつ病の発症リスクは、中性脂肪の上昇やHDLコレステロールの低下がみられた人では89%高くなり、ウエスト周囲径が5cm増えるごとに11%上昇し、空腹時血糖値が18mg/dL高くなると37%上昇した。
インスリン感受性は改善できる
 研究グループはさらに、研究開始時にうつ病ではなく、インスリン抵抗性の兆候もみられなかった400人についても調査した。うちほぼ100人が最初の2年以内にインスリン抵抗性を発症した。

 その結果、研究の最初の2年以内に糖尿病予備群と判定された人は、9年間でうつ病を発症するリスクが2.66倍に上昇することが明らかになった。

 「インスリン抵抗性は、2型糖尿病だけでなく、うつ病などの深刻な健康問題の強い危険因子になります」と、ラスゴン教授は言う。

 「医療従事者は、肥満や高血圧などの代謝性疾患のある患者さんのメンタルヘルスにも注意する必要があります。うつや気分障害に苦しめられている患者さんの代謝状態についても配慮することが求められます」。

 「インスリン感受性をチェックすることは、うつ病を予防するためにも必要です。医師によるチェックは、すぐに行うことができ、医療費もそれほどかかりません。それをすることで、患者さんの心身を生涯にわたり衰弱させる疾患の発症を軽減できます」としている。

運動をしていると不安症リスクは60%以上減少

AdobeStock_8654397.jpeg  運動をする習慣のある人は、うつ病や不安症が少ないことが、スウェーデンの40万人を最大21年間追跡した調査で明らかになった。

 ルンド大学の研究グループは、クロスカントリースキーのレースに出場したことのあるスキーヤーと、運動をしていない人とを比較して、運動と不安症の発症との関連を調べた。

 「不安障害は、うつ病と同じようにありふれた病気です。成人の10人に1人は不安症のリスクがあり、一般的に女性は男性の2倍のリスクをもっています」と、同大学のマルティナ スヴェンソン氏は言う。

 1989~2010年にスキーのレースに参加したことのある19万7,685人と、運動をしていない対照群19万7,684人を比べた結果、不安症を発症するリスクは、スキーをしている群では62%減少したことが分かった。

 運動をする習慣のある人は、食事スタイルがより健康的で、喫煙が少ない傾向もみられた。

 「スウェーデンの約40万人を最長21年間追跡した研究により、運動習慣がある人では、不安症の発症リスクが60%以上低いことが分かりました。運動の影響は、男女の両方でみられました。ストレスなどで精神的な不調を感じやすい人は、運動を習慣として行うべきです」と、スヴェンソン氏は言う。

 「運動が不安を軽減するのに役立つメカニズムについて、今後のさらなる研究で解明する必要があります」としている。

Insulin resistance doubles risk of major depressive disorder, Stanford study finds(スタンフォード大学医学部 2021年9月22日)
Incident Major Depressive Disorder Predicted by Three Measures of Insulin Resistance: A Dutch Cohort Study(American Journal of Psychiatry 2021年9月23日)
Physical Activity Is Associated With Lower Long-Term Incidence of Anxiety in a Population-Based, Large-Scale Study(Front. Psychiatry 2021年9月10日)