「腸内細菌」が肥満や認知症のリスクを低下 食物繊維から短鎖脂肪酸が 腸内の善玉菌を増やす方法

 「腸内細菌」が、肥満やうつ病、認知症などにも影響していることが分かってきた。

 腸内環境と脳機能は相互に作用しあっており、この関係は「脳腸相関」と呼ばれ、心身の健康維持で重要な役割をになっていると注目を集めている。

 野菜などから食物繊維を多く摂取している人は、摂取が少ない人に比べて、うつ病が少ないことが明らかになった。

 食物繊維を多く食べている人は、認知症リスクが低いという研究も発表されている。

 腸内の善玉菌を増やす方法として、大きく2つが知られている。

「腸内細菌」は健康に大きく影響

 ヒトの腸内には、「腸内細菌」が棲んでいて、その腸内細菌は1人あたり1,000種類以上、数にして100兆個にも達するとみられている。

 顕微鏡で腸内細菌をみると、それらはまるで植物が群生している「お花畑(フローラ)」のようにみえることから、腸内フローラと呼ばれている。

 近年の研究で、腸内フローラはさまざまな全身的な疾患に関連しており、健康に密接に関わり、肥満やメタボ、糖尿病などにも影響していることが分かってきた。

 食事の選び方やタイミングは、腸内に棲んでいる細菌のバランスなどを変化させ、腸内環境に大きな影響をもたらす。

食物繊維が善玉菌のエサに 「脳腸相関」に注目

 腸内環境と脳機能は相互に作用しあっており、この関係は「脳腸相関」と呼ばれ、心身の健康維持で重要な役割をになっていると注目を集めている。

 腸は「第2の脳」とも呼ばれる、独自の神経ネットワークをもっており、生物にとって重要な器官である脳と腸が、互いに密接に影響を及ぼしあっていることが分かってきた。

 腸内細菌が人の心の健康に及ぼす影響については、腸内細菌の代謝や情報伝達など、新たな研究成果が発表されている。

 脳腸相関を改善することで、メンタルヘルスも改善できる可能性がある。そのカギとなるのは、「食物繊維」を十分に摂ることだ。食物繊維が腸内の善玉菌を増やし、体に良い代謝物質が増えると考えられている。

食物繊維を多く食べている人はうつ病が少ない

 腸内細菌が、脳機能にも影響をもたらすという研究は増えている。善玉の腸内細菌を増やすために、食物繊維の多い野菜や果物・大豆などを食べるのが効果的で、食物繊維の特性や摂り方についても関心が高まっている。

 野菜や果物から食物繊維を多く摂取している人は、摂取が少ない人に比べて、うつ症状が少ないことが、国立国際医療研究センター(NCGM)などの研究で明らかになっている。

 腸内細菌は、食物繊維などをエサにして、「短鎖脂肪酸」を作っている。短鎖脂肪酸は、細胞のエネルギー源になり、抗炎症作用などの生理効果も発揮し、腸内環境を改善する良い働きをすることから注目されている。

 研究グループは、職域健康栄養コホート研究である「古河栄養健康研究」に参加した、関東の企業に勤める18歳~70歳の男女1,977人を対象に、健康診断と食事調査を実施。

 その結果、野菜・果物由来の食物繊維の摂取量がもっとも多いグループでは、もっとも少ないグループに比べて、抑うつ症状が0.65倍に減少することが分かった。

 その理由として、野菜や果物に含まれる食物繊維は、穀類に含まれる食物繊維に比べて、発酵しやすく、発酵により産生される短鎖脂肪酸が、抑うつ症状を引き起こす炎症を抑制しているメカニズムが考えられている。

食物繊維を多く食べている人は認知症リスクも低い

 食物繊維を多く食べている人は、認知症リスクが低いという研究も発表されている。筑波大学の研究で、⾷物繊維を多く摂っている⼈は、認知症になる確率が0.74倍に減少することが示された。

 食物繊維は、水に溶ける「水溶性」と水に溶けにくい「不溶性」がある。このうち水溶性食物繊維は、ネバネバした形状をもち、胃腸内をゆっくり移動していくため、糖質の吸収をゆるやかにして、食後血糖値の急な上昇を抑える。

 研究では、とくに水溶性食物繊維を多く摂っている人で、要介護認知症の発症リスクがより低下する傾向がみられた。

 ⾷物繊維の摂取が、腸内細菌の構成に影響をもたらし、神経炎症を改善したり、認知症の危険因⼦を減らすことで、認知症の発症リスクを低下させている可能性がある。

 研究グループは、日本人の健康に関するコホート研究「CIRCS研究」に参加した40~64歳の3,739人を対象に、最大21年間にわたって追跡して調査した。

 水溶性食物繊維は、コンブやワカメなどの海藻類、大豆、大麦、野菜や果物、イモ類、コンニャクなどに含まれている。

腸内の善玉菌を増やす2つの方法

 食物繊維は、肥満やメタボのある人の食事でも大いに活用したい栄養素だ。日本人の食事摂取基準(2020年版)では、食物繊維の目標量は、18~64歳では1日に男性21g以上、女性18g以上とされている。

 食物繊維は、脂質やコレステロールなどの吸収を抑えることで動脈硬化を予防し、その結果として心筋梗塞や脳卒中など、心血管疾患を予防することが期待できる。

 また、食物繊維が多い食品は、よく噛んで食べるために満腹感を得やすく、食べ過ぎを防いで肥満やメタボの予防にもつながる。

 それに加えて、食物繊維は腸内細菌のバランスも良くする。それにより血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きやすい体質になることも分かってきた。

 腸内の善玉菌を増やす方法として、大きく2つが知られている。

善玉菌のエサとなる食品を積極的に食べる[プレバイオティクス]

 野菜・穀類・玄米・大麦・大豆・海藻・イモ類・キノコ類・果物などに含まれる食物繊維は、消化されずに腸まで届き、善玉菌の栄養になる。

 また、オリゴ糖も、ビフィズス菌などの善玉菌の栄養となり、それらを増やす効果がある。

 食物繊維を含む食品を積極的に取り入れることで、腸内の善玉菌を増やし、その働きを活発にし、腸内環境を改善することを期待できる。

ヨーグルトや漬物などの発酵食品を食べる[プロバイオティクス]

 ヨーグルトや漬物などの発酵食品には、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が多く含まれている。これらの食品を摂取することで、腸内の善玉菌を増やせる。

 日本食は、ヨーグルトやチーズなどの発酵食品に加えて、納豆・味噌・醤油・お酢・ぬか漬けなど、発酵食品が豊富にあるのが特長のひとつだ。

Dietary fiber intake and depressive symptoms in Japanese employees: The Furukawa Nutrition and Health Study (Nutrition 2016年5月)
Dietary fiber intake and risk of incident disabling dementia: the Circulatory Risk in Communities Study (Nutritional Neuroscience 2022年2⽉6⽇)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]