自分の足や自転車を使う「アクティブ移動」のすすめ 地球温暖化に対策しながら健康改善

 徒歩や自転車で通勤している人は運動量が多く、糖尿病・心臓病・がんなどのリスクを高める炎症が少なく、心臓病や脳卒中、早死のリスクも低いことが、大規模な調査で明らかになっている。

 週に1日だけでも、車を使わず歩いたり自転車に乗るようにするだけで、二酸化炭素の排出量を削減でき、地球温暖化に対策できるという研究も発表されている。

 「自分の足を使って通勤や移動をすることは、温室効果ガスである二酸化炭素の排出を減らすことにもつながり、地球環境にとっても良い」と、研究者は指摘している。

徒歩や自転車で通勤している人は肥満や糖尿病のリスクが少ない

 徒歩や自転車で通勤している人は、糖尿病・心臓病・がんなどのリスクを高める炎症が少ないことが、フィンランドの研究で明らかになった。

 歩いたり自転車を使う「アクティブ移動」により、C反応性タンパク質(CRP)と呼ばれる炎症マーカーの値が低下することが示された。

 炎症は全身に影響を与え、肥満や2型糖尿病、脂質異常症などの代謝異常のリスクを高める。

 徒歩や自転車による通勤や移動を、1日に45分以上行うと、効果を高められることも分かった。余暇時間に運動をする習慣や、大気汚染への曝露の影響を取り除いても、この関連は維持された。

 研究は、東フィンランド大学、フィンランド保健福祉研究所、フィンランド産業衛生研究所によるもの。

 「徒歩や自転車による移動を促進することで、ポピュレーションレベルで健康増進をはかることができる可能性があります」と、同大学公衆衛生臨床研究所のサラ アラウアト氏は述べている。

 「自家用車などを使わずに通勤することは、温室効果ガスである二酸化炭素の排出を減らすことにもつながり、地球環境にとっても良いと考えられます」としている。

徒歩や自転車で通勤している人は健康 30万人を25年間調査

 徒歩や自転車で通勤している人は、自動車で通勤する人に比べて、運動量が多く、心臓病や脳卒中、早死のリスクが低いという調査結果を、英国のケンブリッジ大学なども発表している。

 研究は、イングランドとウェールズの30万人以上の通勤者を最大25年間追跡して調査したもの。全体で66%の人が乗用車を使い、19%が公共の交通機関を利用し、12%が徒歩で、3%が自転車で通勤していた。

 解析した結果、自転車通勤は乗用車による通勤に比べ、早死リスクが20%低く、心筋梗塞と脳卒中を含む心血管系疾患による死亡リスクが24%低く、がんによる死亡リスクは16%、がんと診断されるリスクは11%低いことが明らかになった。

 電車やバスなどの公共交通を使った通勤も、自動車通勤に比べ、早死リスクが10%、心血管系疾患による死亡リスクが20%、がんと診断されるリスクが12%それぞれ低かった。歩行通勤も同様に、がんと診断されるリスクが7%低かった。

 「ウォーキングやサイクリングを増やすことで、心疾患や脳卒中、がんによる死亡を減少できる可能性があります」と、ケンブリッジ大学のMRC疫学部のリチャード パターソン氏は言う。

 「なるべく乗用車を使わないようにして、通勤手段に体を動かすウォーキングやサイクリングなどの手段を取り入れることが、健康と環境の両方の面で勧められます。誰もがより健康的な移動手段を長期的に維持できるよう、政府はサポートするべきです」としている。

徒歩や自転車で通勤すると二酸化炭素の排出量を削減できる
肥満対策や健康増進につながり地球温暖化にも対策できる

 週に1日だけでも、車を使わず歩いたり自転車に乗るようにするだけで、二酸化炭素の排出量を削減でき、地球温暖化に対策できるという研究を、英国のインペリアル カレッジ ロンドンが発表している。

 研究は、欧州連合(EU)が支援しているプロジェクト「PASTA:持続可能な交通手段による身体活動」の一環として行われたもの。

 研究グループは、欧州の7つの都市(ベルギーのアントワープ、スペインのバルセロナ、イギリスのロンドン、スウェーデンのオレブロ、イタリアのローマ、オーストリアのウィーン、スイスのチューリッヒ)に在住している約2,000人を追跡し、毎日の移動行動や移動手段などに関するデータを収集した。

 その結果、自転車、電動自転車、ウォーキングなどの「アクティブな交通手段」により、交通機関により排出される二酸化炭素の量を4分の1ほど削減でき、気候変動の改善に役立つ可能性が示された。1日1回の移動を、自動車から自転車に切り替えるだけで、1年間で二酸化炭素の排出量を約0.5トン削減できるという。

 「通勤などの移動の一部を、徒歩や自転車に置き換えるだけで、二酸化炭素の排出量を削減できます」と、同大学環境政策センターのオードリー デ ナゼル氏は述べている。

 「体を使うアクティブな交通手段は、身体と精神の両方の面で、健康に良い影響をもたらすだけでなく、地球温暖化に対策できます。これまでも、自転車の利用を促進することが肥満対策に役立つことが示されています」。

 「こうした試みは、さまざまな分野の協力が必要ですが、健康・環境・社会のさまざまな観点から、望ましい未来を創造するのに役立つはずです」としている。

Daily active commuting may lower inflammation levels (東フィンランド大学 2024年1月16日)
Association between active commuting and low-grade inflammation: a population-based cross-sectional study (European Journal of Public Health 2023年12月8日)
Walking or cycling to work associated with reduced risk of early death and illness(ケンブリッジ大学 2020年5月20日)
Associations between commute mode and cardiovascular disease, cancer, and all-cause mortality, and cancer incidence, using linked Census data over 25 years in England and Wales: a cohort study(Lancet 2020年5月1日)
Ditching the car for walking or biking just one day a week cuts carbon footprint (インペリアル カレッジ ロンドン 2021年2月4日)
The climate change mitigation impacts of active travel: Evidence from a longitudinal panel study in seven European cities (Global Environmental Change 2021年3月)