出勤しても効率が上がらない? 職場での抑うつ・肩凝り・寝不足が影響 生産性低下の原因に
2024年07月29日
勤労者の日々のプレゼンティーズム(出社しているものの、何らかの健康問題によって業務効率が落ちている状況)の悪化に、「日中の抑うつ気分」「肩凝りの悪化」「前日の睡眠時間不足」が関連することが、大阪大学と東京大学の研究により明らかになった。
日々のプレゼンティーズムや労働生産性の改善に向けた、効果的な介入・指導の実現につながる成果としている。
労働者の職場でのプレゼンティーズムに対策
勤労者の日々のプレゼンティーズム(出社しているものの、何らかの健康問題によって業務効率が落ちている状況)の悪化に、日中の抑うつ気分と肩凝りの悪化、前日の睡眠時間不足が関連することが、大阪大学と東京大学の研究により明らかになった。 プレゼンティーズムは、心身に不調をきたしている状態。業務パフォーマンスが十分に発揮できず、企業や個人の労働生産性の低下につながり、またアブセンティーズム(仕事を休業・欠勤している状態)よりも大きな経済的損失を生みだしていると言われている。 プレゼンティーズムには、心理的・生理的・社会的などの、多種多様な要因が複雑にかさみあっており、さらにはプレゼンティーズムを客観的に評価するのが難しく、その効果的な改善方法は十分に確立していない。 そこで研究グループは今回、実時間で心身の状態を記録できるEMA(Ecological Momentary Assessment)という手法を用いて、日々のプレゼンティーズムと日中の主観的自覚症状、毎日の睡眠状態の計測を行った。 その結果、これまでの質問紙法では把握できなかったプレゼンティーズムの日々の変化、とくに一時的なプレゼンティーズムの悪化を把握することに成功した。また、日中の抑うつ気分や肩凝り、前日の睡眠時間がその変化に関連する主な要因であることを明らかにした。
「抑うつ」「肩凝り」「寝不足」が労働者の職場でのプレゼンティーズム悪化と関連
出典:大阪大学、2024年
「勤労者の職場でのプレゼンティーズムへの対策は、近年、重要視されています。労働者の抑うつ気分や肩凝りを低減したり、十分な睡眠時間を確保してもらう介入や指導を行うことが、日々のプレゼンティーズムの改善につながる可能性があります」と、研究者は述べている。
研究は、大阪大学データビリティフロンティア機構の中村亨特任教授と東京大学教育学研究科の山本義春教授、諏訪かおり氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Occupation and Environmental Medicine」にオンライン掲載された。
労働者の日々のプレゼンティーズムの変化や関連する心身の状態を評価
研究グループは今回、プレゼンティーズムの日々の変動や、それに関連する心理的・生理的・社会的要因の同定することに着目。 これまでは過去数週間または過去数ヵ月単位での思い出しによる質問紙法による評価が一般的だったが、想い出しによる想起バイアスに起因する客観性の低下や、評価期間の時間解像度の低さといった難点があり、さらにはプレゼンティーズムの変化やそれらと関連する心身の状態を評価するのは困難だった。 そこで、健康な勤労者56人を対象に2週間、独自に開発したスマートフォンアプリと身体活動量計を利用したEMA(Ecological Momentary Assessment)を用いて調査した。 EMAは、日常生活での状態をその瞬間に評価・記録する手法で、日々変動する心身の状態を詳細・正確に評価できる。 被験者に、個人のスマートフォンにインストールした専用アプリを用いて、その時々の自覚症状(抑うつ気分や不安、ストレス、疲労感、眠気、肩こりなど)を1日5回、回答してもらった。 また、仕事終わりには、その日のプレゼンティーズムを問う質問「今日の仕事のパフォーマンスはどうでしたか?」にも回答してもらいました。調査終了時には、国際的に広く使用されている既存の質問紙(WHO-HPQ)を用いて、調査期間全体のプレゼンティーズムを評価した。
労働者の日々のプレゼンティーズムの変化やそれらと関連する心身の状態を評価する手法を開発
適切なタイミングで適切な介入を行えるようになると期待
出典:大阪大学、2024年
WHO-HPQとEMAで評価した日々のプレゼンティーズムの相関関係と級内相関係数を検討したところ、両者間に有意な相関関係が認められるものの一致性は低かった。一方、EMAによる評価では一時的なプレゼンティーズムの悪化などの変化が把握できることを確認した。
さらに、EMAで評価した日々のプレゼンティーズムの変化と日中の心身の状態との関係について検討したところ、日中の抑うつ気分や肩凝り、前日の睡眠時間がその変化に関連する主な要因であることが明らかになった。
近年、日常生活下での心身の状態把握にもとづき、個人にとって適切なタイミングで、適切な介入を行うことが、健康情報科学の分野では注目を浴びおり、「JITAI(ジャストインタイムな介入、Just-in-Time Adaptive Intervention)」と呼ばれている。身体活動量の向上や睡眠状態の改善に向けた行動変容などによる介入効果が報告されている。
「JITAIなどの技術を活用することで、日々のプレゼンティーズムの改善、あるいは労働生産性の向上につながる行動変容の実現が可能になると期待されます」と、研究者は述べている。
大阪大学データビリティフロンティア機構Daily Associations Between Presenteeism and Health-Related Factors Among Office Workers: An Ecological Momentary Assessment Approach (Journal of Occupation and Environmental Medicine 2024年6月7日)
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