肥満度が増加するにつれて大腸がんリスクは増加 アジア人初のゲノム疫学研究で解明
2021年06月18日
国立がん研究センターなどは、遺伝的に予測されるBMIが増加するにつれて、大腸がんリスクが増加するという関連を、ゲノム情報を用いた研究でアジア人ではじめて明らかにしたと発表した。
日本ゲノム疫学研究コンソーシアム(J-CGE)の日本人一般集団約3万6,000人のBMIとゲノム情報、利用可能なデータと国内の公開データを合わせた大腸がん約7,500症例と対照約3万7,000例のゲノム情報を分析した。
日本ゲノム疫学研究コンソーシアム(J-CGE)の日本人一般集団約3万6,000人のBMIとゲノム情報、利用可能なデータと国内の公開データを合わせた大腸がん約7,500症例と対照約3万7,000例のゲノム情報を分析した。
BMIが1単位増加すると大腸がんのリスクは7%増加
国立がん研究センターなどの研究グループは、日本ゲノム疫学研究コンソーシアム「J-CGE」を構築し、ゲノム情報を用いたメンデルのランダム化解析により、肥満度を表す指標であるBMI(体格指数)と大腸がんリスクとの関連をアジア人で分析した。
その結果、遺伝的に予測されるBMIが1単位増加すると、大腸がんのリスクが7%増加することが示された。研究成果は、アジア人でのBMIと大腸がんリスクとの関連を、メンデルのランダム化解析により検討したはじめての報告となる。
研究は、国立がん研究センター、横浜市立大学、岩手医科大学、東北大学、名古屋大学、名古屋市立大学、愛知県がんセンター、筑波大学などの研究者で構成される研究グループによるもの。研究成果は、医学誌「Cancer Science」に掲載された。
観察研究には限界がある ゲノム情報の解析で交絡の問題に対処
大腸がんは、日本で年間約15万人が新たに罹患するもっとも多いがんで、その危険因子として喫煙や飲酒、肥満との関連が示されている。
同センターのがん予防ガイドラインでは、喫煙や飲酒は「確実な」危険因子、肥満は「ほぼ確実な」危険因子と判定されている。肥満が「確実な」危険因子の判定となっていない理由として、日本人のBMIは世界的に見て低く、日本人集団のBMIの範囲では大腸がんリスクへの影響は小さい可能性が挙げられる。
また、BMIが高い集団とBMIが平均的な集団の大腸がんリスクを正しく比較するには、両集団で背景因子(喫煙や飲酒など)が均等であることが条件となり、そのためにランダム化比較試験が必要となるが、大規模な人口を対象とした社会医学研究では実施が困難だ。
さらに、従来の観察研究では、両集団の背景因子を均等にすることが困難なため、両集団で大腸がんリスクに違いがあっても、BMIと大腸がんリスクとの間に因果関係があるかどうかを明確に示すことができない交絡の問題もある。
今回採用したメンデルのランダム化解析は、ゲノム情報で予測した形質(髪の色など外に現れる性質や形)と疾病リスクとの関連を推計することで、従来の観察研究で問題となる交絡に対処しようとする方法。
一塩基多型などの遺伝子多型(形質の違いに影響を与えるとされるゲノム情報の違い)がランダムに分配されるというメンデルの法則を利用して、BMIそのものではなく、ゲノム情報で予測されるBMIを用いて、大腸がんリスクを比較した。
この方法は、ゲノム情報で予測されたBMIの高い集団と低い集団の間では、背景因子が均等になることが期待されることから、従来の観察研究に比べ交絡の影響を受けにくいという特徴がある。
日本人の肥満と大腸がんとの関連を2つの一塩基多型のセットで解明
研究グループは今回の研究で、BMIに関係する一塩基多型を用いて、メンデルのランダム化解析で、遺伝的に予測されるBMIと大腸がんリスクとの関連を検討した。
まず、メンデルのランダム化解析で使用する、BMIに関係する一塩基多型として、(1)日本人で関係が報告されている68個の一塩基多型のセット、(2)世界中で報告されている一塩基多型の情報を集めたデータベースであるGWAS(ゲノムワイド関連解析研究)カタログから、網羅的に同定した654個の一塩基多型のセットを作成した。68個の一塩基多型は日本人のBMIのバラつきの約2.0%を説明し、2,654個の一塩基多型は約5.0%を説明すると推計される。
この2つの一塩基多型のセットについて、J-CGEの日本人一般集団約3万6,000人でBMIとの関連、大腸がん約7,500症例と対照3万7,000例で大腸がんとの関連を分析した。一塩基多型のセットとBMIの関連は各コホートで分析され、それを統合する形で算出されている。
その結果、一塩基多型-BMIの関連が大きくなるほど、一塩基多型-大腸がんの関連が大きくなった。メンデルのランダム化解析で、ゲノム情報から予測されるBMI 1単位(kg/m²)増加あたりのオッズ比を計算すると、168個の一塩基多型のセットを用いた解析では、1.13倍(95%信頼区間:1.06~1.20)、2,654個の一塩基多型のセットを用いた解析では、1.07倍(1.03~1.11)と推計された。
メンデルのランダム化解析の結果
一塩基多型ごとに、横軸にBMIに対する効果量(関連の強さ)、縦軸に大腸がんに対する効果量(関連の強さ)をプロットした図。
青色および水色の実線の傾きは、68または654の一塩基多型のBMIに対する効果量と大腸がんに対する効果量の比を統合した値に一致し、BMIの大腸がんリスクに対する関連の指標であるオッズ比に換算できる。
青色および水色のボックス内には、換算したBMI 1単位増加あたりの大腸がんに対するオッズ比および、95%信頼区間を表記している。
青色および水色の実線の傾きは、68または654の一塩基多型のBMIに対する効果量と大腸がんに対する効果量の比を統合した値に一致し、BMIの大腸がんリスクに対する関連の指標であるオッズ比に換算できる。
青色および水色のボックス内には、換算したBMI 1単位増加あたりの大腸がんに対するオッズ比および、95%信頼区間を表記している。
出典:国立がん研究センター、2021年
大腸がん予防法の検討に役立つエビデンスに
研究グループは、今回の研究の限界として、メンデルのランダム化解析で妥当な結果を得るためには、いくつかの前提条件を満たすことが必要だが、そのことを証明することはできず、そのため研究結果を因果関係と解釈できない可能性が残る点を指摘している。
また、メンデルのランダム化解析では、遺伝的に(ゲノム情報から)予測されるBMIと大腸がんリスクとの関連を評価している。BMIは、遺伝要因と環境要因の両者によって決まる。
BMIは、食行動や身体活動量などの環境要因で生涯を通して変動する。一方で、今回の研究に用いたゲノム情報から予測されたBMIは、生涯の平均的なBMIを反映しているといえる。そのため、今回の研究の結果は、ある時点に測定したBMIと大腸がんリスクとの関係を見る研究結果よりも、大きなオッズ比を示している可能性がある。
しかし、「従来の観察研究と比べ、交絡の影響を受けにくいメンデルのランダム化解析においても、BMIが大腸がんリスクと関連していたことは、大腸がんの予防法を検討する際に役立つエビデンスであると考えます。今後も、BMIと大腸がんの関係をつなぐ基礎研究に加え、メンデルのランダム化解析を含めさまざまなアプローチによる疫学研究からのエビデンスの蓄積が望まれます」としている。
国立がん研究センターBody mass index and colorectal cancer risk: A Mendelian randomization study(Cancer Science 2021年1月27日)
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