2018年10月24日
目覚め方改革プロジェクト 設立記念メディアセミナー
「
目覚め方改革プロジェクト」は、8月に東京で設立記念メディアセミナーを開催した。目覚めと体内リズムの重要性について、3人の専門家が解説した。
同プロジェクトは「スッキリ目覚めるためにはどうしたらよいか」という新しい視点から、体内リズムを整え睡眠を改善するための情報を発信している。
意識されにくい「目覚め方」を見直し、体内リズムを改善
久留米大学医学部神経精神医学講座の内村直尚教授を中心に立ち上げられた「目覚め方改革プロジェクト」は、意識されにくい「目覚め方」を見直し、体内リズムを改善することの重要さを啓発する活動をしている。
生活リズムの乱れによる睡眠不足から心身に不調を感じる人が増えている。対策として、「働き方改革」や「睡眠負債の解消」が求められているが、十分な成果を得られていない。
同プロジェクトは「スッキリ目覚めるためにはどうしたらよいか」という新しい視点から、睡眠の役割や体内リズムを整えることの重要性に対する認知を高める情報を発信している。
プロジェクトの発足を記念し、8月29日に東京・八重洲で、「目覚めと体内リズムの重要性~起きている時間を有意義に過ごすために~」と題したメディアセミナーを開催した。
体内リズムの乱れによる睡眠問題が増加している現代日本
はじめにプロジェクトリーダーの内村直尚教授が、同プロジェクト発足の背景にある現代社会の睡眠問題について説明。体内リズムの乱れによる睡眠問題が増加している現代日本日本人の睡眠時間は諸外国の中でもっとも短く、成人の5人に1人は睡眠に何らかの問題を抱えている。睡眠不足や不眠は昼間の眠気や倦怠感につながるだけでなく、仕事の能率の低下や産業事故を招く要因となったり、生活習慣病やうつ病・認知症などの疾患の誘因にもなる。
睡眠問題を引き起こす原因として注目を集めているのが「体内リズムの乱れ」だ。夜でも明るい24時間社会の現代日本では、体内リズムの乱れによる睡眠障害が増えてきている。就労時間が長時間に及ぶことも少なからず睡眠時間の短縮をまねく。また、日本では労働者の20%程度が交替制勤務であり、こうした働き方が体内リズムの乱れにつながっている。さらに、LEDやスマートフォンなどによる夜の明るい光環境やストレスなどがあると、ますます睡眠障害が助長されてしまう。
体内リズムを整え、睡眠と目覚めの習慣をルーティーン化することが日々のパフォーマンスの向上につながる。内村教授らが開発した「3次元型睡眠尺度(3DSS)チェックシート」を使うと、簡単に自身の睡眠の量や質、さらに位相(リズム)を評価できる。スッキリした目覚めは睡眠のリズムと深く関わっており、起きている時間に高いパフォーマンスを発揮するためには、朝の目覚め方と体内リズムが重要となる。
睡眠の基本、睡眠の乱れによる健康問題と生活への影響
続いてプロジェクトメンバーの東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科の岡島義准教授が、睡眠の役割や睡眠不足が健康・生活に及ぼす影響について解説。睡眠の役割を受動的なものと捉え、「活動して疲れたから眠る」と考える人が多く、「短時間睡眠でパフォーマンスを上げる方法を知りたい」といった問いをもらうことが多い。しかし、睡眠科学の分野では「眠るからこそパフォーマンスが上がる」という研究結果が示されており、睡眠の役割は能動的なものであるという認識がある。
眠りにつくと、まずNon-REM(ノンレム)睡眠という深い睡眠に入っていく。ノンレム期には成長ホルモンなどが分泌され、体のメンテナンスや記憶の固定に重要な役割を担っているとされている。入眠から時間が経過すると徐々にREM(レム)睡眠という段階に入っていく。レム期では夢見体験が多く、記憶の固定や感情の整理などの役割があると考えられている。
睡眠不足は心身の健康や日中のパフォーマンスに大きな弊害をもたらし、風邪を引きやすくなったり、高血圧や肥満の割合が増加したり、2型糖尿病の発症リスクが上がったりする。また、睡眠不足は抑うつ感を高める一方、レム睡眠の出現があると幸福感が高まり不安感が減少するという研究結果がある。慢性的な睡眠負債に陥いり眠気を自覚しにくくなり、会社や学校でパフォーマンスが非常に低下した状態(プレゼンティズム)にある人が多くいる。
睡眠不足による日本の経済損失は、年間で約15兆円と試算されている。たばこの害による経済損失が約2兆円超と推計されているので、睡眠不足の影響力がいかに大きいかが分かる。睡眠不足は問題が顕在化しにくいが、能動的に睡眠をとることが経済損失の抑制につながると考えられる。充実した1日を過ごすためには、睡眠の役割を正しく認識することが重要だ。
体内リズムの重要性-睡眠負債とソーシャル・ジェットラグ
プロジェクトメンバーの明治薬科大学リベラルアーツの駒田陽子准教授は、睡眠における体内リズムの重要性やより良い眠りのための快眠メソッドについて講演。少しの睡眠不足が日々蓄積し、心身にさまざまな悪影響をもたらすことを表す「睡眠負債」という言葉が注目されている。睡眠負債は休日に寝だめすることで返済できると思われがちですが、実はそうではない。なぜなら、睡眠をはじめとするさまざまな生理現象を調整している体内時計が体に備わっているからだ。
体内時計は24時間より少し長い周期をもち、光によって調節される仕組みを備えている。朝に強い光の刺激を目から取り入れるとリセットされ、逆に夜に光の刺激を受けると体内時計が夜型化し、体内リズムが遅れてしまう。特にスマートフォンのブルーライトは、体内時計に強く作用するので注意が必要だ。
現代人の体内リズムを乱す要因として、近年研究が増えてきているのが「社会的時差ボケ(ソーシャル・ジェットラグ)」だ。ソーシャル・ジェットラグが大きいほど肥満や生活習慣病のリスクが高く、抑うつ症状が強いことが研究によって明らかになっている。また、その影響は翌週の前半まで及び、パフォーマンスを低下させることが分かっている。昼間のパフォーマンスを高く保ち生き生きと過ごすには、体のリズムを整えることが大切。
そのためには、休日でも就寝・起床の時間を一定にし、普段から十分な睡眠時間を確保することが大切。バランスの良い食事や適度な運動、ストレスを溜めない生活も、より良い眠りやスッキリした目覚めにとって必要だ。量や質だけでなく、リズムも意識して睡眠を見直すことが重要だ。
アスパラプロリンの摂取で睡眠リズムの改善や日中のパフォーマンス向上が期待できる
最後に、同プロジェクトの協力企業である大塚製薬の只野健太郎氏が、睡眠のリズムを改善することで健康に寄与する可能性のある食品成分を紹介した。
同社は食事と運動に加えて睡眠も心身の健康を支える柱のひとつと考え、睡眠の問題にアプローチしている。睡眠の問題を引き起こす要因はさまざまだが、睡眠問題の根底にある体内リズムの乱れから改善をはかる新しいアプローチで睡眠問題を解決しようと考え、研究開発を行っている。その中で、アスパラガスを加熱・酵素処理することで「アスパラプロリン」が生じることが明らかになり、この成分に着目した。
土日が休日の日勤者で、ソーシャル・ジェットラグがあると判定された健康な男女を対象に、アスパラプロリンを含む食品を1日1回摂取してもらったところ、アスパラプロリンを含まない食品を摂取した場合と比べて休日の朝寝坊が改善されるという結果が得られた。また、アスパラプロリンを摂取した場合は目覚め感や睡眠の質、休日明けの心の健康に改善が認められた。
また、アスパラプロリンを摂取することによる日中の作業効率への影響を調べたところ、アスパラプロリンを含む食品を摂取した場合で、覚醒度の指標となるPVT反応時間が短縮することが分かった。このことから、アスパラプロリンには日中の仕事のパフォーマンスを向上させる作用も期待できるのではないかと考えられるという。
目覚め方改革プロジェクト