脳卒中は暑い夏に増える 対策すれば脳卒中の90%を予防できる

 7~8月の夏に脳卒中を発症する人が増える。10項目の対策をすると、脳卒中の90%を予防できることが最新の研究で明らかになった。
脳卒中は夏に多い 脱水による水分不足が原因
 日本脳卒中協会は5月の「脳卒中週間」に合わせて、「脳卒中セミナー」を各地で開催している。脳卒中は、脳の血管がつまったり、破れたりして、その先の細胞に栄養が届かなくなって、細胞が死んでしまう疾患だ。

 脳卒中は「脳血管障害」とも呼ばれ、血管が詰まるタイプ「脳梗塞」と血管が破れるタイプ「脳出血」「クモ膜下出血」に分けられる。このうち「脳梗塞」は、日本人で発症率が高い。

 「脳卒中は冬に多い」と思われがちだが、脳梗塞に限ると、むしろ7~8月の夏に発生数が多くなっており注意が必要だ。

 夏に脳梗塞が起こりやすい理由として挙げられるのが、脱水による体内の水分不足だ。夏には汗を多くかくため、それに見合った量の水分を補給していないと、体が脱水症状に陥り、血液が「ドロドロ状態」となる。その結果、血管が詰まりやすくなる。

 また、寒さで血圧が上がりやすい冬とは逆に、夏は体の熱を放出しようと血管が拡張しやすくなる。この場合、生理機能が低下している人や、降圧剤などを服用している人は、血管拡張のために血流が遅くなり、血栓ができやすい状態になる。

夏の脳梗塞を防ぐために こまめな水分補給が必要
 水分を摂取しても、体全体に浸透するまで約20分の時間がかかる。水を飲んでも、すぐに血液の流れがよくなるわけではない。また、気付かないうちに、皮膚などからも水分は蒸発する。

 とくに暑い夏は、就寝中に脱水が起こりやすい。眠っている間に平均するとコップ1杯(200mL)程度の汗をかいている。気温の高い夜には、それ以上の汗をかくことも多い。また眠っているときは、一般に血圧が低下するため、血栓ができやすい状態になっているという。

 脱水症状にならないよう、汗をかいていなくても、こまめな水分補給が重要だ。就寝前には大量の飲酒をさけ、コップ1杯の水を飲もう。
糖尿病の人は脳梗塞のリスクが2~4倍に上昇
 日本では脳血管疾患(脳出血や脳梗塞など)の発症率が高く、患者数は117万9,000人。脳梗塞は突然起こり、命を奪うこともある恐ろしい病気で、命は助かっても麻痺などのために不自由な生活を強いられることもある。発症するとしばしば長期の入院が必要となり、入院期間の平均は89.5日となっている。

 脳卒中の実態解明を目指して、福岡県久山町の全住民を対象に1961年に始まった久山町研究。久山町の40歳以上の住民のほとんどすべてが毎年健康診断を受けている。

 久山町研究では、糖尿病患者は、糖尿病でない人の2~4倍、脳梗塞を発症しやすいことが分かった。脳梗塞は動脈硬化のために血液が流れなくなって起こる病気であり、糖尿病はその動脈硬化の進行を早めてしまうからだ。

 脳卒中の発作を起こすと、多くの場合で片麻痺などの後遺症が残る。介護が必要となった原因疾患の第1位であり、寝たきりを含む重い介護の原因にもなる。また、長期入院が必要であり、高齢化が進む日本の医療費高騰の原因としても、大きな問題を抱える疾患だ。
脳梗塞が起きたらすぐに治療を行うことが重要
 脳卒中を減少させるためには予防が第一で、糖尿病や高血圧、脂質異常症など生活習慣病の管理も重要となる。

 万が一、脳卒中を発症した場合でも、急性期治療は進歩しており、少しでも早く治療を受ければ救命や後遺症の低減を得られる。

 米国脳卒中協会では、より簡潔に、3つの症状を取り上げた「FAST(ファスト)」という標語を試すことを勧めている。このうちひとつでも該当すれば脳卒中を疑い、すぐに救急車を呼ぶよう呼びかけている。
 脳梗塞の発作が起きたら、できるだけ早く治療を行うことがその後の経過に大きく影響する。脳梗塞の典型的な症状を知っておき、一刻も早く対処できるようにしておくことが大切だ。
脳卒中を予防するための10ヵ条
 脳卒中は、高血圧や糖尿病、食生活の乱れ、運動不足などが続くと血管が少しずつ傷み、動脈硬化が進行すると発症しやすくなる。このことから、脳卒中の予防にはこれらの脳卒中を起こしやすくする状態(危険因子)を早めに改善しておくことが大切だ。

 脳卒中は危険因子を除去することで予防できる。日本脳卒中協会は左記の「脳卒中予防10ヵ条」の普及に努めている。
脳卒中90%は予防できる
生活スタイルの改善が必要
 カナダのマクマスター大学公衆衛生研究所のマーティン オドンネル氏は、脳卒中の危険因子について研究している。「脳卒中の90%は10項目の危険因子が原因となっている。これらを適切に管理すれば予防できる可能性が高い」という調査結果を発表した。

 世界32ヵ国の脳卒中患者を含む約2万7,000人を対象に調査を実施。結果は医学誌「ランセット」オンライン版に発表された。

 その10項目の危険因子とは、▽高血圧(脳卒中リスクを約48%軽減)、▽運動不足(同36%)、▽脂質(脂質異常症)(同27%)、▽不健康な食事(同23%)、▽肥満(同19%)、▽喫煙(同12%)、▽心疾患(同9%)、▽糖尿病(同4%)、▽飲酒(同6%)、▽ストレス(同6%)。

 オドンネル氏らは、調査データをもとに、脳卒中を引き起こす原因として知られる危険因子ごとに、脳卒中患者数をどの程度増やしたかを示す「人口寄与危険度割合」を算出した。

 これら10個の危険因子を改善した場合、全ての地域、年齢、男女でのリスク低下は90.7%に上ることが明らかになった。これらの危険因子は全て、コントロールが可能だ。

 調査の対象は、北南米や欧州、中東、アフリカ、アジア地域の国々とオーストラリアの2万6,919人。このうち1万3,447人が脳卒中患者だった。アジア地域では中国、インド、パキスタン、フィリピン、タイ、マレーシアが対象となっている。

 地域によって危険因子をもっている人の割合や、個々の危険因子と脳卒中発症との関係の強さに違いがあり、たとえば、高血圧は北米、オーストラリア、西欧では約39%の脳卒中を引き起こすが、東南アジアでの寄与率は約60%だった。

脳卒中の予防と患者・家族の支援を目指して(日本脳卒中協会)
脳卒中治療ガイドラインン(日本脳卒中学会)
Global study shows stroke largely preventable(マクマスター大学 2016年7月15日)