肥満解消のためにメンタル面でのサポートも必要 肥満を解消するための8つの方法

 「肥満を解消できないのは、決して患者の努力や能力が不足しているからではない」――肥満にストレスや不安などのメンタル面の因子が影響していることが、研究で明らかになった。
 「肥満の心理的側面についても理解し、より良いサポート方法を開発する必要があります」と、研究者は指摘している。
肥満によるイメージ低下の問題も大きい
 世界保健機関(WHO)によると、世界の3億人以上の成人が体格指数(BMI)が30以上の肥満で、10億人以上はBMIが25以上の過体重だ。北米、英国、東欧州、中東、太平洋諸島、オーストラリア、中国などで、肥満率は1980年から3倍以上に上昇している。

 肥満とメンタルヘルスは相互に影響しあうことが多くの研究で示されている。肥満のために自己イメージが低下したり、社会的イメージが低下すると感じる人は多く、それが不健康な食事や運動不足をさらに助長するおそれがある。

 「肥満を解消できないのは、決して患者の努力や能力が不足しているからではありません。肥満にはさまざまな複雑な原因がからんでいるのです。肥満治療に携わる医療者は、肥満の心理的側面についても理解する必要があります」と、英国のベッドフォードシャー大学の臨床心理士であるエンジェル チャター氏は言う。

 たとえば、幼年期や人生の重大な局面で、手に負えない課題やトラウマを抱えて苦しんだ経験のある人は、肥満に対するインセンティブをつくりにくくなる傾向があるという。また、貧困な生活をおくる人々は、健康的な食品を手ごろな価格で入手しにくく、食事の選択肢が少なくなるおそれがあり、肥満の影響を受けやすい。

 「個人の意志は肥満の解消に大きく影響しますが、肥満の原因はそれだけではありません。肥満に対するネガティブなステレオタイプの理解があるために、肥満の問題をより複雑にしています」と、チャター氏は指摘する。

 肥満は糖尿病を悪化させる大きな原因でもある。肥満になると動脈硬化が進みやすくなり、糖尿病の合併症である狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などが起こりやすくなる。
肥満者に対するメンタル面でのサポートも必要
 「肥満に対策するためには、患者個人の問題だけでなく、生物学的、心理的、社会的な原因も理解する必要があります。そうすることで、行動変化に向けたアプローチが可能になり、体重コントロールを成功させることができるようになります」と、スウェーデンのヨーテボリ大学病院のマリアンヌ サリバン氏は言う。

 サリバン氏らの研究によると、肥満のある人では、そうでない人に比べ、うつ病の発症率が3〜4倍に上昇する。研究者は、肥満のある人に対するメンタル面でのサポートの必要性を指摘している。

 「私たちがどのように考え、感じているかが、行動に大きく影響します。たとえば、悲しみ、不安、ストレス感情があると、多くの人は食事で通常よりも多く食べるようになります。これらの感情に対処する介入をしないと、肥満を長期的に改善するのは難しくなります」と、サリバン氏は言う。

 ストレスが食事や運動などの生活スタイルに大きく影響する。たとえば、家族や親しい友人の喪失、人間関係でのトラブル、失業、病気など医療上の問題に直面するなど、感情的に消耗するような出来事があると、多くの人はそこから回復するのが難しくなり、気が付かないうちに食べ過ぎたり、運動不足に陥りやすくなる。これらの習慣が定着すると、変更するのが難しくなる。
肥満を解消するための8つの方法
 英国心理学会はこのほど、肥満とメンタルヘルスに関するレポート「肥満に関する心理学的観点:政策、実践、研究の優先事項」を発表した。

 「イングランドの成人の肥満レベルは2005~2017年に18%増加しました。肥満は喫緊の課題になっています。患者をより良く支援する方法を開発するだけでなく、そもそも人が肥満を解消しやすい環境を作るのを支援し、公共政策も整備する必要があります」としている。

 英国心理学会は、肥満にある人が肥満に対して行動を起こすのをサポートするために、次のことをアドバイスしている。

● 食事の記録をとる

 食事の内容や量、時間などを記録し、後でまとめて見直せるようにしておく。食事の時間に感じたことも書き留めるようにするとさらに良い。怒りや悲しみを感じていたか、ストレスを感じていたかを記録する。それにより、自分がどんなときに「快適な食事」を楽しめるかが分かるようになる。

● 食べることに集中する

 食事の時間には、自分の体や心の状態を意識し、リラックスした状態になることを心がける。食事ではよく味わいながら、食品の味や匂い、色にまで注意し、ゆっくりと食べる。スマホを見ながらかきこむのではなく、じっくり歯ごたえ、味、香りを味わうようにする。

● 食事の一食分の量を減らす

 食事の「ポーションサイズ(一食分の量)」を減らしてみる。大量の食事が提供された場合、人はいつもより多く食べやすくなる。食事に含まれる糖質、脂肪、食塩が多いと、食欲を増すという報告がある。

● ストレスの原因を解消する

 肥満の治療は抑うつ感の軽減に役立つことが多いことが分かっている。ストレスなど、否定的な感情に悩まされていると、体重コントロールはうまくいきにくくなる。減量を試みる前に、ストレス原因を解決することも考えてみる。

● 家族や仲間のサポートを得る

 家族のサポートを得られれば、体重のコントロールをやりやすくなる。家庭で健康的な食事で取り組めば成功しやすい。医療機関で、同じ病気の仲間やサポートを提供してくれる人を見つけて、互いに励まし合うと上手くいきやすい。

● 女性の「悪い日」をみつける

 肥満は女性にとって、生殖システムに障害を起こす原因にもなる。女性は男性に比べ、肥満とうつ病のサイクルに対して脆弱だという研究も報告されている。毎日の記録をとり、どのような考えや感情が過食を促すかを理解すれば、対処法も見つけやすくなる。

● 生活を少しずつ変えていく

 体重をコントロールし、肥満を解消するために、生活スタイルを健康的に変えていくことが必要だが、ストレスなどでメンタル面に問題を抱える人は、食事や運動などの習慣を少しずつ変えていくことを考えた方が良いかもしれない。
 肥満を引き起こしている感情的な要因を安定させるために、生活のできることから部分的に改善していった方が上手くいきやすい。

● 専門家の治療を受ける

 メンタルヘルスに関わる資格をもっている医療専門家が加わったチーム医療を受ける方法もある。医師は食事や運動、薬物療法など、体重コントロールのための効果的な計画をたて、心理療法士はストレスやうつ、体重増加の原因になった経験に対処し、心理学的な援助をする。

Obesity and overweight(世界保健機関 2018年2月16日)
Swedish obese subjects (SOS) - an intervention study of obesity. Two-year follow-up of health-related quality of life (HRQL) and eating behavior after gastric surgery for severe obesity(International Journal Of Obesity 1998年1月27日)
Help us show how psychology can prevent poor health(英国心理学会 2019年9月16日)
Psychological perspectives on obesity: Addressing policy, practice and research priorities(英国心理学会)