糖尿病の人にとって「卵」は敵か? 味方か? 「1日1個」ならメリットが多い

 卵は、目玉焼き、ゆで卵、スクランブルエッグなど、さまざまな調理法があり、安価で栄養価の優れた食品だ。
 コレステロールが多く含まれているので、卵を控える人は少なくない。しかし最近の研究では、卵を毎日食べても、血糖値やコレステロール値に影響せず、心血管疾患のリスクも上昇しないことが分かってきた。
コレステロールは体にとって必要不可欠
 コレステロールというと、悪者のようにとらえる人も多いが、実は体にとって必要不可欠な栄養素だ。

 卵に含まれるコレステロールは、全身の細胞の成分になるのに加え、ホルモンの原料になり、ビタミンDや胆汁酸の原料にもなる。これらは生命の維持になくてはならない物質で、細胞の働きの調節や栄養素の吸収などにも関わっている。

 コレステロールの多くは肝臓で作られており、体内のコレステロールの70~80%は体内で作られてい。これに対し、20~30%は食事で摂取され小腸で吸収される。

 つまり、食事によるコレステロール摂取量が、そのまま血中コレステロール値に反映されるわけではない。

 日本人は、1日に200~400mgのコレステロールを摂取しており、平均的な1日の摂取量はおよそ300mgだ。なお、コレステロールはエネルギー源として使用されることはなく、血糖値も上げない。

 日本動脈硬化学会によると、肉の動物性脂肪には、飽和脂肪酸が多く含まれていて、これが悪玉のLDLコレステロールや中性脂肪を増やす。飽和脂肪酸がとくに多いのは、牛や豚のバラ肉、鶏肉の皮、加工肉、バターなどだ。

 2型糖尿病や肥満、メタボリックシンドローム、中性脂肪値が高くなっている人では、食事の摂取カロリーをコントロールする必要がある。これに加え、LDLコレステロール値が高くなっている人は、飽和脂肪酸やコレステロールの摂取量により注意する必要がある。
「卵は1日1個まで」という話には根拠があるのか?
 卵は安くて栄養豊富な食品だ。卵には必須アミノ酸が含まれ、卵黄に含まれるレシチンには血管を強くしたり、血中の余分なコレステロールの沈着を防いだりする作用がある。その一方で、コレステロールも多く含まれる。Lサイズの卵1個にコレステロールが約300mg含まれる

 以前は「卵は1日1個までにしないとコレステロール値が上がる」と言われていた。これは、1970年代に行われた研究を根拠としていた。

 以前まで、厚生労働省では、1日のコレステロールの摂取基準を女性600mg、男性750mgと設けていた。卵1個のコレステロール値はおよそ300mgなので、卵は「1日1個まで」が良いとされていた。

 しかし、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」は2015年に改定され、コレステロールの目標量(上限)の記載が消えた。コレステロールを多く含む食品を食べても、血中コレステロール値には影響がないという研究報告が相次ぎ、目標量は「十分な科学的根拠がない」とされたためだ。
卵を1日1個食べると心血管疾患のリスクが低下
 卵を1日1個、毎日食べると、心血管疾患のリスクが低下するという研究が発表されている。心血管疾患(CVD)は世界的に主要な死因となっている。中国では日本と同じように、虚血性心疾患と脳卒中(出血性および虚血性)が多い。研究は、中国の北京大学医学部が行ったもの。

 「中国 カドーリ バイオバンク(CKB)」研究は、英国との共同研究として実施されているゲノムコホート研究。中国の10の地域から30~79歳の成人51万2,891人が参加している。

 研究チームは、がんや心血管疾患、糖尿病と診断されたことのない41万6,213人を対象に、脳卒中や心臓発作の発生状況を9年近く追跡して調査した。参加者の13.1%は卵を1日に平均0.76個食べており、9.1%は卵を1日平均0.29個食べていた。

 その結果、毎日1個程度の卵を食べる人は、ほとんど食べない人に比べ、出血性の脳卒中を起こす確率が26%低いことが分かった。出血性脳卒中で死亡するリスクも28%低かった。また、卵を週に5.32個食べている人は、週に2.03個食べている人に比べ、心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクが12%低くなっていた。

 「卵を1日に1個程度食べると、心血管疾患のリスクが低下することが分かりました。50万人以上という大規模な調査で明らかになった意義は大きい」と、北京大学健康科学センターのキャンツィン ユゥ氏は言う。
2型糖尿病の人は卵を毎日食べても大丈夫?
 2型糖尿病の人は、卵を1日1個を毎日食べても、血糖値やコレステロール値に影響せず、2型糖尿病のリスクも上昇しないという研究を東フィンランド大学が発表した。

 研究チームは、42~60歳の男女2,332人を19年間追跡して調査した。その結果、卵を1日1個毎日食べても2型糖尿病の発症は上昇しなかった。239人の血液を詳しく調べたところ、卵を食べていた人では血液中に有益な生理活性物質が増えていた。

 卵の黄身の色素成分であるカロテノイドやコリンなどの脂質には、インスリン抵抗性を抑制したり、抗酸化作用があり炎症を抑制するなど有益な作用があるという。

 日本人を対象としたコホート研究である「JPHC研究」でも、卵を1日に1個以上食べても、糖尿病発症リスクは上昇しないことが示されている。

 JPHC研究では、卵の摂取頻度と心筋梗塞の発症リスクの間に関連がみられないことも示された。「心筋梗塞を予防するために卵の摂取を制限した方が良い」といった話には根拠がないことが示唆された。

 ただし、バターやチーズ、赤身の肉、ベーコンやハムなど、動物性の脂に多く含まれる飽和脂肪酸は、体内で悪玉のLDLコレステロールを増やす作用がある。心臓疾患を予防するために勧められるのは、イワシ、サバ、サンマといった青魚に含まれる不飽和脂肪酸や、精製されていない全粒粉などの炭水化物だという。
コレステロール値に気をつけることが大切
 このようにコレステロールが多く含まれる卵だが、現在は、卵は一般的には1日1個なら毎日食べても大丈夫だとアドバイスする専門家が増えている。

 ただし、卵などを食べると体内のコレステロールが増えやすい体質の人もいるので注意が必要だ。また、コレステロールの摂取量を気にしなくて良いという話は、脂質異常症のある人にはあてはまらない。

 コレステロール値を下げるために必要なのは、良い生活習慣をもちつづけること。さらに「コレステロール値が高い」と指摘された人は、検査を定期的に受けて、コレステロール値の変動に気をつけることが大切だ。

Daily egg consumption may reduce cardiovascular disease(ブリティッシュ メディカル ジャーナル 2018年5月21日)
Associations of egg consumption with cardiovascular disease in a cohort study of 0.5 million Chinese adults(Heart 2018年10月11日)
Egg metabolites in blood related to lower risk of type 2 diabetes(東フィンランド大学 2019年3月1日)
Metabolic Profiling of High Egg Consumption and the Associated Lower Risk of Type 2 Diabetes in Middle‐Aged Finnish Men(Molecular Nutrition & Food Research 2018年12月12日)
2015年版「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)
JPHC研究「コレステロールおよび卵の摂取と糖尿病との関連について」