特定健診に「尿ナトリウム・カリウム比」を導入 その場で検査して指導
2020年10月12日
東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)は、「尿ナトリウム・カリウム比」の値が低下すると、体格や飲酒量の変化から独立して、収縮期血圧が低下することを明らかにした。
これは、宮城県登米市の特定健康診査の参加者を対象に2017年度から2年間、約1.3万人を対象に調査したもの。
これは、宮城県登米市の特定健康診査の参加者を対象に2017年度から2年間、約1.3万人を対象に調査したもの。
塩分と野菜の摂取バランスを示す「尿ナトリウム・カリウム比」
食塩の摂りすぎは高血圧の原因になるが、野菜や果物などに含まれるカリウムを多く摂取することで、血圧が低下するという研究報告がある。そこで考案されたのが、塩分(ナトリウム)と野菜(カリウム)摂取のバランスをあらわす指標である「尿ナトリウム・カリウム比」。
この値が低いほど塩分摂取量が少なく、野菜などに多く含まれているカリウムを多く摂っていることが示される。逆に値が高いと、食事中の塩分が多い、あるいはカリウム(野菜など)が不足していることが分かる。
東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)は、この「尿ナトリウム・カリウム比」(ナトカリ比)を用いた研究を行った。これは、同機構、東北大学産学連携機構イノベーション戦略推進センター革新的イノベーション研究プロジェクト(COI東北拠点)と、宮城県登米市との共同研究によるもの。研究成果は、「Hypertension Research」に掲載された。
塩分を摂り過ぎないよう指導するのは難しい
日本高血圧学会のガイドラインでは、高血圧予防のために、減塩(ナトリウム)と、野菜や果物(カリウム)の摂取増加を勧奨している。ナトカリ比が高いほど食事中の食塩摂取量が多い、あるいはカリウムが不足している可能性がある。
保健指導で食事について「しょっぱいものを食べ過ぎると、塩分の摂り過ぎにつながるので気をつけて」「ラーメンの汁を全部飲むと、塩分の摂り過ぎになる」などと指導することは多い。しかし実際には、塩分を気にして毎度の食事を摂るのはなかなか難しい。
また、塩分摂取状況の評価は24時間蓄尿が一般的であるが、短時間で測定値を得るのは難しい。そこで、オムロンヘルスケアが開発したのが、尿1~2滴で尿ナトリウム・カリウム比が簡単に分かる「尿ナトカリ計」だ。
この尿ナトカリ計で任意の時間に採取した随時尿の複数回測定と、24時間畜尿の測定結果に相関があることが明らかになっている。
尿ナトカリ比が低下すると収縮期血圧値が低下
尿ナトカリ比測定値に関する結果票
出典:東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)、2020年
その場で測定結果を見せれば、行動変容を引き出しやすくなる
具体的には、尿ナトカリ比および収縮期血圧の平均値は、2017年度が5.4±3.0、132.1±17.9mmHg、2018年度が4.9±2.2、130.9±17.4mmHgだった。さらに、他の生活習慣の要因を考慮しても、尿ナトカリ比高値はなお、高血圧有病率と関連していたことも分かった。
今回の研究では、住民の尿ナトカリ比測定後の、塩分摂取量などの食行動についての詳細な情報は得られなかったので、尿ナトカリ比や血圧が低下した原因を特定することはできない。
しかし、地域全体で尿ナトカリ比や血圧が低下したことから、特定健診の会場で尿ナトカリ比を測定し、その場で測定結果を知らせたことが、住民の減塩や野菜摂取量の増加などの行動変容を促した可能性がある。
「尿ナトカリ比には明確な基準値はありませんが、他の研究でも尿ナトカリ比値が高いほど高血圧有病率が高まることや、循環器疾患や脳卒中の危険度が高まるという結果が発表されています。今後はさらなる研究が進み、食習慣の見直しのための基準が明確になれば、手軽に減塩に取り組むことができるでしょう」と、同機構では話している。
同機構とCOI東北拠点では、「ナトカリ計」を用いた測定を、地域の保健事業に活用する方策を検討している。
出典:東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)、2020年
東北大学 産学連携機構イノベーション戦略推進センター
宮城県登米市
Sodium/potassium ratio change was associated with blood pressure change: possibility of population approach for sodium/potassium ratio reduction in health checkup(Hypertension Research 2020年8月17日)
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