歩くのが遅くなると高齢者のフレイル・リスクが上昇 フレイルを判定する簡便な方法に

 ウォーキングの速度をみることが、高齢者の「日常生活動作(ADL)」を調べる簡便な方法となることが明らかになった。

 歩行の遅れは、機能的能力の喪失より数年先行して起こるという。

 高齢者のフレイルを減らすことは、認知症を予防するための効果的な戦略となる可能性があることも分かった。

歩行速度をみれば高齢者の機能的能力がわかる

 ウォーキングの速度をみることが、高齢者の「基本的日常生活動作(BADL)」と「手段的日常生活動作(IADL)」を調べる簡便な方法となることが明らかになった。

 研究は、ブラジルのサンカルロス連邦大学が、英国のユニバーシティ カレッジ ロンドンと協力して行ったもの。研究グループは、英国に住む60歳以上の3,000人以上のデータを分析した。

 「今回の研究で、歩行速度を測定することは、高齢者の機能的能力の喪失を効率的に予測する、シンプルで安価な方法になることが示されました。歩行の遅れは、機能的能力の喪失より数年先行して起こります」と、同大学老年学部のティアゴ アレクサンドル教授は言う。

 「高齢者の機能的能力の低下リスクを早く知ることができれば、理学療法士、臨床医、老年学者などの専門職が早期に介入し、歩行の遅さの原因を調べ、日常生活動作の低下を防ぎやすくなります」としている。

 日常生活動作(ADL)とは、日常生活をおくるために最低限必要な日常的な動作で、着衣・移動・食事・入浴・トイレの使用などの動作のこと。このうち、「基本的日常生活動作(BADL)」は日常生活で必要な基本的な動作。その次の段階の動作が「手段的日常生活動作(IADL)」で、食事の準備・交通手段・服薬管理・財産管理なども含む。

簡便な方法で高齢者のフレイルを判定

 研究グループは、「英国加齢縦断研究」に参加者した、研究開始時にフレイルでなく、BADL障害がない1,522人、およびIADL障害がない1,548人を対象に、12年にわたり追跡した調査した。

 5つの要素でフレイル(虚弱)を判定し、それぞれを比較した結果、歩行の遅さだけが、男女のBADLとIADLのより良い予測因子であることが示された。

 多くの高齢者にみられるフレイルは、加齢にともない生理的予備力と機能低下に起因している。フレイルは臨床的に認識可能な状態で、転倒・入院・死亡のリスクが増加する。診断では一般的に、▼歩行速度の低下、▼握力の低下、▼身体活動レベルの低下、▼倦怠感・疲れ、▼意図しない体重減少などのパラメーターが測定される。

 フレイルは、5つの症状またはパラメーターにもとづき評価され、うち1つまたは2つをもつ高齢者はプレフレイルとして分類され、3つ以上をもつ高齢者はフレイルとして分類される。

 「フレイルは障害の同義語ではありませんが、機能的能力の喪失のリスク因子です。従来の方法は複雑であり、詳細な調査や測定機器などが必要となります。フレイルを判定するために、もっと簡便な方法が必要とされています」と、アレクサンドル教授は述べている。

 「問題が特定されるのが早ければ早いほど、それを治療するためにより多くのリソースとアプローチをもたらすことができます。高齢者にいくつかの日常活動での困難があらわれてから治療を開始したのでは遅い場合も考えられます。機能損失を予測するための、よりシンプルで安全で、安価なアプローチを提供することが重要です」としている。

フレイルがあると認知症リスクが上昇

 フレイル(虚弱)とは、加齢にともない心身の活力が低下し、要介護状態となるリスクが高くなった状態。フレイルの代表的な特徴は、歩く速さが低下していることだ。

 高齢者のフレイルを減らすことは、認知症を予防するための効果的な戦略となる可能性があることが、英エクセター大学などの別の研究で報告された。

 研究では、認知症の遺伝的リスクが高い人でも、フレイルが認知症の強力なリスク因子であり、健康的な生活スタイルによって予防・改善できる可能性が示された。

 研究グループは、英国バイオバンクに参加した60歳以上の19万6,000人以上のデータを用いた。参加者の遺伝的リスクを計算し、加齢にともなう症状・徴候・障害・疾患の蓄積を反映するフレイル・スコアを使用した。これを、健康的な生活スタイルについてのスコアと認知症発症データとあわせて解析した。

 その結果、認知症の多数の遺伝的決定要因を考慮したうえでも、フレイルのレベルが高い参加者では、レベルが低い参加者に比べ、認知症のリスクは、2.5倍以上(268%)高かった。

フレイルを改善し認知症を予防

 「脳にさまざまな異常を引き起こされる認知症のリスクは、遺伝的、神経病理学的、ライフスタイル、一般的な健康要因を反映しています。今回の研究は、認知症リスクに影響を与え、潜在的かつ修正可能な経路をもつフレイルの役割について理解を深めるものです」と、同大学老年医学・神経学のキャサリン ウェルドン教授らは言う。

 「食事や運動など、人生で有意義な行動をとることで、認知症リスクを大幅に減らすことができるというエビデンスは増えています。今回の研究で、フレイルを改善することが、認知症の遺伝的素因に関係なく、認知症を回避する可能性を高める可能性が示されました。フレイルの原因には予防可能なものがあります。健康的な生活スタイルをおくることで、それを部分的に実行することは可能です」と、ダルハウジー大学老年医学部のデビッド ワード氏は述べている。

Slowness of gait can predict risk of frailty in older people (サンパウロ研究財団 2021年12月21日)
Is slowness a better discriminator of disability than frailty in older adults? (Journal of Cachexia Sarcopenia and Muscle 2021年9月29日)
Reduce frailty to lower dementia, study finds (エクセター大学 2021年12月21日)
Frailty, lifestyle, genetics and dementia risk (Journal of Neurology Neurosurgery & Psychiatry 2021年12月21日)

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