「肥満解消」に成功した人に共通する生活スタイルとは? 保健指導が重要 肥満予防に向けて前進

 体重減少や体重管理に成功した人は、共通して行っていることがあることが、2万人以上を対象とした調査で明らかになった。

 過体重や肥満のある人は、体重をわずか5%減らしただけでも、血糖値・HbA1・血圧・中性脂肪・悪玉のLDLコレステロール・善玉のHDLコレステロール・肝臓の機能などの改善を期待できるという。

肥満を解消して心筋梗塞や脳卒中などを予防

 食事や運動などの健康的な生活スタイルを、可能な範囲内で実行していくことで、減量や健康的な体重の維持につながることが、米オハイオ州立大学が2万人以上の米国成人のデータを分析した研究により明らかになった。

 高度の肥満のある患者では、食事の量を減らしたり、肥満症の治療薬による薬物療法が必要になることもあるものの、肥満やメタボのある人の多くは、体重を5%減らすことで、糖尿病や高血圧を予防・改善でき、心筋梗塞や脳卒中などの予防につなげることが可能だとしている。

 米国心臓学会(AHA)が提唱している、健康的な生活スタイルを8項目にまとめた「ライフ エッセンシャル 8」が、食事や運動、体重管理など、すぐに取り組める生活改善の指南になるとしている。

体重減少や体重管理に成功する人に共通してみられる特徴は?

ライフ エッセンシャル 8

1 食事療法
 野菜や果物などの植物性食品を十分に食べ、油の少ない肉、魚、大豆など、体に悪い脂肪が少なく、良質なタンパク質の含まれる食品を食べる。塩分を控え、糖質は植物繊維の多く含まれる全量穀類を摂るようにする。

2 運動と身体活動
 成人は週に150分以上のウォーキングなどの中強度の運動、あるいは筋トレなども組合わせた週に75分の活発な運動を行うことを推奨している。座ったまま過ごす時間が長引いたときは、それを中断し、立ち上がって体を動かすことも大切。

3 健康的な体重
 成人では体格指数(BMI)が18.5~24.9であると、心血管の健康が良好になりやすい。低体重(やせ)にも注意が必要だが、肥満やメタボのある人は体重を減らすことで心血管疾患や2型糖尿病などのリスクを下げられる。  体格指数(BMI)は、簡単に計算でき、広く利用できる利点があるものの、体重管理では十分ではなく、内臓脂肪(へその高さで計る腰回りの大きさ)を減らすことも含めて対策する必要がある。

4 血中脂質の管理
 血中脂質(コレステロールや中性脂肪)を適正にコントロールすることも大切。最近は、総コレステロールだけではなく、non-HDLコレステロール(総コレステロールから善玉のHDLコレステロールを引いたもの)も管理対象となっている。

5 血圧値の管理
 血圧は、最高(収縮期)血圧は120mmHg未満、最低(拡張期)血圧80mmHg未満が最適。最高血圧130~139mmHg、最低血圧80~89mmHgであると、血圧は高めで、これまで通りの生活を続けていると高血圧へと移行しやすいので注意が必要となる。血圧が高い場合は、食事や運動などの生活習慣を見直す。

6 血糖値の管理
 血糖値が高い状態が続いても、自覚症状がなかったり気付かない場合があるが、長期間放置していると心臓・腎臓・目・神経などに障害がでてくる。1~2ヵ月の血糖値の平均を反映するHbA1cを測定することが推奨されている。HbA1cは、長期的な血糖コントロールの指標にもなる。糖尿病の人は、合併症を予防するために、HbA1c7.0%未満を維持することを目指す。

7 喫煙と受動喫煙の害を避ける
 これまでは、可燃式タバコのみが危険とされていたが、新たに登場した電子タバコも健康にとって有害であることが分かってきた。タバコを吸う習慣のある人は禁煙を。受動喫煙も危険なので、なるべく避けるようにする。

8 睡眠の改善
 質の良い睡眠をとることも大切。睡眠の質や時間が十分で、休息をとれていると、心筋梗塞や脳卒中のリスクが低下することを示した研究は増えている。1日の理想的な睡眠時間は、成人では7~9時間。
 研究グループは今回、米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した2万305人の米国成人のデータを分析した。研究成果は、「Journal of the American Heart Association」に発表された。

 健診で血圧・コレステロール・血糖値などを測定するとともに、食事内容、身体活動、毎日の体重、睡眠時間、喫煙習慣、体重の変化についても調査した。

 その結果、過去1年間に体重を5%減らすのに成功した人は14%(2,840人)と少数だった。参加者の「ライフ エッセンシャル 8」の実行スコアの平均は、100点中60点だった。

 「これは、多くの人は、生活のなかで取り組みやすいことを改善していくことで、スコアを高められる可能性があることを示しています」と、同大学健康リハビリテーション学部で臨床栄養学を研究しているコリーン スピース氏は言う。

 体重減少や体重管理に成功した人に共通してみられることとして、▼食事の質が高い(良質なタンパク質を摂っていて、吸収が早く血糖値を上げやすい精製された穀類や糖質の摂取は少ない)、▼運動を習慣として行っている、体を活発に動かしている、▼悪玉のLDLコレステロールの値が低いといったことが挙げられた。

 一方、体重管理が難しく肥満を解消できていない人では、▼HbA1cや血糖値が高い、▼睡眠時間が短いことなどが、とくに障害になっていることが示された。

体重をわずか5%減らしただけでも効果がある

 過体重や肥満のある人は、体重をわずか5%減らしただけでも、▼血圧、▼中性脂肪、▼悪玉のLDLコレステロール、▼善玉のHDLコレステロール、▼血糖値、▼HbA1c、▼尿酸値、▼肝臓の機能を示すAST、ALT、γ-GTPなどの改善を期待できるという。

 たとえば体重80kgの人では、体重の5%は4kg。わずかな減量で達成可能な目標であり、その効果は大きい。

 「臨床的に有意な体重減少は、多くの健康指標の改善をもたらします。体重をわずか5%減らしただけでも、効果を期待できることは、多くの人に希望をもたらします。5%の減量は、やる気をもって取り組めば、ほとんどの人にとって達成可能です」と、スピース氏は言う。

 「ライフ エッセンシャル 8 は、心臓血管の健康を高め、心筋梗塞などの心血管疾患や、脳卒中などの脳血管疾患を予防するための、効率の良いツールになります。少しの行動の変化を起こし、生活スタイルを改善していくことで、長期的には大きな差が出てきます」としている。

保健指導が重要 予防に向けて前進することが必要

 「肥満は、食べ過ぎや運動不足が要因であるなど、ときにマイナスのイメージでみられることがあります。しかし、現代人にとって、肥満や肥満症が自己責任のみによるという考え方は誤りであり、けっしてマイナスのイメージで捉えられるべきものではありません」と、スピース氏は指摘する。

 「肥満の背景には、社会や環境による要因や、遺伝因子による個人差などもあり、当人の努力だけでは解決できないこともあります。そうした場合は、医師や管理栄養士、理学療法士などの力を借りながら、必要に応じて薬物療法も受けられるようになっています」。

 「私たちは、人々が病気と診断されるまで待つのではなく、病気の予防に向けて前進することが必要と考えています。そのために適切な保健指導が重要です。これは簡単なことではなく、ときには"私はもう手遅れだ"と諦めてしまう人もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません」。

 米国政府の推定によると、2030年までに米国成人の85%以上が過体重や肥満になる可能性がある(現在は73%)。これに関連して、耐糖能障害・脂質異常症・高血圧などが増え、多くの人が冠動脈疾患・心筋梗塞・脳梗塞・脂肪肝などのリスクが上昇するとみられている。

 「心臓病などの健康障害の増加を防ぐために、パラダイム転換が必要です。予防への転換に舵をとるべきなのは今なのです」と、スピース氏は強調している。

Behavior patterns of people who achieve clinically significant weight loss (オハイオ州立大学 2023年5月2日)
Differences in Adherence to American Heart Association's Life's Essential 8, Diet Quality, and Weight Loss Strategies Between Those With and Without Recent Clinically Significant Weight Loss in a Nationally Representative Sample of US Adults (Journal of the American Heart Association 2023年4月7日)
Life's Essential 8: Your checklist for lifelong good health (米国心臓学会)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]