暑い夏の水分補給 食事改善にも役立つ「上手な水の飲み方」 水を十分に飲むと腸内環境も健康に

 汗をかく量が増える夏場は、水を飲むことで、失った水分を補うことが大切だ。夏の「上手な水の飲み方」をご紹介する。

 水を十分に飲むことは、食事を改善するのにも役立つことも、大規模な調査で明らかになっている。

 水を飲むことは、腸内細菌叢を健康にし、免疫を高めるのにも必要であることが、新たな研究で示された。

いま水分補給が必要かどうすれば分かる? 脱水予防のコツは?

 「夏場は汗をかく量が増えるので、水を飲むことで、失った水分を補うことが大切です」と、米カリフォルニア大学健康スポーツパフォーマンスチームの栄養士であるサラ アドラー氏は言う。

 朝起きたときや、通勤で歩いたあと、運動をするとき、入浴後、就寝前などにこまめに水を飲めば、水分不足におちいることなく、疲労回復や健康維持に役立てることができるとしている。

 とくに年齢を重ねた人は、「口渇中枢」(喉の渇きを感じる中枢)の機能が低下している場合がある。汗をかいて水分を必要としているときでも、喉の渇きを感じにくく、水分摂取が遅れがちになりやすいので注意が必要だ。

 「排尿時に尿を見るようにすると、水分補給が必要かを判断できます。尿の色が、明るく淡い黄色であれば問題はありませんが、リンゴジュースのような濃い色であると、水分が足りていないおそれがあります。水分補給をする必要があります」と、アドラー氏は指摘している。

 また「水分を補給するために、ビールなどのアルコールを飲むのは、良い選択ではありません。アルコールは脱水を引き起こすため、飲むときはコップ1杯の水も飲むことが大切です」としている。

汗で失われた塩分を補給することも大切

 水分補給として一度に大量の水を飲むと、かえって体内の電解質のバランスが崩れて体調不良が起こることもあるという。飲む量は、かいた汗の量を目安にし、汗で失われた塩分(ナトリウム)を補給することも大切だ。

 過剰な水分摂取にともない、体内の塩分のバランスが崩れると、吐き気・頭痛・倦怠感などがあらわれることがある。重症になると意識障害やけいれんなどが起こることもあるという。

 水分とナトリウムを補給するために、低糖質のスポーツ飲料や塩分を含んだタブレットなどを利用するのが手軽だが、自分で調製することもできる。1リットルの水に、ティースプーン半分の食塩(1~2g)を溶かして作ることができる。

 「多くの人は、食品から十分な電解質を摂取できています。葉物野菜やイモ類、豆類、果物、大豆製品、乳製品などは、必須ミネラルの優れた供給源になります」と、アドラー氏は述べている。

水を十分に飲むと食事も改善できる

 水を十分に飲むことは、食事スタイルを改善するのにも役立つことが、大規模な調査で明らかになっている。

 米イリノイ大学が、1万8,300人以上の成人対象に食事調査をした結果、普通の水の摂取量を1%増やしただけで、1日の総カロリー摂取量が減り、飽和脂肪酸、コレステロール、糖質、ナトリウムなどの減らしたい栄養の摂取量も減少することが分かった。

 「水の摂取量を毎日1~3カップ増やした人は、1日の総カロリー摂取量が68~205kcal、ナトリウムの摂取量が78~235mg減少したことが示されました。また、1日の糖質の摂取量は5~18g減少し、コレステロールは7~21mg減少しました」と、同大学運動・地域保健学部のルペン アン教授は述べている

 「糖質などを含む高カロリーの清涼飲料を飲む代わりに、普通の水を飲むようにするだけで、食事を改善できる可能性があります。その効果は、とくに男性や、若年や中年の成人でより大きいことも分かりました。そうしたグループは、1日の食事のカロリー摂取量が多い傾向があります」としている。

 研究グループは、米国国民健康・栄養調査の2005~2012年の4回のデータを解析した。参加者は、平均して1日に4.2カップの水を飲んでおり、これは食事による総水分摂取量の30%を占めていた。

水を飲むことは腸内環境を健康にして
免疫を高めるのにも必要

 水を十分に飲むことは、腸内細菌叢を健康にし、免疫を高めるのにも必要であることが、北里大学や慶應義塾大学の研究で示された。

 水は、体の50%以上を占めており、消化吸収、栄養素・老廃物の運搬、体温調節など、さまざまな役割をになっており、生命を維持するために重要なものだ。

 これまで水分摂取の不足は、糖尿病などの代謝性疾患の発症や早期死亡などにも関連していることが報告されていた。今回の研究では、十分な水分補給が、腸内環境や免疫にも影響することが分かった。

 研究グループが、マウスに飲水制限する実験を行ったところ、腸内環境の恒常性が破綻し、病原細菌の排除能が低下した。

 飲水制限により、腸内通過時間が遅滞し、排便量の低下をともなう便秘になり、腸内細菌叢の構成も変化し、腸内細菌の総数が増加することなどが分かった。

 水分不足は、肥満やインスリン抵抗性、2型糖尿病などの代謝性疾患、便秘症などの腸管の機能低下と関連していることが報告されている。

 今回の研究では、慢性的な飲水不足は便秘症を誘発し、腸内細菌叢の構成や数を変化させ、さらには免疫細胞を減少させること、病原細菌の排除能を低下させることが示された。

 「水分の摂取源の70〜80%は、飲水によるものとされています。米国では成人の半数以上が水分摂取の基準を満たしておらず、日本でも多くの人が水分の摂取不足とみられます」と、研究者は述べている。

 「日常的な水分摂取量と消化器系疾患との関連について明らかにすることが、水分摂取の潜在的な重要性を腸内環境の恒常性維持という観点から理解するうえで大切です」としている。

 研究は、北里大学薬学部微生物学教室の金倫基教授(研究当時:慶應義塾大学薬学部創薬研究センター教授)、慶應義塾大学先端生命科学研究所/同大学大学院政策・メディア研究科の佐藤謙介氏、同大学薬学部生化学講座の井上浄訪問教授、同大学医学部薬理学教室の安井正人教授、竹馬真理子准教授らによるもの。

飲水制限は腸管病原細菌の排除能を低下させる

出典:北里大学、2024年

How to stay hydrated in the summer heat (カリフォルニア大学 2022年6月6日)
Drinking more water associated with numerous dietary benefits, study finds (イリノイ大学 2016年2月29日)
Plain water consumption in relation to energy intake and diet quality among US adults, 2005-2012 (Journal of Human Nutrition and Dietetics 2016年2月22日)

北里大学薬学部微生物学教室
慶應義塾大学先端生命科学研究所
Sufficient water intake maintains the gut microbiota and immune homeostasis and promotes pathogen elimination (iScience 2024年6月21日)