睡眠不足が肥満やメタボを悪化させる 脂質代謝にも異常が 睡眠を改善する3つの方法

 睡眠不足は、肥満やメタボ、2型糖尿病、高コレステロールのリスクを高める。
 睡眠を改善するための研究が世界中で行われている。睡眠改善のためのヒントをご紹介する。
睡眠不足は肥満や糖尿病のリスクを高める
 日本人を含め、世界の多くの人が平日は睡眠不足に陥っている。睡眠不足が健康に及ぼす悪影響について報告した研究は増えている。

 米国のブリガム アンド ウィメンズ病院が、45〜84歳の男女2,003人を6.3年間追跡した調査で、睡眠時間が一定しておらず、睡眠不足が多いと、善玉のHDLコレステロールの低下、ウエスト周囲径の増加、高血圧、総中性脂肪、空腹時血糖値の上昇など、さまざな代謝異常が引き起こされることが明らかになった。

 わずか数日間の睡眠不足により、食事で満腹感を得にくくなり、食事で摂取した脂肪の代謝も変わってしまうことは、ペンシルバニア州立大学の研究でも明らかになっている。
睡眠不足が脂質の代謝にも影響
 睡眠不足が慢性化すると、グルコース代謝に異常があらわれ、肥満と2型糖尿病のリスクが上昇する

 ペンシルバニア州立大学生物行動医学部のオルフェ ボクストン教授らはこれまでの研究で、睡眠不足がグルコース代謝を障害し、血糖値が上昇しやすくなり、2型糖尿病のリスクを高めることを明らかにしてきた。今回の研究では、食事で摂取した脂質の代謝にも異常があらわれることを突き止めた。

 研究に参加した20歳代の15人の男性に、自宅で1週間十分な睡眠をとった後に、研究者で10日間を過ごしてもらった。研究者では5日間、睡眠時間が5時間以内に制限された。

 参加者に、睡眠制限が4日間続いた後に、標準化された高脂肪の夕食(チリマックのボウル)を食べてもらった。カロリーが高い食事だったが、ほとんどの参加者は睡眠不足の状態では、十分に睡眠をとった時に比べ、「食事による満足感が低いと感じる」「食欲が増している」と回答した。

 研究チームが血液サンプルを採取したところ、睡眠不足により、グルコース代謝に異常が起こるだけでなく、脂質クリアランスが低下しており、体に脂肪がたまりやすくなり肥満になりやすくなっていることが判明した。
睡眠改善のヒント 1「夜はジャンクフードを食べない」
 このように睡眠不足が慢性化すると、心身にさまざまな障害が引き起こされるが、睡眠を改善するための研究も世界中で行われている。

 アリゾナ大学健康科学部の研究によると、夜間にスナックやジャンクフードを食べる不健康な食事スタイルは、睡眠不足につながりやすい。

 3,105人の米国人を対象とした調査で、60%が夜間にスナック類を食べる習慣があり、3分の2が睡眠不足に陥り、さらにジャンクフードを食べたくなるとう悪循環に陥ることがあると回答した。

 「不健康な食事スタイルは睡眠不足につながりやすいと同時に、睡眠不足が続くと夜間にジャンクフードを食べたくなり、不健康な食事が助長され、体重増加につながります。睡眠不足とジャンクフードへの欲求は、肥満や2型糖尿病などの代謝異常のリスクを高めます」と、アリゾナ大学睡眠・健康研究プログラムのマイケル グランダー氏は言う。
睡眠改善のヒント 2「1日の終わりにリラックスできる時間を作る」
 ヒューストンメソジスト病院神経科のランドール ライト氏は、睡眠を改善するためのいくつかのヒントを提案している。

 「眠っているときに、脳は1日に貯められた無駄な情報を掃除し、新しい情報を保存し、記憶を捨てるなどの処理をしています。十分な睡眠がとれないと、脳はこれらのタスクを完了できず、深刻な障害が引き起こされる可能性が高まります」と、ライト氏は言う。

 質の良い睡眠を得るために、以下の工夫が役立つ――。

・ 1日の終わりに、歯磨き、温かいシャワー、リラックスできる音楽、読書など、クールダウンのための時間を作る。これにより、脳は今がリラックスの時間であるというシグナルを認識して、メラトニンの分泌が刺激され眠りにつくのを助ける。

・ スマートフォンやタブレット端末などの電子機器を寝室に持ち込まない。これらの液晶の光が脳を刺激し、メラトニンの分泌が抑制され、眠りが浅いなどの睡眠障害が起きやすくなる。眠るときにはスマートフォンなどの電源を切っておくことが大切だ。

 こうした工夫をしても、質の良い睡眠を得られない場合は、睡眠補助薬や睡眠薬が必要となることもある。

 しかし、ライト氏は「睡眠薬は常用すると耐性ができやすい。そのため飲み続けると高用量でないと効かなくなるおそれがあります。睡眠薬を利用するときは、必ず医師に相談するべきです」とアドバイスしている。
睡眠改善のヒント 3「ウォーキングなどの運動をする」
 寒い季節はできるだけ動きたくないかもしれないが、運動を習慣化することで心身にもたらされる改善効果は大きい。日中に運動する人は良く眠れる傾向があることを示した研究が報告されている。

 活発な運動によって、気持ちをコントロールする神経伝達物質のひとつ「ドーパミン」が分泌され、気分が落ち込んでいたり、イライラに悩まされているときに、症状を改善する効果を得られる。

 日光のもとで早歩きするだけでも大きな違いがある。運動をすることで、爽快感や活動的な気分も得られる。運動をはじめることは、生活スタイルを改善するための第一歩になる。

 ただし、運動によりアドレナリンやエンドルフィンなどの、体を覚醒させるホルモンの分泌も刺激される。ウォーキングなどの運動は、なるべく日中の早い時間に行うことが勧められる。
「体内時計」の乱れも原因に
 季節の変わり目に睡眠不足に陥りやすい原因のひとつは、「体内時計」の乱れだ。理化学研究所脳科学総合研究センターの研究チームは、冬に体内時計が乱れやすくなる理由を調べた。

 人の体には「概日時計」と呼ばれる体内時計を調整する機能が備わっており、睡眠と覚醒や、ホルモン分泌のリズムを整えている。脳の視床下部にある「視交叉上核」と呼ばれる神経が、体中の概日時計をコントロールし、いわばオーケストラの指揮者のような役割を果たしている。

 例えば時差ボケやシフトワーク、不規則な生活が続くと、気分がすぐれなくなったり、体調不良が起こるのは、視交叉上核がうまく働かなくなるからだ。暗い時間が長い秋や冬になり、この概日時計が日差しの明暗に同調できなくなると、生理機能に影響が出てくる。
朝の光を積極的に浴びると改善する
 体内時計を調整するために、午前中に起床して太陽の光を浴びる、規則正しい生活習慣が効果的だ。日差しが短くなり始める秋からは、ウォーキングや通勤時間などを活用し、積極的に朝の光を浴びると良い。

 日中に太陽光を浴びるとセロトニンという物質が作られる。セロトニンは、脳から分泌される睡眠ホルモンであるメラトニンの原料となる。太陽の光が少ない冬の期間は、セロトニン減少が起きメラトニンが十分に生成されにくくなる。

 メラトニンには、季節のリズム、睡眠・覚醒リズム、ホルモン分泌のリズムといった概日時計を調整する作用があり、不足することで変調をきたしやすくなる。うつ病や統合失調症などの疾患とも関連すると考えられている。

Obesity, diabetes, high cholesterol more prevalent among irregular sleepers(アメリカ国立衛生研究所 2019年6月5日)
Cross-sectional and Prospective Associations of Actigraphy-Assessed Sleep Regularity With Metabolic Abnormalities: The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis(Diabetes Care 2019年8月)
Lack of sleep affects fat metabolism(米国生化学・分子生物学会(ASBMB) 2019年9月16日)
Four nights of sleep restriction suppress the postprandial lipemic response and decrease satiety(Journal of Lipid Research 2019年9月4日)
Three Tips For Better Sleep(ヒューストンメソジスト病院 2019年10月29日)
UA Study Finds Link Between Sleep Loss, Nighttime Snacking, Junk Food Cravings and Obesity(アリゾナ大学 2018年6月1日)
Nighttime Snacking: Prevalence And Associations With Poor Sleep, Health, Obesity, And Diabetes(Sleep 2018年4月27日)
睡眠・覚醒機能と24時間リズムをセロトニンが束ねる(理化学研究所 2012年10月17日)