運動をして座位時間を減らすと「乳がん」のリスクは低下 女性は積極的に運動を

 女性の乳がんのリスクは、座ったまま過ごす時間を減らし、運動や身体活動を増やすことで減少できることが、英国のブリストル大学医学部などのこれまでにない大規模な調査で明らかになった。

 「乳がんは、女性のがんでもっとも一般的にみられる、負担の大きい深刻な疾患です。がんの危険因子となる運動不足を解消し、身体活動を増やし、座ったままの時間を減らすため、生活スタイル改善に重点を置いた保健指導を強化することが必要となります」と、研究者は強調している。

座位時間を減らし、運動や身体活動を増やすと、女性の乳がんリスクは低下

 女性の乳がんのリスクは、座ったまま過ごす時間を減らし、運動や身体活動を増やすことで減少できることが、英国のブリストル大学医学部などの大規模な研究で明らかになった。

 研究は、オーストラリアのビクトリア州がん協議会が主導し、英国のブリストル大学がポピュレーション健康科学として解析したもの。研究成果は、「British Journal of Sports Medicine」にオンライン掲載された。

 研究グループは、欧州系の女性13万957人のデータを解析した。うち6万9,838人は浸潤性の乳がん、6,667人は非浸潤性の乳がんで、5万4,452人は乳がんを発症していない対照群だった。

 対象となった女性は、乳がん協会コンソーシアム(BCAC)に支援されている76件の研究に参加していた。このコンソーシアムは、乳がんの遺伝的リスクについて調べている多くの研究者により構成されている。

 研究グループは、40~69歳の中高年約50万人を対象に追跡して調査している大規模研究である英国バイオバンクの膨大なデータベースも利用し、身体活動と座位時間の影響を遺伝的に解明する解析を行った。

身体活動の多いと乳がんリスクは41%減少 座位時間が長いとリスクは2倍に増加

 研究グループは、乳がんを予防する方法として、運動や身体活動が有効であることを、メンデルのランダム化解析により明らかにした。

 解析した結果、身体活動の全体的なレベルがもっとも高い女性は、浸潤性の乳がんのリスクが41%低くなることが明らかになった。閉経、がんの種類、病期、悪性度などに関わらず、この傾向がみられた。

 また、週に3日以上の活発な身体活動をしている女性は、あまり体を動かしていない女性に比べ、乳がんのリスクが38%低下した。この傾向は、閉経前/閉経後を含め、ほとんどのグループで一貫してみられた。

 さらに、座ったまま過ごす時間の長い女性は、トリプルネガティブ乳がんのリスクが104%高くなった。この傾向は、ホルモン陰性のがんタイプ全体で一貫してみられた。

 これらのことは、たとえば喫煙や過体重など、明らかに無関係な2つ以上の因子(多面的発現性)の単一遺伝子による産生を考慮した後も変わらなかった。

生活スタイル改善に重点を置いた保健指導が必要

 今回の研究結果は、女性が全体的に身体活動を増やし、座ったままの時間を減らすことで、乳がんのリスクを減少できる可能性が高いことを示す「強力な証拠」になるとしている。

 「女性は、将来の乳がん発生率を下げるために、運動や身体活動を積極的に行うべきです」と、ビクトリア州がん協議会のがん疫学部門の副部長であるブリジッド リンチ氏は言う。

 「乳がんは、女性のがんでもっとも一般的にみられる、負担の大きい深刻な疾患です。がんの危険因子となる運動不足を解消し、身体活動を増やし、座ったままの時間を減らすため、生活スタイル改善に重点を置いた保健指導を強化することが必要となります」としている。

メンデルのランダム化解析で解明

 これまでの観察研究でも、運動不足と座りがちな行動が、がんのリスクを高めることに関連していることが示されていたが、それらが乳がんのリスクとも関連があるかはよく分かっていなかった。

 今回採用したメンデルのランダム化解析は、ゲノム情報で予測した因子(この場合は、生涯にわたる身体活動レベルと座りがちな行動)と疾病リスクとの関連を推計することで、従来の観察研究で課題になっていた交絡に対処しようとする方法。

 研究グループは、身体活動と乳がんリスクとのあいだには、過体重/肥満、代謝障害、性ホルモン、炎症など多くの因果経路があることを指摘し、今回の発見について生物学的に説明できると指摘している。

 「身体活動や座りっぱなしの時間を、がん発症と結びつけるメカニズムは、部分的に重複する可能性が高い」と研究者らは示唆している。

 「身体活動ががんのリスクにどのように影響するかを検討し、身体活動が他の部位のがんに与える影響についても調査するため、さらなる研究が進行中です」としている。

乳がんのさまざまなタイプ別に解析

 研究グループは今回、女性に閉経前/閉経後に応じて、乳がんの全体的なリスクを推定した。乳がんの種類(女性ホルモンであるエストロゲン/プロゲステロンの陽性/陰性、HER2型陽性/陰性、トリプルネガティブ)、病期(腫瘍の広がりの大きさと範囲)、および乳がんの臨床病期(腫瘍細胞の異常の程度)によって分類した。

 これらの症例対照群は、浸潤性乳がんを有する閉経前後の女性2万3,999例と、そうでない対照群の女性1万7,686例、閉経後の乳がん患者4万5,839例、そうでない対照群の女性3万6,766例で構成された。

 全体で、4万6,528例のエストロゲン受容体陽性腫瘍群と、1万1,246の対照群、3万4,891例のプロゲステロン受容体陽性腫瘍と1万6,432例の対照群、6,945例の HER2陽性腫瘍と3万3,214例の対照群、1,974例のトリプル ポジティブと4,964例のトリプルネガティブとで比較した。

 また、4万2,223例が浸潤性の乳管/小葉がん群で、8,795例が対照群、3,510例が非浸潤性乳管がんだった。ステージ1のがんは1万7,583例、ステージ2のがんは1万5,992例、ステージ3~4のがんは4,553例、34万647例は中程度の異常細胞腫瘍、1万6,432例は高度に異常な細胞腫瘍だった。

Boosting physical activity/curbing sitting time highly likely to lower breast cancer risk (ブリストル大学 2022年9月6日)
Physical activity, sedentary time and breast cancer risk: a Mendelian randomisation study (British Journal of Sports Medicine 2022年9月6日)