「家事」のアンチエイジング効果 脳を活性化でき足腰も強くなる 男性も家事をするべき

 掃除や洗濯などの家事を行うことは、記憶力や注意力を高め、足腰を強くし、高齢者の転倒予防につながるという調査結果が発表された。

 家事を多く行っている人は、あまり行っていない人に比べ、認知能力のスコアが高かった。軽い家事を行っていると5%、重い家事を行っていると8%、それぞれ認知能力は高かった。

 研究者は、「1日に数時間の家事に従事することは、健康に有益である可能性があります」とコメント。一方で、世界的に家事の負担が女性に偏っている現状についても指摘している。

家事を積極的に行うと運動不足を解消できる?

 まだまだ寒い日が続き、新型コロナの拡大の影響もあり、外出自粛やリモートワークにより、自宅で過ごす時間が増えた人が多い。

 ウォーキングなどの運動や身体活動を習慣として行うことは、体と心の健康を維持するのに効果的だ。とくに高齢者にとって、運動をすることは、転倒・不活発・依存・死亡のリスクを長期的に減少するためにとても重要になる。

 しかし、世界的な調査によると、多くの人は運動不足で、推奨される1週間の身体活動レベルをはるかに下回っており、10年間でほとんど改善していない。とく高所得国に住む人は、座りっぱなしの不健康な生活をしているカウチポテト族が多く、コロナ禍でこの傾向がさらに高まっている。

 一方、家事は身体活動をともなう、立派な身体活動になるとみられている。家事をできることは、自立して生活する能力の指標にもなる。

 ウォーキングは、脂肪燃焼、糖尿病などの予防・改善、脳の活性化などに効果的だが、家事を活発に行うことも、運動不足の解消につながり、脳の活性化も期待できる。

 そこで、シンガポール工科大学やシンガポール国立大学の研究グループは、大きな住宅街に住む21歳から90歳の成人489人を対象に調査を行った。対象者は5つ未満の基礎疾患をもち、認知症を発症していなかった。

家事はウォーキングに匹敵する立派な運動

 研究グループは、参加者を年齢層により2つのグループに分けた。若い人のグループは21~64歳(平均年齢44歳)で、高齢者のグループは65~90歳(同75歳)だった。

 身体能力を評価するために、それぞれ椅子からの歩行速度や座った状態から立ち上がる速度などを測定した。これにより脚の強さや転倒リスクが分かる。認知機能(記憶力・注意力・視空間認知能力・言語能力など)や、メンタルの敏捷性についてもテストを行った。

 さらに、習慣として行っている家事の種類、強度や頻度、家事以外に行っている運動や身体活動について、アンケート調査を行った。

 このうち軽い家事とは、たとえば洗濯、から拭き、ベッドメイク、洗濯物干し、アイロンかけ、片付け、料理などだ。これに対し、やや負担の重い家事は、掃除機かけ、窓ふき、床洗い、ベッドのシーツ交換、家具の移動、野菜や花を育てるガーデニングなどがある。

 研究グループは家事の強度を、運動や身体活動の強度の単位であるメッツ(METs)で測定した。メッツは、安静時を1としたときと比べて何倍のエネルギーを消費するかで身体活動の強度を示したもの。それによると、軽い家事は2.5メッツで、重い家事は4メッツに相当するという。

 家のなかを歩くと2.0メッツ、やや早歩きをすると3.5メッツくらいで、家事はそれに相当する立派な運動であり、体だけでなく頭も使って行うものだとしている。

 研究に参加した人のうち、運動ガイドラインで推奨されている運動量を、ウォーキングなどの余暇時間に行う運動だけで満たしていたのは、若い人ではおよそ3分の1(36%)で、高齢者ではおよそ半分(48%)だった。

 一方で、家事だけで必要な運動量を満たしていたのは、ほぼ3分の2(若い人の61%、高齢者の66%)だった。

家事を行っている高齢者は認知能力のスコアが高い

 習慣として行っている運動や身体活動、家事、認知機能の評価などを調整して解析した結果、高齢者のみで、家事を行うことは、より良好な認知能力や精神的能力、さらにはより良好な身体的能力と関連していることが明らかになった。

 家事を多く行っている高齢者では、あまり行っていない高齢者に比べ、認知能力のスコアが高い傾向がみられた。軽い家事を行っていると5%、重い家事を行っていると8%、それぞれ認知能力は高かった。

 さらに、家事の強度により、影響を受ける認知領域に特徴があることも分かった。軽い家事をしている高齢者は、数分から数時間の「短期記憶」が12%、数日から数週の「長期記憶」が8%、それぞれ高くなった。一方、重い家事をしていると、注意力を示すスコアが14%高くなった

 同様に、座位から立位までの時間やバランス能力も、軽い家事をしている高齢者は8%、重い家事をしている高齢者は23%、それぞれ高かった。

 なお、若い人ではこうした関連はみられなかった。研究に参加した若い人は、高齢の人に比べ、教育を受けた期間が平均5年以上長かった。教育レベルは精神的な敏捷性や、認知機能の低下の遅延と関連があるので、これが2つのグループでの家事がもたらす影響の違いにつながった可能性があるとしている。

家事を積極的にとりいれて認知能力と身体的能力を高める

 これは観察研究であり、詳しいメカニズムについては分かっていないとしながらも、研究者は「これまでの研究で、ウォーキングなどの有酸素運動を行っていると、認知機能が改善することが報告されています。家事についても、同じようなメカニズムにより、精神的敏捷性を高める効果がある可能性があります」と述べている。

 「高齢者が家事を行うことは、認知能力や身体的能力を高め、感覚運動機能を良好にして、生理学的な転倒リスクを低下させるのに役立っていると考えられます」。

 「家事を日常生活でのわずらいごとと捉えずに、運動や身体活動の一部として積極的に生活にとりいれていけば、認知能力や身体的能力を高く維持できる可能性があります。とくに地域に住む高齢者の機能的健康を高めるうえで朗報となります」としている。

男女の家事の格差は世界的に大きい 女性の負担を軽くすることが必要

家事をしている人は健康的

 男性と女性とでは、家事の負担が平等ではないという研究も発表されている。欧州と米国で行われた調査では、年配の男性が1日に家事に費やす時間が平均して3時間なのに対し、女性は5時間も費やしていることが分かった。

 さらに調査では、家事をより多くしている人は、健康を感じやすいことも分かった。ただし、あまりに長時間の家事は睡眠時間の減少につながり、とくに女性で健康状態に影響するという。

 「1日に数時間の家事に従事することは、高齢者の健康に有益である可能性があります」と、ドイツのライプニッツ予防医学・疫学研究所のニコラス アジェイ氏は言う。

 「ただし、家事が多すぎて、睡眠時間が7時間未満と少なかったり、あるいは8時間以上と多い場合は、男女とも健康状態の悪化と関連しています」としている。

女性の家事の負担を軽くすることが必要

 研究グループは、ドイツ・イタリア・スペイン・英国・フランス・オランダ・米国の65歳以上の男性1万5,333人と女性2万907人のデータを解析した。

 その結果、調査の対象となったすべての国で、男性は女性よりも、掃除・料理・買い物などの家事に費やす時間が少なかった。男性は1日に88.7分を費やしていたが、女性は217.9分を費やしていた。

 年配の女性が家事にもっとも多くの時間を費やしていたのは、イタリアとドイツで1日約5時間。一方で、米国の女性は家事に費やす時間がもっとも少なかった。

 「平均余命が伸びている影響もあり、65歳以上の高齢者の数は世界的に増加しています。高齢者が晩年に健康に暮らしていくうえで、家事を行うこともプラスの影響をもたらします。家事における男女の格差をなくし、女性の負担を軽くすることも課題のひとつになっています」と、アジェイ氏は指摘している。

Housework linked to sharper memory and better falls protection in older adults (BMJ 2021年11月22日)
Cross-sectional associations of housework with cognitive, physical and sensorimotor functions in younger and older community-dwelling adults: the Yishun Study (BMJ Open 2021年11月)
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Investigating the associations between productive housework activities, sleep hours and self-reported health among elderly men and women in western industrialised countries (BMC Public Health 2018年1月11日)