心不全は毎年1万人ずつ増加 心臓からのSOSを見逃さない 「心不全パンデミック」を回避

 「心不全」とは心臓の働きが徐々に低下する状態。心不全の患者数は増えており、日本でも「心不全パンデミック」が起こるのではないかと危惧されている。
 心不全や、心臓からのSOSを正しく理解できている人は、実際には少ないという調査結果が発表された。産官学で心不全に取り組む試みも始められている。
高血圧や肥満の人の息切れは心臓からのSOSかもしれない
 日本循環器学会や日本心不全学会などによると、心不全とは心臓の働きが低下し、息切れやむくみが起こり、徐々に悪くなる状態だ。適切な治療を受けないでいると、最終的に生命を縮めてしまうことも多い。

 日本人の死亡原因では、がんに次いで心臓病が多く、心臓病でもっとも多いのが心不全だ。年間8万人余りが心不全のために亡くなっている。

 高齢化が進む日本では、心不全が大幅に増加する「心不全パンデミック」が起こるのではないかと危惧されている。

 心不全の患者数は毎年約1万人ずつ増加しており、2020年には120万人、2030年には130万人になると推計されている。

心不全を理解できている人は少ない
 もしも心不全を発症したら、早期に発見して治療を開始し、心不全の進行をできるだけ抑えることが重要になる。

 心不全の原因として多いのは心筋梗塞、次に高血圧とみられている。さらに糖尿病、脂質異常症、肥満、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病は、動脈硬化のリスクを高め、心筋梗塞を引き起こす。

 とくに肥満は心臓に負担をかけ、心不全のリスクを高める。心不全を予防するために、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病などの治療をしっかり行い、タバコを吸う人は禁煙することが重要となる。

 ノバルティス ファーマが実施した「日本人の心不全に関する意識調査」によると、心不全を正確に理解している人は4人に1人と少ない。調査は今年5月に全国の20~80代の男女1,004人を対象にオンラインで行ったもの。

 それによると、自分や自分の家族がかかるかもしれないと思う病気として挙げられたのは、「がん」(43%)ともっとも多く、次いで「高血圧」(31%)、「糖尿病」(25%)と続いた。

 また心疾患では「心筋梗塞」(17%)、「不整脈」(11%)となり、「心不全」(9%)を挙げた人は少なかった。日本でも心不全の有病者が増えていることは知られていなかった。
心臓からのSOSを見逃さないために
 心不全の初期の自覚症状として、息切れ、むくみなどがある。さらに、体重増加、食欲不振、腹部膨満感、疲れやすい、低血圧、手足が冷たいなどといった症状があらわれることがある。こうした気になる症状があるときには、かかりつけの医師に相談することが勧められる。

 心不全の息切れは、最初は階段や坂道で息切れを感じる程度だが、心不全が進行すると平地を歩いるときにも、さらには安静時にも息切れを起こすようになる。息切れが悪化しない段階で、心不全に気付くことが大切だ。

ノバルティス ファーマ調査、2020年
 また、腎臓が悪くなると、体から水分が十分に排泄されなくなり、むくみ(浮腫)が起こりやすくなる。さらに、むくみとともに体重が増加することがある。体重を毎日チェックし、急に増えた場合は、すみやかに医師に相談する必要がある。

 調査では心不全の症状として、「突然、胸が苦しくなる」「突然、胸が痛くなる」といった急性症状をイメージした人が多かった。

 しかし実際には、徐々に心臓の機能が衰える「慢性心不全」も多い。

 心不全に「急性心不全」と「慢性心不全」があるということを知っている人は47%と半数以下で、「慢性心不全」を知っている人でも、症状が「徐々に心臓の機能が衰える病気」と回答できたのは57%だった。
心不全を早期発見できるのなら、ぜひ検査を受けたい
 心不全を早期発見するためには、検査を受けることが欠かせない。まずは心電図や胸部X線行うことのが一般的だ。胸部X線で、肺が白っぽく見えるときは、肺の血管がうっ血しているおそれがある。

 次にBNPや心エコーの検査が行われる。BNPは心臓に負担がかかると主に心室から分泌されるホルモン。心臓の機能が低下して心臓への負担が大きいほど数値が高くなる。血液検査でBNPの濃度をみることで、心臓への負担の程度を大まかに知ることができる。

ノバルティス ファーマ調査、2020年
 一般的にBNPの値が40pg/mL以上だと軽度の心不全の可能性がある。100pg/mL以上だと心不全の可能性があり、それ以上高くなると治療が必要となる。

 NT-proBNPという検査もある。BNPとNT-proBNPは同じ目的で使用されているが、数値に違いがある。一般的にBNPよりもNT-proBNPの方が4~5倍高い値を示す。

 調査では、心臓の検査のなかで、「BNP検査」を知っている人は3%とわずかだった。その一方で、「検査を受けることで心不全を早期に発見できるとしたら、検査を受けてみたい」と答えた人は78%と多かった。
愛媛県は心疾患の死亡率が全国2位 心不全に産官学で挑む
 愛媛県は心疾患の死亡率が全国第2位だ。心疾患死の原因は、心不全や急性心筋梗塞が多く、とくに心不全による心疾患死が多いのではないかと県では推測している。

 そこで、愛媛県、愛媛大学、ノバルティス ファーマは共同で、心不全と高血圧を中心とする循環器病対策を実施するために取り組む産官学連携プロジェクトを立ち上げた。

 「愛媛県民の健康寿命の延伸」「循環器病に関連する死亡率の低下」「循環器病入院の抑制を通じた、それぞれの患者の医療費の適正化」の実現を目標としている。

 同県では、心不全のリスク因子である高血圧と診断される割合も全国上位に位置する。それにも関わらず、高血圧に対する通院率は全国平均並みで、血圧のコントロールが十分にできていないケースが多いとみられる。

 そこで、愛媛大学大学院医学系研究科・薬理学の外山研介助教らは、心不全の原因のひとつである高血圧性心肥大について、高血圧の既往のある県民9,873人の健診データの心電図により検証した。

愛媛県は「心不全によって苦しむ人の割合」が日本一かも
愛媛県が公開しているビデオ
かかりつけ医や循環器内科の医師に相談を
 その結果、県内の5市町で、高血圧に対する管理不足のため心肥大の割合が多いことが明らかになった。

 心肥大とは、心臓のとくに心室の壁が過剰に厚くなっている状態を指す。放置していると、心臓の機能が低下し、心不全を引き起こしかねない。

 高血圧がその原因となっている場合が多い。糖尿病の人も心肥大を合併しやすいことが知られている。

 食事療法や薬物療法を行い血圧や血糖をコントロールすることで、心肥大の症状も改善されていく。肥満や高血圧、糖尿病の治療として勧められている減塩や体重コントロール、ウォーキングなどの有酸素運動を1日30分以上、週3日以上行うといったことは、心不全を予防するためにも大切だ。

 もしも心不全を発症したら治療を開始し、進行をできるだけ抑えることが重要になる。そのために、心不全を早期発見することも大切だ。

 「心不全の初期には、階段を上るときに息が切れる、歩行時に同年代の人についていけない、脚がむくむといった症状があらわれます。高血圧や糖尿病などの、心不全のリスクとなる病気をお持ちの方は、"心臓からのSOS"を見逃してはいけないといったお気持ちで、ご自分の症状について注意することが大切です」と、外山氏はアドバイスしている。

日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン」(2017年改訂版)

愛媛県/循環器疾患への貢献
愛媛県・愛媛大学・ノバルティス ファーマ 産官学連携プロジェクト

ノバルティス ファーマ