世界肥満デー 肥満や過体重に対する誤解や偏見に"思いやり"で対策 社会的な取り組みが必要

 肥満や過体重とともに生きる人々は、2型糖尿病、高血圧、心血管疾患、特定のがんなどの慢性疾患のリスクが上昇する。さらに肥満は、新型コロナに感染した場合の重症化リスクも高める。

 一方で、「さまざまな要因が肥満に複雑に影響しており、肥満の人の努力だけでコントロールするのは難しい。社会的な取り組みが必要です」と、研究者は指摘している。

 医療従事者ですら半数以上は、「肥満は、怠惰な生活や、意志力の欠如に起因する」という誤った理解をしている。こうした誤解や偏見を改善する必要があるという。

 「肥満の治療では、患者への思いやりがあり、エビデンスにもとづく、患者中心のケアが重要です」と強調している。

肥満は糖尿病や新型コロナのリスクを高める

 世界肥満連合(WOF)は、3月の「世界肥満デー(World Obesity Day)」に、肥満とともに生きる人々は、2型糖尿病、高血圧、心血管疾患、特定のがんなどの慢性疾患のリスクが上昇すると発表した。

 肥満は病気だ。肥満は世界保健機関(WHO)によって「異常あるいは過度の脂肪の蓄積により健康リスクが高まった状態」と定義されている。

 世界で肥満とともに生きる人の数は8億人。肥満による世界の医療の経済的影響は、2025年までに115兆円(1兆ドル)以上に達すると予測している。

 さらに世界中で、新型コロナの拡大が深刻な影響を及ぼしている。肥満の人が新型コロナに感染した場合、重症化し入院が必要となるリスクは、肥満でない人の2倍に高まる。

肥満の原因は意志力の欠如ではない 社会的な取り組みが必要

 肥満は、一般的には身長と体重により算出されるBMI(体格指数)により測定されるが、腹腔内の腸のまわりに脂肪が過剰に蓄積する内臓脂肪型肥満も健康リスクを高める。

 WOFによると、肥満は体質、メンタルヘルス、遺伝的リスク、環境、医療サービスへのアクセス、超加工食品の過剰な利用など、さまざまな要因によって引き起こされる。社会的な要因の影響も大きく、決して当人の不健康な生活スタイルや、意志力の欠如だけが原因であるわけではない。

 一般的に、肥満を改善するために、「食べる量を減らし、もっと体を動かす」ことが基本だとみられているが、これは食事療法と運動療法による体重コントロールのみに焦点をあてたもので、肥満の原因になる他の要素について目を向けていないとしている。

 「確かに、食事と運動は全体的に、健康に対し重要な役割を果たしていますが、肥満をコントロールするためには、それだけでは十分ではありません」と、全国肥満者協会(ASEPO)のジーザス ハビエル ディアス氏は言う。

 「肥満には、生物学・遺伝・社会的環境などのさまざまな要因が複雑に影響しています。肥満の人の努力だけでコントロールできるものではなく、社会的な取り組みが必要です」としている。

世界肥満デー「ともに力を合わせて、世界で挑戦」

肥満に対する誤解や偏見の改善が必要

 多くの国では、肥満とともに生きる人は、不当なスティグマを背負わされているとしている。「スティグマ」とは、もともとは汚名や烙印という意味があり、日本では「差別や偏見」と理解されることが多い。

 肥満は個々の責任によるものだと理解されることが多く、それが肥満とともに生きる人の精神的・肉体的な幸福を傷つけ、さらには必要な医療サービスを受けるのを妨げている可能性があるとしている。

 しかし、肥満の原因は、「就職・結婚・出産・子育て・介護などのライフイベント」「遺伝的な影響」「ストレス」「メンタルヘルス」「食事」「運動不足」「睡眠」「生活リズムの変調」「住環境」「社会経済の影響」などさまざまだ。

 「肥満症の治療では、患者への思いやりがあり、エビデンスにもとづく、患者中心のケアが重要です」と、米国のバッファロー大学が発表している。

 医療従事者ですら半数以上は、「肥満や過体重は、患者の怠惰な生活スタイルや、意志力の欠如に起因する」という誤解や偏見をもっていると指摘している。

 「肥満症の治療は、多くは食事に偏っていますが、遺伝的な背景や、運動や体脂肪の減少などを含めた、生活スタイル全体の指導が求められ、摂食障害への注意も必要です」と、同大学公衆衛生保健学部のキャサリン バランテキン氏は述べている。

世界肥満デー2022「すべての人は行動を」
世界肥満連合が公開しているビデオ

体重増加は避けられないもの?

 肥満や体重増加は、中年男性に落胆と自尊心の低下というネガティブな感情をもたらし、多くの男性は「体重増加は避けられないものだ」と諦めていることが、英国のアングリア ラスキン大学などの研究で示された。

 男性の肥満の原因として大きいのは、家庭や仕事での悩みやストレスだという。研究グループは、35~58歳の男性8人に詳細なインタビューを行い、食事と肥満の関係、体重が増えた理由、健康への関心、体重を減らそうとしたことはあるか、自分が肥満や過体重であることをどう感じているかなどを尋ねた。

 BMIが38.9の43歳の男性は次のように述べている。
 「若い頃は、とても活発に体を動かし、よく子供たちとサッカーをしていました。しかし、もう若くもない年齢になり、運動量は低下しましたが、食事は若い頃から変わっていません。明らかに食べ過ぎています」。

 もう1人の、BMIが39.6の43歳の男性はこう話している。
 「会社では管理職に就いていて、仕事のプレッシャーは大きいです。より多くの仕事と責任が任されており、自由な時間をとりにくくなりました。気が付いたら、食事を柔軟に調整できなくなっていました」。

体重コントロールを社会的に支援する仕組みも必要

 肥満や過体重のある男性の多くは、体重コントロールについての自己評価が低く、自尊心を喪失しており、自己客観化もできなくなっているという。食事スタイルを変えるなどして、健康的な生活をすることが必要だと頭では理解していても、実際に行動するのは難しいと感じている。

 英国では、16歳以上の男性の3分の2が、BMIが25以上の過体重か、BMIが30以上の肥満だ。さらに、35~64歳の成人の31%が肥満だ。

 「公衆衛生で肥満対策のキャンペーンを行っているにも関わらず、男性の肥満は増加しています。体重増加を引き起こす要因、食事や運動などの生活スタイルの関係について良く理解すれば、体重コントロールは成功しやすいのですが、多くの人は行動変容を起こすための時間が不足しています。持続可能な体重コントロールの実践が必要です」と、同大学公衆衛生学部のマーク コルトナージュ氏は述べている。

 「体重を減らすのが難しく、それを維持するのはさらに難しいと感じている人は多くいます。そうした人は、自分の力だけで体重を減らすのは容易ではありません。効果的に体重をコントロールできるよう、社会的に支援する仕組みも必要です」と、英国公衆衛生サービスの主任栄養士であるアリソン テッドストーン氏は述べている。

世界肥満デー(World Obesity Day)(世界肥満連合)
ASEPO's call to media, medical and governmental groups: Everybody Needs to Act! (世界肥満デー)
Researchers call for a patient-centered approach to treating obesity (バッファロー大学 2022年2月24日)
Patient-Centered Care for Obesity: How Health Care Providers Can Treat Obesity While Actively Addressing Weight Stigma and Eating Disorder Risk (Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics 2022年1月13日)
Middle-aged men see weight gain as inevitable (アングリア ラスキン大学 2022年2月15日)
Onset of Weight Gain and Health Concerns for Men: Findings from the TAP Programme (International Journal of Environmental Research and Public Health 2022年1月5日)