「サルコペニア」を容易に評価 CKD患者の心疾患リスクを予測

 熊本大学は、筋肉量の減少(サルコペニア)を診断する簡単な検査を応用することで、慢性腎臓病(CKD)患者の心臓血管病発症リスクを予測できることを明らかにしたと発表した。
筋肉量の減少を予測する「サルコペニアスコア」
 人間は年齢とともに筋肉量が減少して、筋力が弱っていくが、この減少の程度には個人差がある。「サルコペニア」は、この筋肉量と筋力の減少が特に大きい状態だ。がんや心臓病、腎臓病などの患者にサルコペニアが合併すると病気の経過が悪くなることが知られており注目されている。

 骨格筋には、運動器官としての役割以外に、心臓などの臓器へ良い働きをもたらす物質を分泌する内分泌器官としての役割があり、筋肉の減少が障害につながると考えられている。

 サルコペニアは、高齢の患者では特に注意すべき病態だが、これまでサルコペニアの精密な診断にはCTスキャンやMRI検査などによる筋肉量の測定が必要だった。これらの機器は全ての医療機関に設置されているわけではなく、検査の煩雑さやコストの面から現実的ではないため、サルコペニアを日常で評価していくのは難しかった。

 そこで近年、新たなサルコペニアスクリーニング法が東京大学の石井伸弥氏らによって開発された。これは年齢と握力、ふくらはぎの周囲径から「サルコペニアスコア」という数値を算出する方法で、このスコアが高ければ高いほどサルコペニアの可能性が高くなる。この方法であれば、特別な機械は必要なく、時間もかからない。

腎臓病患者における心臓血管病の発症リスクを評価
 研究グループは以前の研究で、心臓病の患者にもこのスクリーニング法を応用することで、心不全の重症度や将来の心不全悪化の危険性を簡単に評価できることを明らかにしている。

 腎臓病患者の多くは、心不全を含む心臓血管病を合併し、特に慢性の維持透析患者では心不全が死亡原因の第1位となっており、腎臓病患者における心臓血管病の発症リスクを評価することも非常に重要だ。

 そこで研究グループは、心不全患者と同様にこのサルコペニアスクリーニング法を慢性腎臓病(CKD)患者にも応用することを考えた。同附属病院循環器内科に心臓血管病の評価や治療で入院したCKD患者265人を対象に研究を行った。

 退院前に測定した握力やふくらはぎの周囲径のデータをもとにサルコペニアスコアを算出し、個々の患者のサルコペニアスコアと、血液検査・心臓超音波検査などの検査結果やその後の病気の経過などとの関連性を、約650日間にわたって調査した。
サルコペニアスコアが高いと心臓と腎臓の機能が低下
 その結果、サルコペニアスコアが高ければ高いほど、心臓の疲労を示すBNPの値が高く、また、腎臓のダメージを示すクレアチニンの数値も高い事がわかった。

 BNPとは、心臓を守るため心臓から分泌されるホルモン。心臓の機能が低下して心臓への負担が大きいほど多く分泌され数値が高くなる。BNPを検査すると、心臓への負担の程度を大まかに知ることができる。

 また、クレアチニンは血液中の老廃物のひとつであり、通常であれば腎臓でろ過され、ほとんどが尿中に排出される。しかし、腎機能が低下していると、尿中に排出されずに血液中に蓄積される。

 さらに、それぞれの患者の経過を観察した結果、サルコペニアスコアが高い患者では、その後の死亡率や心筋梗塞、心不全、脳卒中などの心臓血管病の発症率が高いことが判明した。

 また、BNPにサルコペニアスコアを組み合わせることで、さらに予測能力が向上することも明らかになり、サルコペニアスクリーニング法の有効性が明らかになった。
サルコペニアスクリーニングは簡単
 このサルコペニアスクリーニング法は非常に容易な測定方法のため、どのような医療機関でも日常診療の中で有効活用される事が期待できる、と研究グループは述べている。

 サルコペニアスクリーニング法は慢性腎臓病(CKD)患者のリスク層別化においても有用な評価法と考えられるという。

 この研究は、熊本大学医学部附属病院循環器内科の辻田賢一教授、花谷信介特任助教(天草地域医療センター循環器内科副部長)、泉家康宏講師(大阪市立大学大学院医学研究科循環器内科学准教授)らの研究グループによるもの。研究成果は「International Journal of Cardiology」に発表された。

熊本大学医学部附属病院
Non-invasive Testing for Sarcopenia Predicts Future Cardiovascular Events in Patients with Chronic Kidney Disease(International Journal of Cardiology 2018年4月9日)