「食物繊維」は肥満・メタボ、糖尿病の人にもメリットが大きい 玄米など「全粒穀物」でリスク低下
2021年03月11日
新型コロナウイルス感染症の拡大が続き、あらためて健康維持の重要性を感じている人が多い。肥満やメタボ、2型糖尿病を予防・改善するために、太り過ぎにならなようにし、ストレスにも負けない心身を保ちたいと願う人も多いだろう。
新型コロナに負けないようにするために、適度な運動や休息とともに、とくに意識したいのは食生活の改善。しかし、食事や食品についてさまざまな情報があり、どれを信用したら良いのか分からない――そんなときにお勧めできる栄養素が食物繊維だ。
新型コロナに負けないようにするために、適度な運動や休息とともに、とくに意識したいのは食生活の改善。しかし、食事や食品についてさまざまな情報があり、どれを信用したら良いのか分からない――そんなときにお勧めできる栄養素が食物繊維だ。
食物繊維は肥満・メタボの人にとってメリットが多い
食物繊維は消化・吸収されずに、小腸を通って大腸まで達する栄養素。腸の働きをよくしたり、糖質の吸収をゆるやかにするなど、多くの健康効果がある。
食物繊維が多い食事は、よく噛むために満腹感が得られやすくなり、食べ過ぎを防いで肥満予防につながる。また、脂質やコレステロールなどの吸収を抑えることで、動脈硬化の予防にもつながる。
穀物繊維を十分に摂取することは、日本人の糖尿病のコントロールにも有用と考えられている。日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン2019』では、「食物繊維は糖尿病状態の改善に有効であり、炭水化物摂取量とは無関係に20g/日以上の摂取を促す」と示されている。
日本人を対象とした食物繊維の糖尿病への影響を調べたコホート研究でも、1~2ヵ月の血糖値を反映した指標であるHbA1cは、食物繊維が多いほどレベルが低くなることが示されている。
日本人の糖尿病患者1,414人を対象としたコホート研究も、食物繊維を十分に摂っている人では、心血管疾患の発症率が低下するという結果になった。糖尿病患者が食物繊維を十分に摂ることで、空腹時血糖が低下するという報告もある。
全粒穀物を食べていると糖尿病リスクが29%低下
食事で全粒穀物を多く摂ると、精製された穀物の多い食事よりも、肥満や糖尿病、心臓病の人の健康リスクを低く抑えられることは、
世界中の多くの研究で示されている。
ハーバード公衆衛生大学院などの研究グループは、1984~2014年に実施された「看護師健康研究」、1991~2017年に実施された「看護師健康研究II」、1986~2016年に実施された「医療専門家追跡研究」のデータを解析した。
対象となったのは、研究開始時点で糖尿病や心臓病、がんを発症していなかった男性3万6,525人と女性15万8,259人。
その結果、全粒穀物の摂取量がもっとも多いグループでは、もっとも少ないグループに比べ、2型糖尿病の発生率が29%低かった。
「2型糖尿病を予防するために、野菜、果物、全粒穀物の摂取量を増やすことが勧められます。毎日の食事でこれらの食品を少し増やすだけでも、糖尿病を改善する効果を期待できます」と、研究グループは述べている。
食物繊維が不足している ほとんどの人は1日20g未満
全粒穀物はもっとも食物繊維を摂りやすい
食物繊維の摂取源となるのは、▼穀類、▼野菜類、▼海藻類、▼豆類、▼キノコ類、▼果物類などだが、もっとも得られやすいのは穀類だという。
「全粒穀物(ホールグレイン)」とは、精白などの処理で、果皮、種皮、胚、胚乳といった部位を取り除いていない穀物のこと。白米や白パンでは、精白することによって外皮や胚芽などが取り除かれ、これらに含まれる食物繊維やポリフェノール、ミネラルなどの栄養成分が削り取られ、失われてしまう。
「精製された小麦粉や白米などを食べると、炭水化物の量は同じであっても、食物繊維が少ないため吸収が速く、食後の血糖上昇が起こりやすくなります。血糖値をコントロールする必要のある糖尿病の人にとっては、勧められるのは全粒穀物です」と、ニュージーランドのオタゴ大学栄養学部および医学部のジム マン教授は言う。
マン教授は、エドガー糖尿病・肥満研究所の所長でもあり、40年以上にわたり糖尿病の研究に携わってきた。国際栄養科学連合(IUNS)や、世界保健機関(WHO)と国際連合食糧農業機関(FAO)の専門家会議などにも参加している。
米食でいうと玄米、発芽玄米、大麦、大麦などの入った麦ごはんなどがある。それに「五穀米」などとしてパッケージされている黒米、赤米、ソバ、キビ、アワ、ヒエなどの雑穀も全粒穀物だ。
パン食なら、小麦の外皮や胚乳ごと粉にした全粒粉パン、外皮のふすまを含むブランパン、ライ麦パン。シリアルでは、オールブランや玄米シリアル、オーツ麦(オートミール)など。味も食感もさまざまな全粒穀物があり、幅広い選択肢がある。
全粒穀物を摂ると糖尿病のコントロールが改善
オタゴ大学の研究では、ニュージーランド人の食物繊維の1日の平均摂取量は19gだが、食物繊維を35gに増やすと、死亡リスクを35%低下できることが示された。
また、糖尿病予備群、1型糖尿病および2型糖尿病の成人の計1,789人を対象とした42件の試験のデータに解析では、食物繊維や全粒穀物の多い食事を6週間以上続けることで、糖尿病の人の血糖コントロール、コレステロール値、体重などが一貫して改善することが示された。
さらに研究グループは、2型糖尿病の成人を対象に、全粒穀物がもたらす健康上のベネフィットを調査。参加者に、全粒オーツ麦など加工が最小限の全粒穀物を2週間食べてもらい、持続血糖モニター(CGM)を使用して、2週間の介入期間中の昼と夜の血糖変動を記録した。
その結果、全粒穀物を摂取した場合、食後血糖値が改善し、1日を通しての血糖変動も減少したことが明らかになった。
ごはんやパンを全粒穀物に置き換える食事スタイル
食物繊維は腸内環境も改善する
食物繊維は消化・吸収されずに、小腸を通って大腸まで達する。全粒小麦などに豊富に含まれる不溶性食物繊維が、腸内で溶出して水溶性の性質をあらわし、腸内の発酵を高めることも分かってきた。
腸内で腸内の有用菌がこれら食物繊維をエサにすると、短鎖脂肪酸という物質を生み出す。この短鎖脂肪酸には、満腹感を高めて肥満を抑制する、血糖値の急上昇を抑える、血圧を下げる、免疫機能によい影響を与えるなど、幅広い機能があることが分かってきた。
全粒穀物というあまりお金のかからない食材で、しかも毎日25~29gを摂ることで病気のリスクを下げられるというのはうれしいニュースだ。
食物繊維については、この数年でしっかりとした科学的な根拠(エビデンス)が増えている。毎日の食事で食物繊維が不足しないように心がけたい。
Impact of dietary fiber intake on glycemic control, cardiovascular risk factors and chronic kidney disease in Japanese patients with type 2 diabetes mellitus:the Fukuoka Diabetes Registry(Nutrition Journal 2013年12月11日)Intakes of dietary fiber, vegetables,and fruits and incidence of cardiovascular disease in Japanese patients with type 2 diabetes(Diabetes Care 2013年12月)
Dietary fiber for the treatment of type 2 diabetes mellitus:a meta-analysis(Journal of the American Board of Family Medicine 2012年1月)
Association between dietary factors and mortality from heart disease, stroke, and type 2 diabetes in the United States(JAMA 2017年3月7日)
Higher fibre saves lives, but food processing may remove benefits(オタゴ大学 2020年5月19日)
High carb? Low carb? - It's more about the quality of carb!(心臓財団 2019年10月1日)
Dietary fibre and whole grains in diabetes management: Systematic review and meta-analyses(PLOS Medicine 2020年3月6日)
Intake of whole grain foods and risk of type 2 diabetes: results from three prospective cohort studies(BMJ 2020年7月8日)
High intake of dietary fiber and whole grains associated with reduced risk of non-communicable diseases(Lancet 2019年1月10日)
Carbohydrate quality and human health: a series of systematic reviews and meta-analyses(Lancet 2019年2月2日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。 ©2006-2024 soshinsha. 日本医療・健康情報研究所