ウォーキングなど運動習慣のある人はがんのリスクが低い 適度な運動が7種類のがんのリスクを低下

 適度な運動や身体活動を続けることで、7種類のがんの発症リスクが低下することが、米国がん学会、米国立がん研究所、ハーバード公衆衛生大学院の共同研究で明らかになった。研究成果は、医学誌「Journal of Clinical Oncology」に掲載された。
適度な運動が7種類のがんのリスクを下げる
 運動を習慣として続けることで、がんのリスクが低下すること、過去の研究でも示されていたが、具体的にどれくらいの運動をすると効果があるかについては不明だった。

 そこで研究チームは、運動習慣とがんリスクの関連を調べた9件の前向きコホート研究を解析し、平均年齢62歳の成人75万5,459人を対象に調査した。平均10年間の追跡調査により、余暇時間の運動や身体活動が7.5~15メッツの人は、がんの発症リスクが統計学的に有意に低下することが明らかになった。

 たとえば、男性に多い大腸がんのリスクは、週7.5メッツ・時の運動により8%、週15メッツ・時の運動により14%、それぞれ低下した。また、女性に多い乳がんのリスクは、週7.5メッツ・間の運動により6%、週15メッツ・時の運動により10%、それぞれ低下した。

 「運動ガイドラインで推奨されている量の運動や身体活動を行うと、7種類のがんの予防効果を得られることが分かりました。がんのリスクを下げるために、成人は運動を習慣として行うべきです。時速5kmぐらいの通常のウォーキングを30分、毎日行うことで、運動の推奨量を満たすことができます」と、米国がん学会の上級科学ディレクターであるアルパ パテル氏は言う。
ウォーキング1日に15~20分以上 続ければ効果が
 運動や身体活動の量や強度は代謝当量(Metabolic Equivalents)で示され、単位としては「メッツ」であらわされる。静かに座っている時を1メッツとして、その何倍の消費カロリーに相当するかで運動や身体活動は測定される。

 平均的な成人の場合、安静にしていると1時間に体重1kgあたり約1kcalを消費する。体重が72kgの人が安静にしていると、1時間に約70kcalを消費することになる。

 ハーバード公衆衛生大学院によると、3メッツに相当する軽い運動は「ゆっくりとしたウォーキング」「座ったまま行うパソコン作業」「立ったまま行う料理や皿洗いなどの家事」などだ。3~6メッツに相当する中強度の運動は「時速6.4kmの活発なウォーキング」「窓掃除や掃除などの家事」「自転車こぎ」「テニスやバドミントン」など。

 運動量は「運動強度×時間」で計算され、「メッツ・時」という単位であらわされる。たとえば、4.5メッツの強度のウォーキングを週に1.5時間行うと、運動量は「4.5メッツ・時×1.5=6.75メッツ・時」となる。

 ウォーキングは速度を上げれば、消費するカロリーを増やすことのできる、取り組みやすく調整しやすい運動だ。米国の運動ガイドラインでは、成人に対して中強度のウォーキングなどの有酸素運動を週に1~2時間(1日に15~20分)以上を行うことを推奨されている。
週に「7.5〜15メッツ・時」の運動が必要
 研究では、運動や身体活動を推奨される量(週7.5〜15メッツ・時、中強度の運動を週に2.5時間、または高強度の運動を週に1.25〜2.5時間)を続けることで、研究対象となった15種類のがんのうち7種類(大腸、乳、子宮内膜、腎臓、多発性骨髄腫、肝臓、非ホジキンリンパ腫)のリスクが有意に低下することが明らかになった。

 運動量を増やすことで、多くのがんのリスクは低下した。具体的には、運動や身体活動を増やすことは、下記のがんのリスク低下と関連していた――。

● 男性の大腸がんのリスクが、週7.5メッツ・時の運動により8%、週15メッツ・時の運動により14%、それぞれ低下。
● 女性の乳がんのリスクが、週7.5メッツ・間の運動により6%、週15メッツ・時の運動により10%、それぞれ低下。
● 女性の子宮内膜がんのリスクが、週7.5メッツ・時の運動により10%、週15メッツ・時の運動により18%、それぞれ低下。
● 腎臓がんのリスクが、週7.5メッツ・時の運動により11%、週15メッツ・時の運動により17%、それぞれ低下。
● 多発性骨髄腫のリスクが、週7.5メッツ・時の運動により14%、週15メッツ・時の運動により19%、それぞれ低下。
● 肝臓がんのリスクが、週7.5メッツ・時の運動により18%、週15メッツ・時の運動により27%、それぞれ低下。
● 女性の非ホジキンリンパ腫のリスクが、週7.5メッツ・時の運動により11%、週15メッツ・時の運動により18%、それぞれ低下。
運動は乳がんサバイバーの症状を軽減しQOLを向上する
 パテル氏らは、がんのリスクを下げるために、成人は推奨レベルの運動や身体活動を続けるべきだと結論している。それだけでなく、運動はがんサバイバーの生存率や生活の質(QOL)を向上するためにも役立つ。

 運動は骨格筋を増加し、エネルギー消費を増加させ肥満対策になり、がんサバイバーでは、身体機能の改善に加え、倦怠感や不安などの苦痛をともなう症状の軽減し、生活の質(QOL)を向上する効果があると報告されている。

 米国スポーツ医学会(ACSM)などは「がんサバイバーのための運動ガイドライン」という報告書を2019年に発表した。ACSMが主催した国際パネルには、米国がん学会と国立がん研究所の専門家が参加した。

 たとえば、乳がんを対象とした研究では、乳がん治療を経験した女性のうち、適度な運動を行う女性は、行わない女性に比べて、乳がんの再発や死亡のリスクが低くなることはほぼ確実とみられている。

 ウォーキングなど運動が、乳がんサバイバーの死亡リスクを低下し、また乳がんの再発リスクを低下する。乳がんの治療によりリンパ浮腫が起こることがあるが、ガイドラインに従いながらフィットネス指導者のもとレジスタンストレーニングを行うことで、リンパ浮腫を安全に予防したり症状を改善できると報告されている。

 「世界の成人の4人に1人が、運動不足のために、がんを発症したり悪化するリスクが高まっています」と、パテル氏は言う。「身体的に活動的であることは、あらゆる年齢や能力の人々をがんから身を守るために、行いえるもっとも有効なステップとなります」。

 「がんを予防・改善するために、運動習慣を身につけるべきであるというメッセージを広めるために、すべての国の運動と公衆衛生の専門家や医療従事者が協力するべきです」としている。

Study: Getting Enough Exercise Lowers Risk of 7 Cancers(米国がん学会 2020年1月9日)
Amount and Intensity of Leisure-Time Physical Activity and Lower Cancer Risk(Journal of Clinical Oncology 2019年12月26日)
Expert Panel: Physical Activity Helps Prevent Cancer and May Help Cancer Survivors Live Longer(米国がん学会 2019年10月16日)
Summary of the ACS Guidelines on Nutrition and Physical Activity(米国がん学会 2016年2月5日)
Physical activity guidelines: How much exercise do you need?(ハーバード公衆衛生大学院 2013年11月20日)
Expert Panel: Cancer Treatment Plans Should Include Tailored Exercise Prescriptions(米国スポーツ医学会 2019年10月16日)
Exercise Guidelines for Cancer Survivors: Consensus Statement from International Multidisciplinary Roundtable(Medicine & Science in Sports & Exercise 2019年11月)